66話「勇者の命」
「っチ、腹立つぜ。」
「あの、わざわざ聞こえる声で言わないでもらえますか?」
「あぁ?」
「私も、このことばかりはどうしようもないので。」
「ッケ。」
目の前のパルワルドとかいうやつは、めちゃくちゃウゼェ、自分で探し出せるとか豪語しておいて、もう一週間も勇者の野郎どもの行方はしらねぇだの何だの言ってやがる。大体、こいつは戦闘で大した役にも立ってねぇ、それが一番気にくわねぇ。
「どのみち、今の僕たちにはやることがない。何か方法を見つけるまではこうしていよう。」
「相変わらず、落ち着いてんなぁ。」
ウチムラの野郎はなにも思ってないみたいな顔をしてやがる。いつもこうだ、それが退屈でつまんねぇことは確かだけどよ、目の前にいるパルワルドに比べたら100倍マシだ。何より。
「ウチムラ、このあと戦わねぇか?」
「模擬戦?死闘?」
「どっちもだ。」
「いいよ。」
「やったぜ。」
こいつは誰かの誘いを断ったりしねぇ。そもそもの話、こいつは自分が大切にしているもの、すなわちあの死体女さえ隣いてくれれりゃそれ以外は以下でも以上でもねぇって思考だ。だから、こういう戦いの誘いにも乗ってくれる。経緯はどうであれだ、戦えるんならこれ以上に楽しいことは無ぇ。
「バークーサー程々にしてください。それと、やるなら戦線に行ったらどうですか?もしかしたら思わぬ強敵と出会えるかもですが。」
「おぉ、パルワルド。良いこと言うじゃねぇか、お前も行くか?」
「……はぁ、良いです。皮肉なんていう私がバカでした。」
「なにやら、楽しそうな会話をしているな。」
「──魔王様!?」
パルワルドのでかい声が耳に入る。魔王はゆっくりと歩きながらこっちに向かってくる。言葉通り、俺たちの会話が気になるってところが、もしくは説教でもしにきたか。
「魔王、いたんだ。」
「そりゃいるだろ、でもここまでくるのは久しぶりなんじゃねぇか?散歩か?」
「散歩だ。体をたまには動かさないとな。座り心地のいい椅子では背中が痛くなる。」
「は。恐怖の象徴が、背中の痛みに負けるのは傑作だけどな。」
「ハハハ、確かにな。それで、お前達はどうしてここにいる?たしか勇者の殲滅の命令を下したはずだ。」
説教しにきたか。
「あ、えとそれはですね───。」
「勇者の神聖が途切れた。だから、追えない。」
「神聖が途切れた、、か。これは何かしらの関与を疑うべきだろうな。」
「何かしら?勇者は今じゃ人間どもにも俺たちにも敵だ。そいつらを助ける奴なんかいるのか?」
「………心当たりはある。だが、そうなると奴らが出てくるまでこちらは待つしか無いな。」
「あの、どういうことでしょうか?」
「言葉通りだ。今の私たちではどんな方法を持ってしても勇者を見つけられないということだ、パルワルド。私が自ら出向けば何らかのアクションをしてくれると思うが、確実性がないな。」
なーんか、ややこしい話してんだが、要は今の俺たちじゃどうしようもねぇってことか。にしても、俺に隠し事して魔王は何企んでやがる。知りてぇし、何で俺たちが見つけられないのかも、知りてぇ。ま、何か策があるってことなんだろうけどな。
「………でも、相手は勇者2人と元勇者1だ。油断できない、きっと何か用意をしているはず。」
「用意ぃだぁ?そんなもん真っ向からぶっ壊せばいいじゃねぇか!」
「それで、何とかなったら貴方はやられてません。」
「あぁ!?喧嘩売ってんのか!!」
「やめろ二人とも。時にバークーサー、お前は城を壊す。」
「っち、わーってるよ。お前は城大好き人間だもんな。あいや、魔族か?」
「………どちらでもいい。とりあえずだ、お前達は勇者らが姿を現した時に備えて力を蓄えておけ。私からは以上だ。」
「わかった。」
「わかりました。」
「言われなくてもだ。」
魔王は俺たちにそれだけ伝えて、また廊下を歩いていく。だけどよ、に散歩したあたりで魔王のやつは足を止めた。そしてゆっくり振り返って、口を少し開けていた。馬鹿みてぇな、面だ。それこそそんな顔を俺ですらみたことのないような、めっちゃ驚いた顔。だが、こう言った時に限ってなんか嫌な予感がするのは、俺だけじゃねぇはずだ。
「……ウチムラ、先ほど、何と言った。」
「?わかった。」
「そこじゃない。勇者が、三人?」
「?うん、靁は元勇者だよ、って言っても今は魔族だけど。」
「……………。ライ、ユキシマライか!奴が、勇者だと!?」
「うん、そうだって言った。」
「お?」
「魔王様?」
魔王の取り乱した姿、めっちゃ久しぶりに見た気がする。城が半壊して天守閣?に当たる部分がぶっ壊されて驚いていた時とは違った、めちゃくちゃな顔。ハハハ、傑作だ。こういう時はぜってぇ何か面白いことが起きる!
