69話「遠い昔記憶から」
戦いが終わった俺は、緊張の紐が解けてその場にヘタレ込んだ。大きなため息をついて、心を落ち着かせようとしたけど。
「………そうだ、靁!!」
戦いの最中で完全に上半身が丸ごと吹き飛んでいた靁、最後の最後にコピー魔王動きを止めてくれたけど、そんなことより心配の方が優っていた俺はかけだして、周囲を見渡して靁の姿を探した。
「靁………。」
周りに靁の姿はない。もしかしたらと最悪な想像をした時だった。
肩に何か手のようなものが当たる。俺はなにも考えずそっちに向くと。
「………。」
黒い球体に足が生えたような生物?のような何かがそこにはいた。初めて見るようなフォルム、なんだか可愛く見えるそれはよくよく考えたら異質だと気づいて、俺は剣を引き抜き一歩大きく下がった。
「なんだお前!?」
「…………。」
なにも言わない球体人は近くの崩れたタイルを破れた布のような触手を用いて持ち上げ、そこにガリガリと何か書いていく。そして書き終わったものを俺に見せてきた
【靁だ、腰から上が吹き飛んだから、今はこんな感じになっている】
「えぇえええ!!!?」
タイルに書かれた文字は非常に汚いものだったけど、それが靁の字であるってことを俺は知っている。確かにあいつはこんな字だった、それにこの世界の文字じゃなくて日本語だ。すごい見た目だけど、多分絶対靁だ。間違いないって言いたい。
「え、上半身が吹き飛んだらそうなるのか?ていうか、無事なのか、頭と心臓が丸ごと……」
【間一髪で守っただが両方そのままの状態だから保管と超速再生のためにこうしてるちなみに目は見えない】
「そ、そうなんだ。」
すげぇ、あそこから入れる保険があるのかよ。上半身が球体型なのは多分、内臓血肉、骨から全て再生しているんだと思うけど、そうにしたって大魔族化け物クラスだな。
「天馬ーーーっ!!」
「夏、カテナ。」
「そいつなに!?!」
「安全なんですか!!」
二人は俺と同じように靁に向けて警戒状態を保っている。そりゃ当たり前だ、側から見たら怪しすぎる。
「あぁ安全!安全!こいつ靁だから!」
「え、はえ、えぇ、靁?」
【そうだ。】
「な、え………。」
「上半身がさっき消し飛んでただろ。そのせいで上丸ごと再生中で保護のためにこの状態なんだとさ。」
「あれで生きてるの!!!!?」
【生きてる】
「………大魔族。敵にまわると恐ろしいですが、味方であってもすごいですね。」
【正直俺もなんでこれで生きてるかわからない】
「そうなのかよ。」
【知ってたら戦術応用してる】
「応用するな!俺たちの寿命が縮まるわ!本当に心配したんだからな!」
【すまん】
靁の無鉄砲さはここまで来ると筋金入りだ。穂0んとうによく見てないといつの間にか死んでてもおかしくない。それに大魔族になったって痛みがないわけじゃないはずだ。
「ねぇ、いつまでその状態なの?」
【わからないしばらくはこれだ体の細部まで再生するとなるとかなり時間がかかる】
「なぁ、目が見えないのになんでわかるんだ?」
【この影が代わりに目になってくれてる虫の触覚と大体同じだ】
「キモ。」
【おい】
靁に対する問答を続けているうちにクリンタルが姿を表した。俺たちは雑談をやめて、クリンタルが話し始めるのを待った。
「お前たち、よくやったな。よくぞ魔王のコピーを打ち倒した。少し、不安はあるがあとは実践だけでもなんとかなるだろう。」
「それで………。」
「ついてこい、お前たちに見せるものがある。ここを去る前にな。」
クリンタルがあるところへ進み始める。俺たちは少し急足のクリンタルの後ついていく。靁は目が見えないため少し不便だったから、俺が触手の部分を握ることによって連れてきた。
「靁、見せたいものってなんだろうな?」
【わからないそれと俺は見えない】
「そうだった、ごめん後で感想伝える。」
【すまない】
目が見えないって本当に不便だ。触手である程度わかるって言っても、それは見えるってわけじゃない。本当は靁とかが一番知るべきところなんだろうけど(この中で一番賢いから)こればっかりはしょうがない。
「ここだ。」
クリンタルに連れられて辿り着いた場所は。さっきよりも早い円型の個室、と言っても5人(と球体靁が)余裕で入れる広さになっている。
「それで、何を見せるつもりなの?」
「私の、過去の話だ。そして、魔王の話でもある。」
クリンタルがしたから出てきた端末に乗り移ると、ただの壁が光だしとある風景を映し出してた。俺たちはその光景に圧倒されながらただただ黙ってそれを見ていた。
「それは大昔のことだ。私が現役の人間だった時、勇者四人が召喚されて増えつつある魔族にらよって世界が終わりを迎えようとしていた頃。」
「ちょっと待って、四人の勇者!?貴方は!!」
「……私は、ただの人間だ。勇者でもない、ただの。」
【ありえない人間があそこまで強くなるのか】
「───話を続けよう。」
目の前の画面はまるで映画館の一幕のように、移り変わって別の風景が広がった。
「私は勇者に助けられた人間だった。初めは雑用しかしできなかったが、剣を教わり、魔法を教わり、神聖を教わって、そのうち肩を並べて戦えるまで成長した。そのうち勇者の神殿を立て、仲間と切磋琢磨し、そして魔族達を後全滅一歩手前まで追い返した。その時は無我夢中だった、戦う目的なんてものは人助けで、ただ周りの人が自分たちの助けを求めている。その一心で戦った。だが、」
