73話「転回の始表」
靁と別行動をとった俺たちは三人は城へ到着した。あの日、人魔戦線に向かって至った時はここは輝く白亜の城だった。でも、今ではそれは反転。悪雲が光なき栄光を象り、やけに目立つ傷のついた外装が、まるでこの国の心のうちを表しているようだった。
「………。」
それこそ、見ていられないの一言に尽きた。だから、俺たちは城へと続く一本道をただただまっすぐ突き進む。閑散としている城下町は復興がもうすぐ終わろうとしている。しかしそこに人の笑顔はない。もしかしたら人の笑顔なんて、最初から作られたものだったのかもしれない。
そう言った意味でも、誰かが勇者に平和を乞う理由がなんとなく伝わってくる。それは、一方的な意思じゃなくて願いだったんだなと。
「ま、魔族が出たぞ!!!」
一人の声が、街全土に響き渡る。そして鐘が鳴らされ、人々は家から一斉に飛び出して安全な場所へと向かう。普通なら城に向かうのに、みんなどこかへ向かっていった。ただただ自分の命を守るために、ただただ鳴らされた鐘だけを信じて、本当は死ぬことも苦しむこともない虚空の恐怖に怯えながら。
それは、もう王に信頼なんてないって意味の暗喩なのかもしれなかった。
(靁、。)
靁が引きつけて、聖騎士達をできるだけ城の外にだして、そこを俺たちが突破していく。後手に回らないために最小限の被害だけ与えて王様を討ち取る。それが今回の作戦だ。
人々が俺たちとは反対方向に逃げる。そして城からは無名の聖騎士隊長が一人、鎧の体を急がせながらこちらに向かっていく。そして、俺たちは道の真ん中に立ってゆく手を阻む。
「住人?!早くここから離れのです!!」
俺たちと敵対していた時とは違う優しいような声。あぁ、そうだとも、敵には容赦ないのはいつの時代だって同じだ。だから、俺は、俺たちは
「……いいや、離れない。」
「なに、」
「俺たちは、逃げない。どこにも、そしてお前達にも!!」
フード付きのボロローブを脱ぎ捨てて、その身を世界に広める。勇者の鎧は悪運の中でも心と同じく変わらず輝き続けていた。
「っ! 勇者、だと!!総員油断するな!相手はポルネス殿を追い詰めた奴らだ。」
「……みんな、いくぞ。一点突破で押し切る。できるだけ、できるだけ、傷つけるな!」
「了解!」「はい!」
剣をその手に持って、勇猛果敢に攻めていく。相手が陣形を整える前に俺が先行して、聖騎士達をを無効化していく。まるで下級魔族と戦っているような感覚だった。靁や夏を追い詰めていた奴ら、それも城を守る直属なら相当な実力のはずだ。
でも、今の俺たちはクリンタルの半年の修行を受けた身。それこそ、敵を侮ってしまいそうな戦力差だった。
「───カテナ様!?隊長、カテナ様がッ!」
「なに、そんな報告は聞いていないぞ!」
「聞いていなくても仕方ありません。お父様はすでに私を捨てたのですからっ!!」
カテナの重力魔術を付与された矢が聖騎士達をを大きく吹き飛ばす。ここにいるのはもう守られるだけのお姫様じゃない。俺たちは勇者の頼れる仲間だ。
「なんだ、こいつらの力は!勇者はこんなものではないはずだ!」
「聖騎士である、我らが押されるのか!旧世代の神聖に!」
「勇者を甘く見過ぎだな!お前達が着ているその鎧は、剣は……なんでもないただの仮初だ!!」
一振りで鎧を最も簡単に打ち砕いて、戦場のど真ん中で敵なしの天下無双を繰り広げる。自分で誇張してなんだが、今は言わせてもらう。今だけは抱かせてもらう。
「俺たちの怒りを、皆の怒りを思い知れッ!!」