「………勇者が五人だと。そんな、ことが起こるのか。。。」
「おい、何もったいぶってねぇで教えろよ!」
「………こちらの話だ。私は急用ができた、これからしばらくは席を外す。」
「わかった。」
「わかりました、魔王様。」
「っあーあ。結局聞けなかったじゃねぇか。」
魔王のやつはそそくさと少し急足でどこかへ行きやがった。何がそんなにおかしいみたいな顔してんのか聞きてぇところだったけどよ。それも、結構後になるな、あいつは仮説だか何だとかを調べねぇと気がすまねぇらしいし。
「ウチムラー、戦線行くぞ。このモヤモヤしたやつを戦闘でぶっ飛ばしてやる。」
「うん。」
<──|||──>
「天馬、やつは何を司る勇者だ!教えろ!!」
「ま、待ったクリンタル!司るって何だ?全っ然話が見えてこない!!」
「……すまない。取り乱した。」
俺の方を揺らすクリンタルの手はゆっくりと離れ、彼女はオデコに手を当てて目を細めて心を落ち着かせている。何か異常なことでもわかったのかと思った俺は、夏と目をまた見合わせてクリンタルに聞いた。
「なぁ、勇者って何なんだ?」
「……勇者とは、神の使者。神の代行者。世界に平穏をもたらすため、神が人に与えた力を扱うもの達のことを言う。そして、それは神の御体でできている。」
「神の、御体?」
「力、知恵、音、審判。これら四つは神の持つ権能、いわばその神が保有する能力だ。神がそれを何らかの理由で人に与え、そしてそれこそが勇者の武器なのだ。」
「………俺の剣は、力。夏のは知恵ってことか。」
「そういうことだ。」
スケールが大きい話についていけなさそうな気しかしない。でも俺は何とかクリンタルの話に耳を傾け続けた。
「そして勇者は恒久的な平和を作る運命にある。これは神が力を人に与えた際に課した義務でもある。勇者として、人より上に立つ存在として生きるための代償。それが、平和の構築だ。私を含む、大勢の勇者達はそのために幾たびの厄災と闘ってきた。魔王もその一つだ。」
「……でも、勇者は人だから。」
「あぁ、寿命がある。私みたいな特殊な事例を除き。大体が戦って死に天寿をまっとうして死ぬかの二択。そして勇者が死に、平和が世界から崩れ落ちる時、別の勇者が異界から召喚される。」
「それが、繰り返されてきたのね。」
「あぁ、そして勇者は何度召喚されようとも、4人だった。神が人に託した4つの力を操るのと連動するかのように。だが───。」
「待って、それだと。靁は?靁の武器は鎌よ!」
「その通りだ。今まで鎌を持った勇者はいなかった。それなのにやつは勇者であり、鎌を持っている。正直、私も何が何だかわからない。」
「なぁ、本当は5つだったとかは?」
「それはあり得ない。大昔から神の全ては力、知恵、音、審判、そして心で成り立っていると言われていた。神は今もこの世界を守り続けているのだとしたら、心がここに入ってくることは無い。ましてや、、その象徴が鎌だと言うことも。だから、私たち勇者が使える武器は、剣、杖、楽器、銃。の四つだけなのだ。」
「……。ていうことは、靁は勇者じゃ無いのか?」
「いや、私も不気味な感触なのだが、あれを私は勇者だと思っている。いや認識して離さない、他の可能性はないと言っている。紛れもなく勇者のはずだ、なのだがな。」
「わからないか。」
「あぁ、こんなこと生まれて初めてだ。世界にあらゆる例外が存在していようとも、こんなことは本来あり得ないはずなんだ。勇者が五人いるというのは、、、。」
「………靁には言わない方がいいかもしれないわ。」
「、そうだな。っていうか気にするのかどうか怪しいけどなアイツ。何でもかんでも自分で解決しようとするし、アイツの目的は魔族の殲滅らしいし。」
「…………できれば。カテナにも会わないでくれるか?今の話は私のような存在じゃなければ基本的に知り得ない話だ。隠し通してくれるのなら、お前達二人にはいくらでも話そう。」
「あぁ。わかった。俺も全部わかったわけじゃないけど。二人には話さないようにしておくよ。」
「助かる。」




