64話「勇者の神殿」
古の勇者の後に続いて、俺たちは神殿の奥へ奥へと続いていく。道中会話はほとんど起こらない。っていうか圧巻の感想しか漏れないので特に重要な話なんか、起こらない。そりゃ神聖な雰囲気溢れるこの空間で下手な話なんてできないけど。
「。。。なぁ、」
「うん?」
「お前、名前とかあったりするのか?」
「あぁ、もちろんあるとも。大昔に使っていたものだがな、この名前を改めて口にするのはなんだか懐かしいな。」
「………それで、名前は?」
「───クリンタル。宝石のように綺麗な眼を持ったということでつけられた名だ。」
「クリンタル。なんだか珍しい名前だな。」
「ほう、そうなのか。では私とお前達の世界はまた別のところなんだろうな。」
「別?もしかして、勇者って俺たちの故郷から来るとかじゃないのか?」
「あぁそうとも、だがこれは知らなくてもしかない。何せ、私ほど長生きしている者でもなければ勇者がそれぞれ別の世界、別の次元から呼ばれているなんてわかりもしないからな。」
「別の世界って、ここ以外にもあるってことか?」
「さてな。私のはあくまで結果からの憶測だ。絶対にそうだなんていう確証はない、ただ私の世界と違ったこの世界があるということはそうなのかもしれないと、ただそう思っているだけだ。」
「………そうなのか。」
雑談しながらクリンタルの後に続いて行く。変わり映えのしない神殿を数分歩いて、ようやく大広間に辿り着いた。
「な、長かった。」
「当初は外敵からの防衛も視野に入れて作られていたからな、一本道が長かったのはあそこに無数の罠が張り巡らされていたからだ。まぁ、今では私が意識しないと反応なんてしないがな。」
「……魔族が反応条件だったらどうしたもんかとか今考えたぞ。」
「マニュアルだとそうだな。だが、今は幸いなことにオートマだ。」
靁の独り言に、クリンタルは笑いながら答えたが、そんなことより使っている単語の方に全てを持っていかれた俺は。
「車かよ。」
と呟いた。クリンタルが急足で空間の中心へと向かうと、地面へと潜っていった。一瞬驚いたが、よくよく考えてみれば彼女は幽霊みたいなものだ、それこそ地面に潜って不思議じゃない。
[クココココゴゴゴゴ]
時計の針が動き出すような、音が響いて少し遅れて空間全体が古臭い音を立てながら動き始めた。俺たちの立っているところ以外は次々と場所が変わりをし始めて、いつのまにか置いていかれていた。
その場を離れて歩き出せば、見えないほど深い深淵へ一直線。タイルと法則性を持った円が前後左右に忙しなく動き、しばらくしてそれは収まった。
「すっげぇ。。。」
俺は目を丸くした。殺風景だった大空間はいつのまにか障害物と自分の知らないオブジェクトやしたから生えた壁に包まれた騒がしくも整った空間になっていた。
「ふぅ。まだ動いて助かった。私はこういうのに終始疎かったからな……。」
額の汗を拭うように、地面から這い出たクリンタルは浮遊しながらこちらに来た。
「どうやったんだ?」
「少しいじっただけだ。昔はここの制御盤も表に出ていたのだがな。古臭くなってきてからは、私が自分で動かさなければいけなくなった。ま、そんなことはともかく今日からここがお前達の訓練場だ。」
「訓練場。」
「そうだな、大体1年くらいやれれば上出来か。」
「………一年?」
俺達はしれっと出されたクリンタルの言葉に思わず固まった。
「あぁ、1年だ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんなに訓練できる時間はない!俺達は急いで魔王を倒さないと!!」
「そ、そうよ!私たちは急がないといけない!じゃないと今も世か界でいろんな人が苦しんで!!」
「クリンタル様!私からもお願いします!勇者様達は、一刻も早く世界を救おうと───!」
「えぇい!うるさい!!話を最後まで聞け!」
俺たちの言葉を一切したクリンタルは、はぁっとでかいため息を吐いて、場を落ち着かせた。俺たちは先人の言うことをしっかりと聞くために、彼女がもう一度話し始めるまで言われた通り黙っていた。
「お前達には二つ言いたいことがある。まず説教からだ。お前達は、たかが数ヶ月数日程度で世界を救えると本当で思っているのか?」
「……それは、」
「ほらな。思っていないだろう?なら無理だ…お前達に世界を救うことはできない。一生をかけた私ですら成し遂げられなかったことをお前達が成し遂げられるはずはない。」
「………。」
「そう悲しい顔をするな。何も希望がないわけではない。お前達ならきっと私よりも短い時間で、強くなって必ずや魔王を倒せる。そう確信している。」
「それで一年か。」
「あぁ、ここだけはどうしても譲れない。それと、言い忘れていたがこの神殿外界との時間の流れが異なる。だから、ここでの一年は外ではいいとこ1ヶ月程度だ。」
『───────』
「なんだ?揃ってそんな呆けた顔をして?」
「いや、それ先に言ってくれよ。」
クリンタルはキョトンとした顔をしている。このお姉さん。どうにもつかみどころがわからない。そういう大事なことは最初に言って欲しい。
「すまない。ただお前達が一年間みっちり訓練することは変わらないからな。」
「………はぁ、とにかく一安心ね。」
「おや、そんなに訓練に耐えられる自信があるのか。一つ忠告する、私の訓練は地獄だぞ?何せ、仲間の勇者から鬼だの悪魔だの魔族だの言われたくらいだからな。この時間乖離を作ったのも、寿命を気にせずいくらでも訓練を続けられるからという意味がある。さて、では最初からフルスロットルでやろうか。」
不敵な笑みを浮かべるクリンタルに俺は何かを察して、目を瞑った。
「おい、夏。俺今のうちに謝ったほうが大正解なんじゃないかって今気づいたよ。」
「奇遇ね。私もよ、そしてごめんなさい。多分これから起こることは地獄の日々になるわ。」
「言うな、夏。胃がキリキリする。」
夏に続いて靁も、上を見てこれから起こる絶望感に身が前をしている。そしてその俺たちの姿を見てキョロキョロ困ったような顔をしているカテナ。
「あ、あの。私は。」
「もちろん、お前にも参加してもらう。ただ純粋な戦闘攻略だけじゃなく、この世界での生き方も教える。学ぶことはたくさんあるが、覚悟はいいか。」
「───!は、はい!もちろんです!!勇者様方のお役に、私が立てるのなら!」
「よし。ではこれから地獄のブートキャンプを始める。一年間逃げも隠れもできない、私に歯向かうならその分痛い目を見ると心せよ!」
『はい!』




