67話「過去の思想」
[ゴォン!ドッドドド─ッ!!ドゥズォン!!!]
床に響きが入り、長年使っていなかったせいか、舞う誇りを切り裂くような戦いが目の前で起こっている。武器が激突するたびに火花を散らし、空気の介入すら許さないようなプレッシャーが巻き起こり続ける。
靁とクリンタルの戦闘。
究極決戦っていう変な単語が排出されるんじゃないかってくらいの、戦い。いや、戦いというよりかはこれは完全に別物だ。戦いには優勢、劣勢が嫌でも確実に別れる、それなのに、二人の戦闘は本当に互角、数分打ち合っているというのに、その動きは止まるところを知らない。
訓練前なら確実に目で追えないような戦闘を常に展開し続ける。二人がどんなふうに武器を振るって、どんなふうに受けて、どんなふうにかわしているのか、見当もつかない。行動より先に音が来ている感覚がする。
雷が落ちた後に、音が鳴るみたいに、そんな感じで
[ギュゥィィン!!ゴンガァン、ギュリリリーヴィィジッッィコゥーン!!!]
形容できない言葉が止まらない。靁の赤い目と、クリンタルの青白い体が右へ左へ上へ下へと高速戦闘が繰り返される。
「ッ!!」
靁の姿がしっかりと顕になり、大鎌を後ろにわざと放り投げる。そして代わりの小型の鎌を両手に二つ顕現させる、そしてそれをブーメランみたいにクリンタルへと瞬時に放り投げ、手放した無駄な動きなく回収して、姿勢を低くして、地面とぶつかりそうなくらい水平にクリンタルに向けて波状攻撃を始めた。
本来、勇者の神兵武装は複製や小型が不可能だ。いくら使い手だったとしても、それに伴っている神の力が強大すぎるだとかで。でも靁はやっぱり違う、勇者で神の力を持って入るけど、
『あれは、本物のように使いこなしている。』
靁は神様本人みたいに、自由自在に神兵武装を使いこなしている。そんな光景に俺は、疑問が真っ先に上がった。
(靁、お前は本当に。何者なんだ、)
自分たちとは違う靁、変わっただけなのかもしれないって思っていたけど、もっと根本的に違うような気が最近じゃ、たまらない。俺たちはずっと仲間で親友だったはずなのに、一体どこが俺たちとお前を分けるきっかけになったのか。
(………いいや。そんなの関係ない。)
靁は仲間で大切な仲間で親友で、とにかく大切なやつだ。俺は誰かのためのヒーローになりたかった、でもやっぱり一番は夏や、靁。お前達のヒーローになりたい。お前達を、助けられる存在に。絶対に。
「コゥゥォ─────ッ………。」
「今日はここまでとするか。」
「……わかった。」
ずっと戦いあっていた二人は急に止まって武器をしまった。その瞬間さっきまで揺れていた空気が一気に大人しく何事もなかったかのように流れ始めた。吸うのを忘れていた俺もやっと呼吸をし始めた。
「─────は、ぁ。今日もすごかったですね。テンマ様。」
「あぁ。めちゃくちゃだった。」
カテナと会話をして互いに、自分の心がここにあるって自覚する。正直、見ている間は心臓が止まってたんじゃないかって思う。
「………クリンタルは100歩譲って、靁も息すら切らしてないわ。」
「大魔族特有の呼吸器官らしい。見た目は人間だけど中身はしっかり人間離れしていて、めちゃくちゃな運動しても全然大丈夫らしい。」
「私たちでも、ちょっと体が強化されてるくらいなのに。」
「………あ、でも靁はそういうわけもあってか戦闘の後。」
[シューーーーーッッ!!!!!!]
