78話「本心」
静けさだけが残る城の中で俺たちの階段を登る足音が鮮明に聞こえた。息を切らし上がった先にある大扉。ドンっと叩き割るかのような乱暴な押し出しで、俺たちは王の間へと辿り着いた。
「……あれは。」
「──お父様…!」
だだっ広くて護衛の騎士達が大勢いる王の間にはただ一人王座にふんぞり返っているのは国王だけだ。孤高でありながらその態度から感じられる傲慢さにカテナは声を低くした。
「……よくぞ参った勇者達よ。我が城は今何者かに攻撃を受けている。そう、魔族だ。これは魔族の策略なのだ!民を守るため、今一度力を合わせようぞ!!」
「…………何言っているんだ。」
響き渡る国王なら声に靁が眉間に皺を寄せ独り言のように呟く。この期に及んで王様ごっこを続けているその姿は何度も不可解で理解し難い行為だった。おかげで俺たちはこの国王が完全におかしい存在だということをこの時決めつけた。
「……などという、くだらない。善人の真似事は飽きた。貴様ら、"誰の前に立っている"?」
国王がその言葉を使った瞬間、体にものすごい重圧がのしかかってきた。プレッシャーなんかいう精神的なものじゃない、これは間違いなく重力が言葉通り俺たちを立たせまいとしている。
「っ!」
「ほう、ポルネス。お前はまだ私に忠誠を誓ってくれるか、、」
「………ご冗──談をッ」
この中でポルネスは確かに強い聖騎士であったが、俺たちの中では一番弱かった。そのせいか、膝をつこうとしない中で一番早く身を崩した。
「………どれ、随分とこの者達は反抗的になったようだ。我が娘であるカテナまでもがな。」
「──こんな、言葉で人だけを従える魔術に……そんな魔術を使う貴方を、私は!」
「言葉で従えて何が悪い。我は王ぞ。」
「傲慢なッ」
「傲慢こそ、王の特権である。傲慢になれぬもの、傲慢を許さぬものこそ、最も姑息で愚かなものだと思わないか?」
肘で顔半分を支え、その目はどこまでも蔑んでいるようだった。体にのしかかる重圧も合わさって俺自身めちゃくちゃ気に食わないって思ってた。
「弱者を、虐げるような物言いだなッ!!」
国王の態度に靁が真っ向から物申す。
「弱者は強者に虐げられるためにある、そして強者を虐げるものがこの我だ。」
「ッ」
「結局は、全部自分の思い通りって魂胆…っ!ふざけないで、アンタの言葉ひとつでどれだけ人が死ぬと思うの?!」
「お前は自分が使った魔術で目に見えないほどの小さな生命が命を散らしても贖罪は全くしないどころか、気付きもしないだろう?」
「アンタ……っ!」
夏の言葉であっても国王は傲慢であり続ける。ただ傲慢であるのならともかく、その言葉ひとつ一つはこちらの神経を全て逆撫でするような最低的なものばかりだった。
「では、お前達に我の恐ろしさをひとつまみ加えてやろう。"我に従う者、自害せよ"」
「っ!……重圧が──ッ[ドジュ───!]」
重圧がなくなり、体に力が戻ってきた時、すぐ隣から金属を貫き肉を突き刺すような生々しい音が聞こえた。俺はそれに気づくとすぐ振り返って何が起きたかを確認した。
「……ご、、、はぁ…………ッ。」
「───ポルネス!!」
ポルネスが剣を自分の腹に刺し、口から血を引き出していた。彼自身も何が起こったのか瞬間理解できないような顔をしていた。俺はその光景を見る、そして自分の意思のままに国王の方を振り向く。
そいつは、何も表情を変えていなかった。それに怒りを感じた俺は、剣を引き抜き戦う構えをする。もう対話での解決は脳裏によぎりすらしない、こいつはそういう部類の人間じゃないんだ。
「夏!」
「わかってるわよ…っ!」
回復魔術を施す夏に、ポルネスはどんどんと弱っていっている。剣の持ち手から手を離し、両腕を脱力させ呼吸を小さくする。
「いいや、手遅れです。これは─致命傷、助かりませんよ。」
「ポルネス!何を言っているんですか!」
「……カテナ様、私はここまでなのです。せめて、何かできたら良かったのですが、私は本当に……どこまでいっても凡人でっ」
「ポルネス!!」
カテナが声をかけ続けるも、容態は変わらない。それに俺は歯を食いしばってこう叫ぶ
「国王!!お前を打ち倒す!」
「───よくぞ言った!それでこそ勇者、それでこそ部をわきまえぬ愚か者!貴様らに私が倒せると……ッ?」
国王の口は歪み、狂気の笑顔を浮かべる。俺の言葉すら予測してそしてそれをずっと待っていたように。こっちの怒りの表情を期待していたようだった。
「靁!!」
「──殺して、いいんだな?」
「………いい。ポルネスにしたようにやってやるぞ!」
「わかった。」
「ははは──ハハハッ!!!教えてやろう、世界を統べるはただ一人の王であり、貴様らのような蛮族ではないということを、その蛮勇、その愚行、その失策。我の前に立つことこそ、果てしない虚行と知れ!!」




