80話「終再」
ポルネスに一歩づつ近づけば近づくほどその状態の悪さがよく理解できた。彼はただの人間に近いはずだ、神聖を纏っていてもそれは俺たちとは比べ物にならないほど小さい。それなのに、こいつは死に体の体をわざわざ引っ張って師を待つしかない絶望的な状況にも関わらず、自分の王を自分で打った。それが、どれほどの偉業になっているかはもはや語るまでもないんだ。
「ポルネス、おいっ!」
「………ナリタ様?」
目を瞑ったままのポルネスの体を少し起き上がらせる。
「──申し訳ありま、せん。もう目が……。」
「。」
ポルネスの掠れていく声はいつ死んでもおかしくない。ただそれなのに最後の最後まで俺たちと話そうとするその意思は、誰にも否定することができない決意の塊だった。
「ポルネス──貴方はっ」
「……カテナ、様。申し訳ありません。不祥ポルネス、ここまででございます。」
「ポルネス!」
「──耳も遠くなってしまいました。ですが、伝えるべきことはあります。勇者様方………」
ポルネスがカテナの声を聞いてか、少し柔らかい表情を浮かべた後、知っている真面目な顔に戻った。
「なんだ?」
「私は貴方達が、好きではありませんでした。世界を──平和にする貴方達は決まって、人に安寧をもたらすものでは、、なかったからです。私は、それが憎かったのです。ですが………ぁ、それはもう今はありません。」
「…………。」
「ですが、ですが、、決して心を痛めないで。短い時間、貴方達と王と対峙した時──私は理解しました。貴方達は間違いなく人であると、神の使徒と呼ばれても、超人と呼ばれても、人ならざるものと呼ばれても、、人なのです。ですから、不可能があるのは当然で、そして私達人間より、少しだけ強くて、決して揺るがぬ心を持っているだけなのです。」
ポルネスは瀕死にも関わらず、自分の言いたいことを誰に聞いて欲しいわけでもなく、ただただ一人で語るだけだ。俺たちはそれを追悼の意を込めてただ見送るだけだった。
「だから、決して諦めないでください。その先に暗雲が続いて、、いようとも。。。」
「………あぁ。」
「────さいごに、わたしは貴方達、勇者と戦えて、光栄……でした、仮初の翼ではばたけた、ようでした、、わたしも、、、わたしも、、、、わたしも、、、、きっと───」
「勇者に─────なれ、たで。しょ……う。」
ポルネスはその言葉を最後に言った。そしてここに命を散らした。言葉は小さく誰も聞き取れるものじゃなかった。だがたとえ聞き取れなくてもその固く貫き通した意思は俺たちの心にしっかりと伝わっていた。だから、たとえ本人がもう聞けなくても俺はハッキリとした声でこう返す。
「あぁ、お前は──今。勇者になったんだ!」
最後のポルネスの顔は安らかだった。熱のこもっていた体は少しずつその体からあるものをなくしていく。人を救う存在を夢見て、誰よりも勇者のように誇り高い精神を纏った男は最後に偉業を成し遂げ、人でありながら勇者となった。
俺がポルネスに感じたのは悲しみとかじゃない。ただただその決意に感服するだけだった。だから、この勇者の前で涙は流せないし、この勇者のしたことを振り返れるわけじゃない。
もうこうしている合間にも、一歩一歩と着実に時間は進んでいた。
[バァン!!」
「国王様!!国王様ーーーーァ!伝令です!どうかお聞きくださぁぁぁい!!」
扉を蹴破るかのような必死に満ちた表情で入ってくるボロボロの兵士が一人、その格好から伝令係の兵士であることを見抜いた俺は、耳を傾けた。
「────っ、これは!?勇者、、様が?あ!何が起こって!!!?」
戦闘によって破壊され尽くした王の間を見て兵士は息を呑む、そして国王の死体を見てさらにパニックになりかけるも
「───落ち着きなさい!!私は王女カテナ、これから王の代わりを務めるものです!命令です、何が起こったか伝えなさい!!」
カテナが咄嗟にそう言ったことで、兵士は敬礼をして理解を後回しに失礼しました!っと大きな声で答えた。王の代わりを務めるなんて俺はカテナに願ってない、だから、多分これは彼女なりの付け方なんだろうって理解した。
「ハイ!人魔戦線にして、魔族の兵器によって!!宮廷魔術師、トーマスが戦死いたしましたッ!!!!」




