74話「聖騎士」
勇者。それはおとぎ話の中の存在で私とは決して縁がなく、どこまで星のように遠い存在であるんだとずっと思っていました。だってそれは当たり前だ。もし本当に勇者なんてものがこの世にいるのなら、この世界はこんなに残酷で苦しいものじゃなかったはずだからだ。
(ぁ、ぁ。)
その光景を今でも思い出すことができます。私の村はたった一夜にして魔族達によって壊滅させられました。完全な奇襲、完全な作戦、完全な壊滅。
そこは村ではなくただ、何かがあった場所、へと生まれ変わってしまったのでした。
生存者は私だけ、両親が今にも泣き出しそうな必死な声で、私を家から突き飛ばしたことを今でも覚えています。その時感じたどうしようもなさや、疑問、理不尽感は今になって考えれば、私を逃すためにあの不器用な両親なりに必死に考えたおかげで私は命だけ助かり、その全てを失ってただただ一人で長い時間を過ごすことになりました。
泣かない夜はなく。眠れない夜を数えきれないほど過ごして、苦しい毎日を生きていた頃、転機が訪れました。
「国で騎士として働かないか?」
私は了承しました。それまでの泥を啜るような生活から解放されることを望んで、ほんの少し、
(もし、騎士になったら。私のような人を救えるかもしれない。)
そう、淡い希望を抱いて。
私は騎士になりました。私の願っていた毎日とは違って、鍛錬に鍛錬、スパイスも鍛錬、味付けも鍛錬、隠し味も鍛錬、調味料も鍛錬。
表現はともかく、実に単調な毎日が続き私は諦めが悪いという利点だけで、どんどん腕を磨き騎士隊長まで行きました。
これで、人々を守ることができる。そう思った時でした。
「勇者様が来たぞ!!」
勇者がこの世界に来たと聞いたのは。直接的に関わることはありませんでした。何せ、私は兵士ではなく騎士、国王様を守ることだけが使命の人でしたので、ですがその名声は耳に届かなかったことはありません。
剣を振るえば千人力、飛べば城壁を越え、その精神は極めて高潔であると。
あぁ、その時からでしたか。私はその勇者が嫌いになりました。いえ、もしくはずっと嫌いだったのかもしれません。昔からこう思っていました。勇者はいたのに、なぜ世界は平和にならないのか。
それは、勇者は世界を救えるが人を幸せにできるものではないと、なんとなく分かったからです。その精神が高潔で、力もその全ても万力であったとしても、あの幼い私を救うことも、この世界で苦しんでいる人を救うこともできていないのですから。
ですから、えぇ私は決めたのです。勇者様方、あなた達がいなくても、私は世界を救う騎士になります。
「騎士団長ポルネス、汝に聖騎士の力と称号を授けよう。」
この力で私は今度こそ、苦しんでいる人を救う。私の気持ちを受け止め、まっすぐにしてくれる我が王こそ、世界を、勇者よりも上手くまとめ上げられる。そう信じて、信じ続けて、決してその心すら疑わないまでに。
信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて、信じて!!
「………。」
あぁ、どうしてこうなったんでしょう、気がついたら、私はあの時の魔族のように、村人を殺していました。なんの罪もない人を殺していました。私は、どこで違ったのでしょう。
いえ、誰も。答えてくれるものなど、この私にはいませんでした。




