62話「それは過去」
剣に導かれて洞窟の奥へと入っていく俺たち、大扉を通り抜けた先にあったのは人工的に作られた地下神殿のような場所だった。体は妙に軽く、勇者の祠と似たようなものを感じた。
「……靁?大丈夫か?」
「あぁ。ちょっとピリピリするが、問題ない。」
「そうか、よかった。」
勇者の祠に来ていた靁は気分が悪かったりしていたことを事前に聞いていたから、ここではどうなるのか心配で聞いてみたけど、大丈夫そうだ。もしかしたら大魔族になったおかげで対神聖の能力が上がったのかもしれない。
多分。
「それにしても勇者の祠と同じ感覚よねこれ。ここ一帯に神聖が溢れてる。」
「ですがどうしてこんなところに。」
「カテナは何か知らないのか?」
「はい。お父様もトーマスも勇者の祠のことは知っていたのですが、私もこんなところに………神殿のような場所があるなんて、今まで多くの文献を見てきましたが、初めてです。」
「靁。」
カテナの言葉を受けた俺は次に靁に聞いてみた。一人で勇者の祠に辿り着いた靁はもしかしたらこの神殿のような場所についても少しは知っているのかもしれないと思ったからだ。
「知らないな。聞いたこともない、ただ俺の直感から言わせてもらうと、ここは確かに勇者に縁のある場所だ。ただ───。」
「ただ?」
「………この神聖。神由来のものと違う気がする。もうちょっとわかりやすく言えば、残滓が時間をかけて溜まって、、そして何かに変わったような、そんな気がする。」
大魔族の靁にとっては対神聖に関する感覚がおそらく俺たちより鋭いはずだ。だから、今の靁の言葉をそのまま受け取ると、ここはもしかしたら俺たちが考えているよりある種変な場所なのかもしれない。
「………なんか、怪しいかもな。慎重に行こう。」
俺は三人にそう呼びかけて、奥へと進んでいった。松明片手に謎の構造物の中を進んでいく俺たち、あたりには生物の気配すらなかった。まるでここは本来なら生物が立ち入れないような場所のように、溢れている神聖と反比例して、やけに不気味だった。
「……っち、神聖が濃くなった。」
「この先に何かいるってことか?何にも見えないし、俺には感じないけど。」
「いや、いる。でもなんだこれ、、、似ている?何にだ、なにがそこにいる?」
靁が眉間に皺を寄せて、目を凝らしながら先の方を見ていた。俺は靁の警戒具合から剣を引き抜き、戦闘準備をする。そして一歩一歩着実に前に進んでいく。
「やっぱりだ、いるな。正面だ…!」
「………誰かここにいるのかッ!いるなら答えてくれ!!」
靁の言葉を聞いて俺は大きく息を吸って叫ぶ。俺の声は何回も反響して大きな空間内に轟く。そしてその直後。
「見て、何あれ。青い炎?」
「………なんだあれ。」
夏が指をさした向こう側には青い炎が二つ。その青い炎は篝火に灯されるみたいにこちら側にゆっくりと広がっていく、二つから四つに、四つから六つに、俺たちのいるこの大空間を照らしていく。
「これは、壁画か?神殿?」
青白い炎によって明るくなった神殿内部はクリアになっていた。松明一つじゃ見えなかった壁画が後ろから前までびっしりと描かれている。それは一つ一つに途方もない歴史を感じた。
「──まっていたぞ、こんせの勇者達よ。」
突然声が聞こえて振り返る。俺は声を出したその存在をよーく見ながら、驚いた。
「………ゆ、うれい。」
青白い半透明な姿、長い髪に鋭くも慈愛に満ちた目、ドレスのような戦衣装に身を包んだ幽霊のような、神霊のような、そんなどちらとも取れない姿をした女性が空中で佇んでいた。
「天馬、、こいつは───っ。」
靁が何かわかったような目をしている。ただ俺と同様に驚いているのか声を出せてない。
「……おはつにおめにかかる。わたしは──いにしえの勇者、わかりやすくいえば、お前達の前任者だ。」




