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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター6「心を持つ者達」
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54話「届かなくて。」





 道に沿って、靁を探しながら適当に村をぶらぶらと歩いているといろんな人たちに話しかけられた。


 「おや、もう大丈夫なのかい?」


 「ぇ、ぁ、、はい。」


 「うん。でもまだ治ってはなさそうだね。ゆっくり休みなよ。」


 「、わかり……ました。」


とあるおばあちゃんからそんなふうに言われた。もちろん面識なんてない、ただこっちのことを知っていてこっちのことを理解しているようだった。


 「ん?アンタは──たしか、ライのお仲間さんかい?」


 「……はい。」


 「そうか!そうか!歩けるようになったんだな!!あ、これライのやつに渡してくれ、この前の礼にな。」


 「、どうも。」


渡されたのはみたこともないフルーツ。戸惑いながらも私はフルーツが入ったカゴを受け取る。どれも不思議な形をしていているけど、なんだか美味しそうなことは伝わる。


 (靁。何やったの?)


靁は仕事としか言ってなかったから、てっきり害獣駆除みたいな戦闘系かと思ったけど、それでこの慕われようはなんか違うなと思って私は靁を探しながらまた散策した。


 「大丈夫になったか。よかったなぁ。」


 「お姉ちゃん、大丈夫?」


 「いくらでもこの村にいていいからな!」


 (やっぱり、なんかおかしいでしょ。)


まだ傷は完治しているわけじゃない。それなのに靁当ての荷物で私の両手は塞がっている。いや、このくらい別に勇者として全然軽いレベルなんだけど、でも一体本当に靁は何をしたんだろう。って気になってきた。


 そう思いながら歩いていくと、靁を見かけた。村の人たちと話しているようだから私はこっそり民家の陰から靁と住民の会話を盗み聞きした。


 「助かったよ!あそこは厄介な獣が大勢いるから、薬草も取りに行くのに一苦労で……!」


 「また、何があったらいつでも呼んでくれ。この村に世話になっている間はどんなに些細なことでも協力する。」


 「あぁ!助かるよ、それにまたお仲間のためにこっちが用意できることとかあったら気軽に呼んでくれ!」


 「助かる。それじゃあ失礼する。」


靁は村の人たちの困っていることを解決して回っていた。ちょっと信じられなかった、昔の靁は特に困っている人のために動くというよりも自分の身近な人のために動くっていうか気が強かったから。だから変わった今でも変わる前でもあんな光景、全然想像できなかった。


 (本当に、靁なの?)


前までこう、厨二病全開で拗らせていたあの靁が?人助け?あの人を殺すのに躊躇がない靁が?あの靁が?


って私が怪しんで考え込んでいると。


 「………会話を盗み聞きなんて、よくないぞ?」


 「きゃあっ!?」


すぐ近くに靁がいた。びっくりした私は大きな声を出して、靁から後退りして頭からつま先まで本物かどうか見回した。


 「そんなに驚くことか。」


 「そりゃ!誰だって、気配なく近づかれたら、驚くわよ!何してんの!?」


 「………すっかり元気みたいだな。」


 「……。」


 「ほら、宿屋に戻るぞ。散歩は終わりだ。」


靁から差し出された手をとって私は立ち上がって、大荷物を二人で抱えたまま帰路についた。靁が私の荷物を半分以上持ってくれたおかげで会話できる余裕があった、私は気になっていることを聞いてみた。


 「最近ずっとあんなことやってたの?」


 「あぁ。お前達の回復を急がせるって意味でも自分一人で何かやるのには限界があるからな。金で解決できるって感じでもなさそうだったし。」


 「……意外ね。今のアンタなら、力でねじ伏せられもしたでしょ?」


悪いと思いながらも靁にタブーを言う。靁の足は止まらない。


 「………そうだな。そっちの方が楽だったかもな。」


靁は適当に返事をして少し歩くスピードを早める。私はその返事に何も返さず宿屋まで黙ったままだった。


 靁は両手いっぱいの手荷物の中、食料をマーズに分け与えて、それ以外は自分で保管した。私も同じようにした、靁曰く。


 「料理はできる人に任せた方がいい。」


とのこと。つまり靁は料理があんまり得意じゃないんだなって思った。そして靁につられた通りにそのあとは行動して、そして私は今天馬の部屋の前にいる。


 「………靁。」


 「夏、コレだけは言っておく。今のアイツはお前の知っている天馬じゃない。」


その言葉に私は息を飲んで覚悟を決めた。一体この扉の先にどんなアイツがいるのか、私はもしかしたらみない方がいいのかもしれない、でも友達の、大切な人のことなんだから逃げたらダメだと思って扉を開けた。


