72話「反逆一光」
「……靁。」
「。。。」
ベットで横たわっている靁。姿形はいつも通りになっている、この間みたいに球体型でもなければ脳と脊髄、そして心臓がつながったような生物と呼べないような姿じゃない。俺が知っている正真正銘の靁。
「行くか。」
「あぁ、体は?」
「大丈夫だ。待ってくれたおかげでかなり回復できた。準備運動がてらでもう出れる。」
眠っていた靁は俺の気配に気がついたのか目を開けて、すぐにそんな会話が始まる。いっときも油断していないような態度に俺は靁の心が大丈夫かと思って軽口でこう言う。
「随分強気だな。」
「あぁ。実のところかなり体が軽い。いや、心か。前より流暢に喋れてるだろ?」
「……そういえばそうだな。」
「多分だが、クリンタルが俺に特殊な神聖を分けてくれていたんだと思う。タイミングは戦っている時くらいか、おかげで思考が殺意で埋め尽くされなくなった。」
思考が殺意で埋め尽くされている。なんて、お前は一度も話してくれないよな。そうさ、お前はいっつも一人で抱え込んでるんだから。
「戦ってるって、あの模擬戦でか?まじか、そんな隙あったんだな。」
それはそれとしてクリンタルの化け物具合に、感嘆する。加えてあれが元人間と考えると本当にどんな奇跡が積み重なっているんだと、疑問に尽きない。
「それに半年間、そんな人間じゃない奴と本気の死合いを続けていればいくら体が吹き飛ばされていても戦闘能力は向上する。天馬、お前達もだ。」
「そうだな、半月しか経ってないのに俺たちは確かにあの場所で半年間修行をした。」
だから、ここからは誰も助けてはくれない。自分の意思で自分の足で、ただひたすら前に進んで、進んで、進み続けて、そして掴み取るんだ。この世界の本当の平和を。
「…………いくか。」
「あぁ、行こうぜ。靁。」
靁に手を差し出してベットから起き上がらせる。瞬時に姿をいつもの野戦な黒装束へと変わる靁の背中を軽く叩いて、共に部屋を出る。
俺たちは王様を打ち倒すために、戦いの地へまた足を踏み入れた。城に向かう道中は限りなく身を潜めながら向かった。そこらじゅうを跋扈する聖騎士達は今の俺たちにとって敵なしじゃないが、流石に騒ぎを起こすと厄介になる。
だから、急ぎはするものの事は慎重にだった。
「人魔戦線にトーマスを遣わせていることを考えると、城の守りは聖騎士だけになる。そこを一気に叩くぞ。」
「でもトーマスなら、すぐにここにもどって来るわ。」
「そうだな。だが流石の聖騎士であっても人間側の欠点はフラッグの少なさだ。雑兵が集まったところで指令官がいなければ話にならない。」
「でもよ、あのトーマスのことだ、なんかの魔術でやってきても──…」
「あぁ。おかしくない。だから極力、俺たちの姿を見たやつは始末か、無力化の方がいい。」
「極力か。峰打ちは教わらなかったな。」
「狙わなくても壁にめり込ませれば誰でもお手軽にできる。」
「……いや、靁。お前はできるかもだけどよ、」
壁にめり込ませたらいい具合に気絶する。
なんて、靁だからできるやつであって多分俺たちには向いてない。でも、言っている通り極力、殺さないように動かないと。最悪の場合は覚悟が必要だ、どこの戦場だって命懸けで全てを奪ってくる戦士は存在する。
油断ないようにしないとな。
「とにかく。大切なのは電撃戦だ。こっちはトーマスが来る前に王様を倒せば勝ち、向こうはトーマスが来たら勝ち。シンプルだな!」
「あぁ、天馬にも理解できたんだ。こんなに簡単なやつはないな。」
「オイ!」
「それじゃあ、全員作戦開始。指揮は天馬に任せる。」
「あぁ、任せとけ。クリンタル直伝の指揮術を見せてやるよ!」




