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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター1「勇者が生まれた時」
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07話「強襲と失落」





 「疲れた。」


今日も午前中はエリナと勉強、午後は城内の仕事。正直後半でイメージ回復を狙っているわけではないけど、何か報酬が欲しいとも思う。

だが生かされているのだから手伝いくらいやらずしてとはまさにこのことだ。


 「エリナ、今日も忙しそうだったな。」


このところ彼女のことをよく見かける気がする。廊下を歩いている時、どこかへ移動している時、天馬達の様子を窓越しにたまたま見ている時、至る所であの娘を見つけることが多くなった。


 「そういえば。」


エリナだけだと思った。俺をユキシマ様なんて呼び方するのは、勇者になって神兵武装を使えない俺に対して城の人間はほとんど冷たい。厨房長でさえ俺を勇者ではなく、1人の人間っていう見方をしている。


 (まぁそもそも勇者じゃないからそうなんだけど。)


でも、この生活を続けている中で、やっぱり自分の立場がどういうものなのかを考えて、怖くなる時がたまにある。それに俺は果たしてしっかり生きてるって言えるのかなって思う時も増えてきた。


 (……………でも、あの娘が勇者って思って。呼んでくれてるなら。)


まだ頑張ろう。この先も頑張っていこう。そう思える。誰かに期待されるのもたまには悪くないな。


 「………寝よう。」


そんな俺が今やることは、睡眠をとって明日も元気に勉強と仕事を続けることだ、いつか神兵武装がなくても、俺はできるんだってところを、そしてあの子がもっと笑顔を見せてくれるような存在に俺はなろう。これが一体いつまで続くかわかったもんじゃないけど、でもきっとなんとかなると信じて。俺は眠りについた。


 「──────ドゴォン]


 「〜〜〜!!〜〜ッ!」


次に目が覚めたのは明るい光だった。でもそれはいつもの太陽の光ではなく、焼け付くような全てを奪っていくようなそんな光だった。


 「っ、?」


建物が大きく揺れ、外ではさまざまな人の声、そして


 [ドゴォォン!!]


爆発音。頭が半端な状態なせいで何が何だかわからない。そう思い、ベットから飛び起きた俺は上着を羽織って扉を開けてみる。


 そこから先はすでに戦地だった。城の崩れた柱が隣には倒れており、上からは小さな石がいくつも落ちてくる。その光景から目を背けてしまい、俺は部屋に再び戻り扉に鍵を閉めた。


 「……、何が!」


一体この場所で何が起こっている。状況はもちろんわからない、ただこの場所が危険ということだけはわかる。それにしても情報が少なくて、迂闊に行動できない自分がいる。


 「襲撃だぁぁぁっ!!魔族が攻めてきたぞーーーーッッ!!!!」


 「!」


窓の方から聞こえる声、俺は急いで窓を開けるとそこに広がっていたのは羽のついた人もどきが空を駆けて、そして下にいる逃げる人たちと戦い、そして惨殺していく様子。

息を呑む光景に、恐れ一歩一歩と後ろへと足が進む。


 「魔族の、襲撃……。」


これが、言っていた戦争。どうしてこんなことが起きたのか。この不条理いや、理不尽、違う、現実を誰かに押し付けたくなるような気持ちになる。ここにいれば安全なんだろうか?いやそもそも攻撃されているここが果たして安全なのか?


 (わからない……っ!)


迫る死の恐怖。逃れることはできない。俺は、ここでうずくまることしか、できないのだろうか?


 (────エリナ、エリナは!?)


幼い彼女は今どこにいる?安全なところか?


 (─いやっ!)


きっとそうじゃない、そうじゃないことだってある。なら俺が今やるべきことは一つだけだ、目の前の扉を開けて仕舞えばそこは戦場、きっと死んでしまうことだってある。でも、それでも前に踏み出さないと。


 [ガチャ!]


部屋を飛び出して、急いで周りを確認する。どこに向かえばいいのか?いや決まっている。


 (厨房だ。)


俺は戦いの音が至る所から聞こえる中で厨房へと向かった。道中戦っている人や逃げる人、そしてこちらを殺しにきている魔族の姿、声を殺して時には息を殺して俺は厨房へと辿り着いた。


 「────エリナ……!」


 「……ぁ。」


俺はそこでエリナを見つけた。予想通り、逃げ遅れていたようだ。自分が心配性でこんなに良かったと思ったことはない。


 「ユキシマ様、どうして?」


 「……そんなことはあとだ。」


俺は隠れていたエリナの手を取って厨房から連れ出した。


 「行こう、早くここを離れて安全なところに……!」


 「……はい、!」


エリナはひどく怯えているようだった。だがそれでもここに彼女を置いていけばきっと最悪な展開になっていたことは明白だった。だから、彼女が完全に本意じゃなくても俺は手を引っ張って連れていくしかなかった。


 「わたし、逃げ遅れちゃって。」


 「大丈夫だ。俺が必ず厨房長のところに連れていくから。」


そうだ、俺も勇者のはずだ。なら、この子を助けないといけないたとえ特殊な力がなくても、それは俺がここに呼び出されてなすべき責任であるはずだから、だから……。


 「キャハハ!!見つけたゾ!」


 「っ!!」


 「ま、魔族………。」


迂闊だった。魔族と目があった俺は一瞬すくんで両足が止まるが、それでも理性でなんとか恐怖を押し殺し、逃げようとするがエリナはそうじゃなかった。完全に恐怖に飲まれている、それが震える手と絶望の恐怖から伝わってくる。


 (まずい!)