 「───────。」


部屋の中にいたのは、天馬の姿をした廃人だった。ただボーッと窓の外の風景を見ながら、いや見ているのかすら怪しい。ただそうしているだけのように見えた。ともかくそんなふうにしながら目には生気が宿っていなく、体はひどくやつれていた。


 「………また食事を抜いたか。」


机の上に置いてあるパンは一口も、なんなら手すらつけられていなかった。だから靁の言葉の言っている意味も理解できた、でもそれ以上に。


 「───天馬、天馬!」


私は天馬に駆け寄って体を揺らす。ただ天馬は聞こえない声でぶつぶつ話しているだけだった。私はそこで見た目以上に心がもうダメになってしまっているということを理解した。


 (なんで。)


 「……天馬!私!夏がわからないの!!?天馬!!!」


 「…。。……。…。。。。」


私が大声で叫んでも天馬は動じなかった。天馬の世界と私の世界が断絶されているような気すらする。体に傷は一つもなくても、天馬の心はもう傷と言えるほどのものは残ってなかった。そうだ、傷なんて軽々しく言えるほどのものじゃなかった、もう空っぽだった。


 「─────てん、ま……ぁ。」


そんな天馬を見ていると悲しさが込み上げてきた。私は自分の無力さに打ちひしがれようとまでしていた。私が天馬を追い詰めたのかもしれない、私が天馬のことをもっとしっかり見ていればこんなことにはならなかったかもしれないのに。


 「………夏、そいつはどうにもならない。───それより手伝ってくれ。」


 「………ぇ。」


靁は体全身から影のようなものを出していた。そしてそれをゆっくりと天馬の体にくくりつけていた。


 「靁、なに。して、」


 「いくら勇者でも何も食わなかったら死ぬ。そしてこいつにはまだ死なれたら困る。」


 [────ドォン!!]


靁は影を使って天馬の体を宙に浮かせて、そして床に叩きつける。天馬が身動きできないことを理解すると馬乗りになって、砕いた果物を天馬の口に捩じ込み始める。


 「───っ!うぇ!!あぁぁぁ!ぁ!っ!ぅああ!!」


 「ッ暴れるな!!それだけの力が残っていて!」


 「靁!!」


私は靁にやめてと言おうとした。でも、靁のやり方は野蛮的で暴力的で本来は止めなきゃいけないことだけど。天馬はそうしないと死ぬことも理解していた。だから私は震えて、何もできずにその光景を眺めているだけだった。


 「──っ!ああぁっ!!!」


天馬が勇者の剣を出して、靁に向かって振るう。精神が壊れていても天馬は天馬で靁の体に剣を乱暴に刺した。


 「靁ッ!!!」


 「っこの!掴んだからなッ!!」


靁はそんな抵抗を関係なく魔族化した左腕を放出して自分に刺さった剣を確かに掴んで、人間の右腕で天馬に無理やり食事を続けさせる。それがたとえ次の瞬間には吐き出すことになっても、その吐き出したものを無理やり詰めるように何度も、何度も。


 「………ぁ。」


私はその光景をただ黙って見ているだけだった。数分が経過して。ある程度天馬に食事をさせた靁は抵抗疲れて眠った廃人の天馬をベットに乗せて、私を連れて部屋を後にした。


 「夏、覚えておけ。あれが今の天馬──だ。っ……く。」


 「靁、け、怪我は?」


 「なんともない。このくらいすぐに治る。それにあれくらいの抵抗、織り込み済みだ。」


靁はゆっくりと立ち上がって扉の方へ向かう。


 「………あれが、正解なの?」


靁に私はそう言った。天馬はひどく苦しんでいた。それこそ自分で死を選びたくなるように、もちろんそれが正しいなんて思ってないけど、それが正しいように思ってしまうように。それに靁のやり方は、また天馬を戦いに行かせるようなものだった。そんなことは本当に正しいの?


 「……俺も、わからない。ただ、天馬には死なれたらダメだ。大勢の人が死ぬ。そんなことは、望んじゃいない。」


 「………それって、」


靁の今の言葉で確信した。靁は、確かに天馬のためにやっているんだなって、そうだもしか天馬がそうならこれは、、どんなにひどくてもやってあげないといけない。苦しいけど。


 「それにさ………勝手に死んだら、悲しいだろ。」


 「────っ。う、ん。」


私はその時の靁の言葉と表情を決して忘れない。そして私も覚悟を決めた、もしこの先天馬が望んでなくても靁の考える通り、アイツが幸せになるために動こうって、それが今は良いって。




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