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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター1「勇者が生まれた時」
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06話「異を飲む」





 異世界召喚されてからニ週間が経って、色々あった。ただその色々も天馬達と俺とではかなり違っていた、天馬達は勇者としてこれから戦っていくために城内で訓練を積んでいる。大変そうではあるけどとても生き生きしていることがよく伝わってくる。


対して俺はその光景を窓から見ているだけだ。


 結局、あの後神兵武装を呼び出すことができなかった俺は最初こそみんなと同じ扱いを受けていたが10日前くらいからか、もう用はないみたいな態度をここの人たちから取られ始めた。

ここの人たちからすれば自分たちのそんぼう存亡をかけて俺たちを読んだのに当てが外れて仕舞えばそんな態度も取りたくなる。悔しいし、悲しいけど、仕方のないことだと俺も理解してる。


 (呼び出せなかった俺にもきっと責任はあるんだろうな。)


天馬達とは関わる機会が大幅に減った。今の俺は、責任だけで生かされているような感じだ、召喚してしまった責任だけで、食糧もそこそこの服も用意してもらっている。


 (いや、無職ってわけじゃないけど。)


流石に俺もただただこうして一日中暇を持て余しているわけじゃない。あの後トーマスに掛け合って、城内の仕事を手伝えることにしてもらった。気分は完全に日替わりバイトみたいな気分だ。忙しいからか、どうやら俺みたいな素人でもやれる仕事はいっぱいできるようだ。


言い忘れていた、ここはどうやら王城らしい。まぁなんとなく察しはついていたけど、国王がいて宮廷魔術師がいる場所なんて一つくらいしかない、それにこの広さ。


 それで話を戻すけど、午前中は勉強、午後は仕事の手伝いみたいなことをしている。勉強はこの世界についての勉強だ、天馬達は修練で忙しくてそんな時間もなさそうだということがわかっていたから、せめて知識の面で俺がバックアップできればと思って始めた。


 (でも、教えてくれる人は誰もいない)


今まで小中高と学校を通ってきて、教師の重要性を身をもって体感する。誰かに教えてもらうということは一人でやるより楽なものなんだなと、それこそ何も知らないものを1から勉強するとなれば、かなり時間がかかる。


城の図書館から適当に持ってきた本はどれも内容がわからずじまい。異世界召喚の補正とかも特にないので文字は全く読めない。だから、俺は文字から勉強するべきなんだろうけど。


 [コンコン]


部屋の扉を叩く音が聞こえて俺は椅子から立ち上がり、扉の方へと向かう。


 「ユキシマ様、お食事をお持ちしました!」


 「ありがとう。」


扉を開けると一人の少女が食事を持って待っていた。俺は食事を受け取ると近くのテーブルへと置き、少女を部屋へと招く。


 彼女の名前はエリナ、この城の厨房で若いながらも働いている頑張り屋さんだ。ちなみに姓は無い。この世界は姓がないことが普通らしい。


 「エリナ、今日もよろしく。」


 「はい!」


さっき教えてくれる人がいないと言ったけど、勉強仲間はいる、それがこのエリナだ。

俺の部屋へと食事を運んでくれるエリナに、わかる範囲でいいからこの世界のことについて教えてほしいとお願いしたのがことのきっかけだった。それから、少し仲良くなって今では一緒に勉強をしているという形になる。


彼女も若いながらか、任される仕事は少ししかないため、時間が有り余っていたのでこの勉強会はとても楽しみらしい。


 「これは……あ、え、ならい、です。多分……その他はわかんなくて。」


 「あ、え、ならい、か。いや全然大丈夫、ありがとう。」


エリナは文字の書きができないらしいが読みは少しできるらしい、城で働きながら覚えたそうな、そんな彼女でも今の俺にとってはとても心強い味方だ。



 (少しエリナの話をしようと思う。彼女から聞いたわけじゃないから、申し訳なさはあるけど……。)


 エリナは母親が病気であり、お金を稼いでいい薬を買うために城にきて働かせてほしいと懇願した上で雇わせてもらっている。っというのが身の上話だった、俺はこの話を城の厨房長に聞いた。


厨房長はこの城にいる中でも俺に優しくしてくれる人の一人だ、ちなみにおっさん。

そしてそんな性格だからか、もちろんエリナにも気をかけている、エリナでもできる仕事をできるだけ回してあげたりとか、裏で色々サポートをしてあげている。エリナを雇ったのもこの人が上と掛け合ってくれたおかげらしい。


そればかりかエリナと偶然仲良くなった俺のことを信用して、勉強の際には彼女も同席させてほしいと頼むほどの人物。


 (エリナが将来困らないように勉強をさせてあげたいとのことらしい。すごい人だ。)


俺もエリナの境遇から、なんとかしてあげたいと思い厨房長のおっさんのお願いを快く引き受けた。以来、エリナは俺の食事を持ってくるこという口実で一緒に勉強する間柄になった。


 エリナの堅実さを見ていると、俺も思うところがある世界が違えばここまで違うというのを今目の前で感じている。元の世界ではこんな境遇の子と会ったことすらなかったのに、この世界ではまるで当たり前のように誰もが話している。なんて………


 「ユキシマ様?」


 「…ごめん、ボーッとしてた。続けようか。」


エリナと勉強を始めて数時間が経った。


 「あ、今何時ですか?」


 「今は……ちょうど昼前だ。」


 「そっか。私、お昼にお仕事があるので今日はここまでで。」


 「わかった。今日も助かったよエリナ。」


 「お礼を言うのはこっちです!ユキシマ様と勉強している時は、楽しいので。それにこんな私でも、勇者様の役に立てて嬉しいので!」


 「そっか。それじゃあ帰り道も気をつけて。」


 「はい!」


エリナを軽く見送った後は、午後ということで俺も城バイトを始める。どうかあの子にこれからも幸福あれ、と俺はらしくなく神様に祈っていた。




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