「一気に排熱するんだとさ。」
機械が蒸気を一気に噴射するみたいに靁の背中からは高熱を帯びた煙が巻き上がる。そのせいか空間全体が一気に湿っぽくなって、なんだか暑くなってくる。
「戦闘中にやればいいじゃない。」
「気が張ってできないんだと。っとここを離れよう。靁もいけって言ってるし、」
「サウナは嫌よ。」
「……サウナ?ナツ様!サウナってなんですか!!」
俺たちは馬鹿でかい訓練場を後にして、自分たちの用意された部屋へと戻って行っていた。今日で大体5ヶ月程度、毎日きつい訓練もやっていれば、もともと硬かった体は柔軟になるし細い体には筋肉がついてがっしりするし、なんかいろんな面で体にいいことだった。ただ難点だったのはひたすら己との戦いだったから、そこだけがキツかったところだ。
「やっと折り返しか。」
「意外とそうでもないぞ。」
「あ、クリンタル。靁はもういいのか?」
「何度も言っていようが、戦い方が独特すぎて教示なんて私にはできん。死闘をひたすら繰り返してもらったほうがヤツにとっては楽だろう。基礎がもともとおかしいほどしっかりしていたから、残りは実戦訓練あるのみだ。」
クリンタルが疲れた顔でそう言った。こう考えるとクリンタルとの関係もかなり長くなる。5ヶ月以上ももこの世界で一緒に戦った人なんて、本当に夏と靁くらいだったし。
(もしかしたら、今なら。)
「なぁクリンタル。」
「なんだ?」
「……えと、ここにいてずっと退屈じゃなかったか?」
なんで質問すればいいんだろうのとこば吐いてから、クリンタルに問いかける。いきなりの質問に多少驚きはしたものの、クリンタルは落ち着いて昔を思い出しながら話した。
「そうだな。正直いえば退屈だった。私は死んで、ここに止まって同期の勇者達は天へと昇っていった。私だけが、私だけがここに一人だった。」
「………。」
「裏切られたというわけではない。そんなことはもちろんわかっていた、彼らの死に方はそれは酷かった。最後の最後まで年寄りになってまで生き残ったのは私だけ。だから、この神殿に行っても会えないなんてことはわかっていた。」
「諦めなかったんだな。」
「あぁ、何度も諦めようと思ったがな。しかしついぞ諦めることはできなかった。その結果、お前達にも会えた。」
「そうか。お前達を見た時、私が今までやってきたことは報われたんだと正直思ったよ。長くて、長くて、長くて、ひたすら長かった私の旅路はようやく終わったんだと。」
「………。」
「さて、私の身の丈話なんて、こんなところだ。さっさと寝ろ。明日はもっときつい訓練を用意しておく。」
「あぁ。また明日。クリンタル。」
俺はクリンタルと別れたあと、自分の部屋に戻った。そしてクリンタルの言っていた言葉を頭の中で繰り返しながら、俺はこう思った。
(俺も、いつかはああなるのかな。)
確証はない。でも、そんな気がしていた。何もかもが終わった後に俺に待っているのは、安らかな死なんじゃないかって。だって俺は、力を司っている勇者だ。逆にいえばそれだけなんだけど、でもそういう奴が最後に残るんじゃないかって俺は思う。
<──|||──>
「……………。」
「………。久しぶりだな。」
俺は目の前にいるただ佇むだけの男に声をかけてみる。男は決して振り返らない。あぁ、そうだこれは夢だ。悪夢だ。長らく魔族になってから見ていなかった夢。正直、勇者じゃなく、魔族になった俺はこんな夢をもう二度と見なくなるんじゃないかなっとか思っていた。
だがこうして俺は今夢の中にいる。そう自覚している。なんで自覚できるかは簡単だ、眠っている時の俺は殺意を纏わずにいられる。だから、思考に殺意が入り込むこともない。だから、ここが夢だってわかる。
(久しぶりの感覚。でもこれは夢だ。)
いつかは終わる夢。ずっと長くいたい、っと思ってしまうが、毎回こういうのには何かしら意味がある。だから、俺は。。。
「………相変わらず何も言わないんだな。」
「………。」
男の手に握られているのは槍だった。それも今ならよくわかる、あれは聖槍だ。しかも神の力が入っている武器。勇者の武器と比較すれば多少は劣るけれども、確実に神兵武装の一つであるって俺は、直感的に理解していた。
でも、なんでこの男が持っているか。
「いや、そうだったな。お前は望まないけど、そうするしかなくてそうしたんだったな。」
この男を見ていると、まるで自分のことのように、何を考えているのか、何をしたがっているのかが、わかる。
「お前は、復讐するつもりなんだな。」
「…………。」
この男はもともと普通の村人だったはずだ。それなのに、神の都合で勝手につけられた力を無理やり覚醒させるために、周りの人たちを残らず殺された。俺みたいに、復讐によって覚醒してしまった。ただの一つだけの意思によって、それが当たり前で、他にもお前のような奴は山ほどいた。
そいつらがどうなったかなんて、わかりきっているのに。
「神を殺すつもりか。」
「……………。」
男の沈黙は肯定の表れだった。彼はただただ、全てを奪われた。それを絶対取り返す、いや取り返せるなんて思っていない。ただ彼はその純白な神兵武装とは比較にならないくらい心の中は、復讐という文字で埋め尽くされていた。
「………行け。」
俺は男にそう言葉をかけてやった。男は何か重要な決断を俺の言葉ひとつで決めたように、まっすぐ歩き始めた。そしていつしか、歩みは天まで届き、男の姿はいつのまにか見えなくなっていた。