画面が変わって今度は、剣を持った勇者。多分俺と同じ力の勇者だ。そいつが人を殺している光景に映った、俺は息を呑んで驚きながらもそれを見続けた。
「力の勇者は裏切った。理由は、おそらく人間が魔族だったことに絶望したんじゃないかと、私は思う。アイツは優しかったからな。ただ、それで壊れたアイツは仲間の勇者をその力で全員殺した。残った私は人々の希望を託され、力の勇者と戦った。勝てるはずなんてないと思いながらも、一歩も引くことなんてできずに戦った。その結果、」
クリンタルと思わしき少女はその勇者の頭を切り飛ばした。
「私は奴を殺した。殺した時の感覚は今でも覚えている。悲しくて、悔しくて、そしてただただ虚無だった。私はどうしてこんなことをして、こんなことになったんだろう。とな、人のために勇者があるとするなら、私はなんで人のために勇者を殺したんだろうと、それこそ、自分の首に刃を押し当てた。でも、それでも何か何か違うと思って、私はそのボロボロの躯体を引っ張って、国は帰ったんだ。」
画面にはクリンタルの悍ましい顔が映っていた。今の彼女からは想像もできないほど疲れ果てた顔、そこに生気は感じられない。ただ、体は勝手にその場を離れていった。死んだ勇者の死体すら気に求めずに。
「………そこからは、地獄だった。私は勇者を殺した、どんなことがあろうと神聖な勇者を殺したっていうのに、国の民は、国王は全員こぞって私を英雄扱い、それどころか真の勇者だと風潮した。」
「────。」
「私は、耐えきれなくなった。だから、ただ一人勇者として残りの人生を修行に捧げるといい、その後世界がどうなろうと知ったことではないと思い、ここで一生を過ごした。外の世界より流れが遅いここは私の罪を試すのにうってつけだった。忍耐という名の罰が私を苦しめ、いつしか肉体を捨て魂となった今ですら消える気配はない。私はきっとまだ後悔しているのだ。」
「クリンタル。。」
「慰めはいらん。これは私の問題だ。お前達のことを散々聞いておいた私がお前たちに自分の身の丈話をしっかりと話す。それだけのことだ。」
話が終わって空気が重くなっていたところ靁は持ってきていた石のタイルをガリガリ削り文字を書き、クリンタルそして俺たちに見せる。
【魔王の話は】
そうだ、さっきクリンタルは魔王にも関係してると言っていた。
「それならすでに答えは出ている。勇者は魔族になれる。その例外は、靁。お前だけではない」
【魔王の正体はお前が殺した。力の勇者か。】
『!?!』
「おそらくな。確証はないが、可能性はある。だが、私が殺した時は確かに勇者だった。それがなぜ魔王になったのかまでは、わからない。」
「そ、れは。。」
「なんという……では、私達が倒すべき相手は。」
みんな言葉には出さなかった。古の勇者、全てに絶望して勇者を裏切ってまで何かを成そうとした者、それが俺たちが最後に戦う相手で倒すべき相手だということを。
「………でも、それでも。俺は倒すよ。」
【天馬】
「だってさ、おかしいじゃんか。考えてみろよ確かに俺たちは魔族を殺してきた。人を殺してきたんだ。でも俺はこう思うんだよ。だから、みすみす、今の人たちを見殺しにしていいのかって、それは違うだろ。俺たちがやるのは少しでも多くの人を助けること、それが結果的に人殺しに繋がっても、俺たちは、やるべきなんだ。いつだって、、、いつだって犠牲になしに平和なんて来たことなかったから!!」
「天馬、お前は。。」
「だから、クリンタル。俺はいくよ、相手が誰であったて今は敵だ。大勢の人を困らせて苦しめる敵だ。俺は、一人でも多くの人を救えるような勇者になるために、魔王を倒す!!」
「………っはぁ。アンタらしいわね。ほんと、この間までボロボロだったのに。」
「ですが、はい。勇者様の言う通りです。私たちに止まっている暇なんてありません、世界を本当の意味で平和にするために!」
【天馬が戦うなら俺が戦わない理由はない】
「………天馬、お前は私たち勇者の中でもとびっきりの大馬鹿者だな。」
クリンタルが眩しいものを見るような目で俺を見る。ずっと待っていた者をようやく見つけたような、そんな希望に満ち溢れた目だった。
「クリンタル。俺たちと一緒に来てくれないか?」
「なに、、。」
「今度こそ、本当の意味で世界を救おう。」
「──────!」
俺の差し出した手にクリンタルの手が乗ろうとする。その時だった。
[ドゴォォォォォォオオオッ!!!]
立っていられないほどの大地震が俺たち大地に跪かせる。地面にしがみついて、地震のようなものが収まるまで頭を必死に冷やして、状況を確認する。
「な、なんだよ!」
「………!まさか、奴が!!」
クリンタルの顔が一気に変わり焦りと驚きに変わる。何が何だかわからない中、俺の背中を靁が少し強めに叩き振り向かせる。
【天馬】
俺の名前の文字の後に、靁は慌ただしくしながらこう綴った。それは極限まで端的でありながら俺たちに一瞬にして恐怖を埋め込んだ。実際書いている靁すらも驚きを隠せていないような感じだった。
【魔王が来た】




