79話「その血を捧げる者」
「ハハハ───!!」
高笑いしながら無数の魔法陣を展開して国王、そこから放たれる千の魔法攻撃を掻き分けながら、俺たちは距離を詰めようとしていた。
だが攻撃頻度、攻撃手数、攻撃種別、何を取っても国王は俺たちに全く引けをとっていなかった。
「くそっ!」
目の前にできた一本道を駆け走ろうとしたら、そこには大量の置き魔法陣が展開されている。そのまま進んでいたのなら俺は間違いなく集中砲火を受けていた。
こっちはチェスのコマみたいに誘導されるのに対して、向こうは椅子にふんぞり返ってただただ戦況を見て余裕の表情。
「"ひれ伏せ"」
「──っ!」
前線の俺と靁はその言葉と共に足を止めてしまった。この半端じゃない強制力から放たれる重圧は、回避のしようがない。一体全体どんな魔術を使っているのか、見当すらつかない。
「まず───!」
国王が不適な笑いを浮かべた時、足を止めた俺たちを狙う魔法陣が周囲に展開される。反撃に出ようにも、俺が対応できるのは精々前面の180°。
「靁──!」
「ッ!」
重圧の中立ち上がり、竜王剣で前面の魔法陣を破壊する。そして靁は影を使い背後の魔法陣の一つ一つ徹底的に処理する。
「───不愉快だ。……っ!?」
「やらせませんッ!」
国王が俺たちの行動を不愉快がり次の一手を打とうとした時、一筋の鋼鉄の矢が国王の真ん前まで喰らいつく。惜しくも防御魔法によって弾かれたそれは、カテナが放ったものだった。
「下賤な真似を……!」
国王のヘイトは一気にカテナに向き、魔法攻撃が集中する。その瞬間にできた隙を俺と靁が直接攻撃に出る。重圧によって体が思うように動かないが、戦う分には何の支障にもならない。
「貴様らッ!」
[ドドドッズゥン!!]
魔法陣の攻撃がこちらに向き、集中砲火に合う。しかし勇者の体は非常に頑強なおかげで、軽傷で済んだ。それと同時に体にのしかかっていた重圧が何事もなかったかのように、解き放たれた。
「っ!くそ、ガードが硬いかッ、」
「なぜ──ここまでの!」
「なぜここまでの魔術を行使できるか?だと?」
「っ!」
後退した俺たち二人にカテナが加わり、再び魔法陣を展開しこちらを見下す国王、それにカテナが疑問を口にしようとした時、すでにわかっていたように国王が口を開いた。
「愚かな娘よ。トーマスは確かに貴様の魔術の師であるが、同時に我の師でもあったのだ。そして我は今王として一人の王族魔術師として貴様、そしてトーマスをも凌駕する存在となった!」
いい終わると展開する魔法陣数が目に見えて増える。王の間一体を吹き飛ばすかのような魔術の数だ。そしてそれだけではなく、国王は自分と瓜二つの分身を多数出し、高笑いしながら四方八方を占拠した。
『貴様らに勝ち目など最初からないのだ。愚者どもめ!』
「靁!カテナ!」
二人の名前を呼んで指示を出す。カテナは意味を理解して、防御魔師を展開し、靁は体全身から無数の影を瞬時に待機状態にする。そして最大速度で攻撃を薙ぎ払うため、俺はプロヴィデンス・フォースを解放する。
[ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!]
絶え間ない暴雨のような攻撃、迸る閃光が目の前を掠め、俺たちを狙う。カテナが展開した防御魔術のあたりを互いにカバーしようように俺と靁は剣で万を超える魔術攻撃を弾き飛ばしながら、カテナを中心に360°駆け巡り回る。
「ハハハハハ─────そのまま、砕け散れッ!!!」
「─────っ!今だッ!!!」
俺の声を聞いた靁は、影を一斉に解き放ち、魔術攻撃をものともせず全方位にある魔法陣と、分身を含めた視界の国王を一つ残らず破壊した。そしてその生まれた一瞬の隙を見逃さず、俺は本体である国王に向かって大きく跳躍し、その体を真っ二つに切り裂いた。
「な────、は。ハハハハハ!!」
国王は霧のように消えた。靁の攻撃を防いだのは確実に本物のはずだ。だが今切ったのが偽物だったとしたら、一体どこに隠れている。
「愚か者共、どこを見ている。我はここにいるぞッ!!」
「──夏ッ!!」
国王の声を聞き振り返れば、そこには細い剣を首に突き立てられ、人質にされた夏の姿があった。隠蔽魔術で完全にポルネスと一緒に隠れていたはず。
「隠蔽魔術など、我も扱える。貴様のような三流魔術など、この我に取るに足らんわ!」
「───ぁ……く。」
細剣を夏の片脚に差し込み、倒れるように膝まづかせる。俺たちは人質に取られた夏の姿を見ているだけで、何もできない。こっちが何かすれば首に剣が刺さるなんて、火を見るより明らかだ。
「蛮族ども、貴様らは我を王座から離しただけでなく、同じ穢らわしい地に足を踏みつけさせた。そんな不届者の末路は常に決まっている!」
「───ッ!!」
魔法陣が俺たちの周りを取り囲む。そして夏の首に剣の刃を入れる。俺たちを連続攻撃で徹底的に潰した後、夏を殺すっていう合図にとれる。だからこそ、何にも行動できない。何がこの傲慢野郎に火をつけるかわからないからだ。
「我の前で無様に散ってみろ!勇者────」
[ドズ────ッ!!]
魔法陣の中心から光が放たれる時、血肉を咲くような鈍い音が聞こえる。国王がいい終わるより先にその鋭い剣が胸を切り裂いていた。
「………は、ぁっ、ッ!」
魔法陣が消え去り、国王は持っていた細剣をガランと落とし恐怖と驚きの顔で背後にいる人物を見る。
「、ポル……ネスッ──!!?」
国王の胸を貫く一撃はポルネスによる者だった。その顔は疲れ果てているを通り越し、限界状態だった。しかし目にはまだ諦めないという決意がみなぎっていた。彼の背後には人出せるだけの血の海が広がっていたが、彼の鎧はまだ輝きを保っていた。
「貴様ぁ……ァっ!!」
「……っ!…残念ですが、私はこのくらいで死んでいたら、、騎士などにはなっておりません──っ、ご覚悟ッ!!!」
「ぐぅぁアアアっァァァ!」
進めないはずの前足をもう一歩前に踏み込み。国王の胸にまた深く剣を突き刺す。苦痛の声を上げる国王の体ごと剣を持ち上げ、最後の力を振り絞る。
[ザシ!……………]
剣を乱雑に振り、国王を振り飛ばす。そしてついに体を持ち上げることすらできなくなったポルネスは剣をその手から離し、鎧を纏った体を地につけた。
「─────ポルネスッ!!」
俺は止まっていた足を駆け出し、ポルネスの元へと向かった。