 「キィエハッハァァァー!」


魔族は手に持っていた武器をエリナめがけて振りかざす。俺は彼女の体を腕で引っ張り、攻撃を咄嗟に庇う。


 [ザシュ!]


 「─────っ!!!」


背中に一線の痛みが走り、急激に熱が走る。切られた、切られた切られた!めちゃくちゃ痛い、今まで感じてきた中でありえないほど痛い、痛い痛い、痛い!!でも、


 「ッ!!」


 「ぁ、あ。」


エリナを抱き抱えたまま俺は痛みと恐怖になんとか打ち勝ち、走り始める。ただ後ろから迫る魔族から逃げ始める。火事場の馬鹿力っというのだろうか、何も考えずただただ走り続ける。


魔族をなんとか撒いて、なんとかしなければいけない。それしか俺の脳内にはなかった。

そしてしばらく走って魔族が追いかけてきていないことを理解して、壁に背をつけて少し脱力して座った。


 「ユキシマ、様…!」


 「大、じょばない。けど……良かった、エリナが、無事で。ぁぁぁ痛ってぇ。」


背中に体を預けた時、傷に無数に突き刺されるような痛みが走る。でもこの行動に後悔はない。死ぬには早いけど、今一番俺は頑張っているはずだ。


 「手当しないと!」


 「いや、そんなことしてたら見つかる。それに背中だから、まだ大丈夫……」


ダメだ日本語がうまく喋れない。恐怖、痛み、死の感覚、それらが俺の脳を確かに鈍らせる。でもまだエリナを安全な場所に届けるまでは。


 「ここは?」


 「……部屋か?」


すぐ近くに部屋があった。エリナが少し歩いて中を見て、帰ってくる。どうやら問題なさそうだ。


 「ごめん、肩を貸して。」


 「はい……っ!」


エリナに肩を貸してもらい、部屋へと移動していく。さっきから意識がどんどん止まってきているのを感じる。すぐ近くにあるはずの部屋に行くまでも時間がかかる。


 「見つけたぞッ!!」


魔族達が俺たちを見つけた。奴らはまるで残党を探しているかのようにこちらに標的を向けると一直線に向かってきた。


 「っまずぃ──っ!」


魔族がここまでくるのにはいいところ5秒弱といったところだ。もう一度エリナから攻撃を庇えるはするがそうすると自分の命がない。いや、どっちにしたって俺はこの傷じゃ長くない。


 (ならせめてこの子でも────!)


 「エリナ!部屋に……ッ」


 [ドンッ!]


エリナの方を見た時、誰かが俺を部屋へと突き飛ばした。そして突き飛ばされた俺は扉を通り抜けて地面へと転がり痛みに悶える。


 「────っ!?」


閉じる扉の方を見る。エリナが両手で扉を押して、そして閉じた。最後に聞こえた音は扉に鍵がかかる音。エリナは扉の向こう側、魔族がいるところだ。


 「エリナ……?」


見間違え?いや違うわかってる、エレナは俺を突き飛ばしたんだ。俺が助からないことだって薄々気づいているはずなのに、どうして!!


 「───エリナ!!」


俺は痛みに構わず、扉を叩いてエレナに声を届ける。すると声が聞こえてきた、微かだが俺にも届く声。


 「ユキシマ様。助けてくれて、ありがとうございます、勉強教えてくれて、ありがと────」


 [ザシュっ!!!!!]


エリナの震えた声が聞こえて、そして血のついた剣が木製の扉を突き抜けた。その剣先が俺の腹部を突き刺し、耐え難い痛みを前に大きくのけぞり、扉から離れる。


そして腹に手を当てて、歯を食いしばりながら目の前の扉を見る。


 「…エ、リ─────!」


 [ザシュ!ザシュ!!ザシュ!!!]


続けて、剣が扉を貫きそして血液が自分の顔へと飛び散る。これはきっと血だ。エリナの血だ、そしてエリナの体には今、無数の剣が、刺さっているはずだ。きっと、


 『ギャハハハハッハハハハハハハハハハ────殺しテヤッタぁぁぁーー!!』


 (((…………ごめんなさい────。)))


最後に魔族の笑い声の中で聞こえた小さな声、決して忘れるわけがない誰かに謝るように、全ての生気を使い果たし最後に捻り出したような声、無念さを空に訴えかけるような。

もう助からないことを告げるかのような、その声。


 「─────っ、─────ぁぁっ!!」


本気で恐怖した時、声が出ない。彼女は死んだ。そう死んだ。俺が殺した。俺が殺した。幼いあの娘はもういない、苦しくも常に笑って頑張って生きていた命はもうない。どこにも、ここにも、そして今にも。


エリナはもういない。エリナは──────


 (死んだ。)




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