59話「どんなに止まっても」
「おらッおらッおらァァァッ!!!」
「死んで──。」
「終わりです。」
三人の魔族の攻撃が私の防御魔術をズタズタに滅ぼしていく。プロヴィデンスを発動して能力も反応速度も確実に向上している。でも予感は当たっていた、やっぱりここで私は死ぬ。
今じゃ全方位の攻撃に対処するのが精一杯。目が追いつかない、頭が追いつかない。無詠唱になってこっちの手数のスピードが上がったとしても、それでも追いつかない。私自身の限界を感じる。
(っ弱気にならないッ!)
必ず、天馬を逃すと決めたのなら、それをやり通す。今の私にできる最大の天馬への恩返し、なら何としてもこいつらをここで通すわけにはいかない。
「……」
「──よそ見するんじゃないわよ!!」
天馬の方へ視線が向いたことを確認すると私は魔族将軍に向けて、光殺の魔術を撃ち出す。たとえ数で劣っていても、たとえ技量が足りなかったとしても、油断は命取りに、そして私を殺さないとここを離れられないことを知りなさい!
「……っ忌々しい!!」
当たってはいるけど、かすり傷でもこっちに意識を再び戻らせた、その点で私は優っている。
「思った以上だ!想像以上だ!逃すための戦いをする奴がここまでしぶといなんてなァ!!」
バークーサーの浮遊する剣撃を体をひねさせ回避、続けて正治が放つ凶弾が魔術を打ち砕いて、私の体に触れようとする。それをギリギリで別の魔術を使って軌道をずらして回避、魔族将軍の扱う呪術を、独自の神聖魔術によって打ち消し払う。
この行動をするだけで精神が削れ、思考が次の瞬間には止まりかけそうになる。それでも、私は意地でコイツらを止めないといけない。全ては、天馬が逃れられるため!
[ダァン────!!]
「っ!」
体に冷たい感覚がくる。視線を落としてみれば私の肩に銃痕がくっきりあり、そこから血がトボトボと流れ続けていた。
一瞬の気の緩みから生まれてしまった。不覚。だけどたかが銃弾一つで止まれる私じゃない。
防御はすぐに展開できない、この状況でも覆せるというのなら!
「────私は、神の知恵を授か─────っっっゥぐっぁァッ!!!!!?」
詠唱を開始すると同時に首根っこをバークーサーに掴まれ、地面に体全身を地面に捩じ込まれる。直撃を受けた私の全身は悲鳴あげて痛みを訴える。
「───させねぇよ!!!このまま死んじまえッ!!」
「ハ──私が、ゥぐ、、、ァァ、!」
死ぬ。いやだ、いやだ、いやだいやだ、嫌だ、ここで終わりなんて嫌だ。もっと生きたい、もっと生きたい、もっと、もっと───たすけ、て。
「ザ──────ッ!!!」
何かが切れる音がした。私の首を掴んでいて手は緩まって私は大きく息を吸った。そして目の前でバークーサーが大きく後ろに飛んで、切断された腕と切ったであろう相手に視線を向けた、
「───ハ、ハハ……マジ、ハハハ───」
バークーサーは不適な笑を浮かべた。体が急に誰かに持ち上げられる感覚を覚えた、靁、靁が来たの?そう思って私は自分を抱えた人の顔をよく見た。
「て、てんま………っ!」
「……待たせたな。夏。心配かけてごめん。」
そこにはいつもと変わらない天馬がいた。目の前には敵だらけだというのに変わらず優しい天馬が私にそう言ってくれた。私は泣きそうな思いをグッと堪えて、天馬と同じような笑顔を見せて返事をした。
「────天馬。」
「正治、敵になったのなら容赦はしない。」
「僕も、するつもりはない。」
「そうか。」
二人が互いに向き合い、そう言い合う。そしてその空気を破壊するようにバークーサーは超速再生した腕で天馬を殺しにかかる。
「……夏、離れていろ!」
天馬は私は自分のすぐ後ろに立たせて、前へと進む。
「今度は、お前がッ楽しませろォォォォォ!!!!」
「─────竜王剣!!!」
体を一回大きく捻って、まっすぐバークーサーの方から腰にかけて剣を振り回した。バークーサーの剣が天馬に当たるより早く、バークーサーは大きな傷を負い、向こう側まで吹っ飛ばされた。
「バークーサーっ!?」
戦闘狂であっても少なくとも技量においてはここの誰よりも優れているバークーサーが一撃で直撃を受けたことに魔族将軍は驚いてた。そしてその姿に向けて天馬は剣を指す。
「次はお前だ。──夏を傷つけた報い、受けてもらうぞ!!」
「!」
私はこれから戦い始める天馬の邪魔にならないように少し離れたところに移動した。
それを確認していた、天馬は私が離れると魔族将軍へと踏み出そうとする。
[ダダダダンッッ!!!]
正治が撃った弾丸がそれを遮った。続けて放たれる銃弾を適切に全て切り伏せる天馬、正治は何も言わないただ天馬を殺すためだけの殺気を向けているだけだった。
「………もう、何も話すことはない───さぁ、こい魔族!!!!」
「いうじゃ──ねぇーーかぁァァ!!!!!!」
バークーサーが地面から這い上がって一瞬で傷が再生した。近衛魔将特有の再生能力は、私も何度も傷つけられた。でも天馬ならきっと勝てる。私はそう信じているから。
『!!』
その場にいた私を除く全員が戦闘体制になって武器を構えて戦い始めた。
天馬は一歩も引かず、正治と魔族将軍、そしてバークーサーと一人で渡り合っている以前ならありえない光景だ。天馬は確かに私たちの中では一番強かった。それでもあそこまで戦いをこなせるような人じゃなかったはずだ。
「アマミヤ様!大丈夫ですかっ!!」
「王女様、、天馬は、」
「ナリタ様は、急にあのようになって──元に戻ったのです!」
「…………。」
私はアイツの姿を見た。あれは誰かに勧められたとか誰かにそう言われたとかじゃない。元の世界で真っ直ぐにただただ真っ直ぐにしたいことをしていた時の天馬の目にそっくりだった。
あぁ、だから私はこう感じた。
「アンタは、いま自分の意地で戦ってるのね。」
「クソがっ!!お前何をした!?」
「何もしてない、俺はただ自分の本当にしたいことを見つけただけだ!!」
「なに!?」
「────プロヴィデンス・フォースッ!!!」
天馬の剣が光初めて、あたりに希望の風圧が形成される。誰もが立っていられないほどの風を感じ、身動きが一気に取れなくなる。
「────神光力剣ッッ!!!!!」
薙ぎ払いのようにまとめあげられた光は三体の魔族を飲み込み、そのまま地面に叩きつける。
大きな爆発とともに光は収束し、戦場はシーンとし始めた。
「───っくそ、が。」
最初に地面からバークーサーが這い上がってくる。そして後に魔族将軍と正治も出てくる。でもその五体はほとんどボロボロ、以前聞かされていた天馬の技の威力、範囲ともに確実に進化している。あんなに何度撃っても効かなかった魔族の体をズタボロにできるのは、それくらいすごいこと。
「っ。今のは痛かった。」
「残念ですが、撤退しかないようですが?」
「────ッチ。勇者ぁ、次は殺す。」
三体の魔族はバークーサーの言葉を皮切りに空を飛び一気に撤退していった。そして残った私たちの姿を見て、天馬は少し笑ってまた真面目な顔になった。
「靁を、助けに行こう……!」




