53話「足りなかったもの」
「………さすがだな、傷はもうほとんど完治している。戦うのは無理でも歩いたりそこら辺に行ったりするのは大丈夫そうだ。」
靁が包帯をとって傷の具合を見ながらそう診断してくれた。
「ありがとう、靁。あとは一人でもできるから、」
「そうだな。それじゃあ俺は仕事に行ってくる。外出してもいいが安静にはしていろ。」
靁は道具を持ってそのまま部屋から出ていった。ここ数日靁の世話になって傷はもうほとんど治った。動かせなかった体をゆっくり起こして私はベットから立ち上がる。
「あ、とと。」
壁に手をついてなれないながら立ち上がる。数日間横になっていればこうなる。自分はまだ怪我人なんだと理解しながら、近くにあった外出用のローブと髪飾りをつけて、扉を開けて部屋の外へ。
(……神兵武装は負担がかかるから使っちゃダメなんだっけ。)
靁の言葉を思い出して部屋の外。続く廊下を歩いていって階段を下った。
階段を下った先は食堂のような、バーのようななんとも言えないような場所だった。私は静けさが包み込むその空間を少し見て回っていると、誰かが裏の扉を開けて木箱をもって部屋に入ってきた。
「よ、よーいしょ。っと、、、ふぅ。」
箱を置いたのは活発な私と同じくらい、いや少し年下の女の子だった。汗を拭って次の仕事に取り掛かろうとする時、私と目が合った。
「ぇ、あっ!!!おはようございます!傷は大丈夫ですか───?!」
「え、えぇ。まぁ。」
引き留めてしまって悪い、って思う前にその子はカウンターから乗り出して私の姿をよく見ながら心配してくれた。この世界に来て奏以外に女の子と会ったのは久しぶりだったから話し方が自分自身ちょっとぎこちない。
「あ、よかったら何か朝食でも用意しましょうか!?」
「……そうね、それじゃあ、、お願いするわ。」
女の子が準備をし始めて、私は一番近くのカウンターカウンター席に座った。改めて一階を見回す。酒場みたいな雰囲気だけど、二階には確かに人が休める部屋が用意されてあったし、ここはやっぱり宿屋なのかな。
「それにしても、みなさんすごい回復速度ですね。ライさんもここに来た時はすごいボロボロだったのに一日経ったらほとんど傷が治ってたり、あの様子じゃ半年は動けないじゃないかなって思ってたんですけど。───やっぱり!都会の人ってすごいんですね!!」
「え、えぇ。そうね、都会の人かどうかは難しいけど………。(………靁。ずいぶん苦労をかけたみたいね。)」
「あ、自己紹介がまだでした!私はマーズ、この星火宿屋の従業員です!」
「夏よ。数日も宿屋を使ってごめんなさいね。」
「いえいえ!元々、お客さんなんていなくて退屈──じゃなくて!栄えているわけじゃなかったので、なんでも!いくらでも使ってください!」
マーズはテキパキと朝食を作っていく。私はその様子をカウンター越しに見ながら、ただぼーっとしていた。なんだか、こんなに平和だったことすごく久しぶりだったから、鳥の声が外から聞こえて朝の日差しが窓から射す。なんて素敵なんだろう。
(私達は、元々こんなに平和だったのよね。)
「できました!簡単なものでしか作ってませんが、どうぞ!」
「ありがとう。いただきます……。」
「………ライさんもですけど、いただきます?ってなんですか?」
私が出された朝食にフォークを刺そうとした時、マーズが聞いてきた。そっか、この世界じゃこんなことは言わないんだ。いや、そもそも私達日本人の文化よねコレ、
「私たちの故郷はね。食事をするときに、食べ物への感謝を込めて挨拶をするの。」
「へぇ、とってもいいですね!」
「……そうね。」
でも、もうその故郷には帰れない。なんて言葉は言いたかったけど言えなかった。戦線での味気ない食事よりも、ここの宿屋の食事は質素だけどとても美味しかった。
「ご馳走様。美味しかったわ、少し外を見てきてもいいかしら?」
「どうぞ!多分ライさんが村でちょっと雑用をしていると思います。」
マーズの言葉を聞いて、私は宿屋の扉を開けて外に出た。窓から入る日差しよりも強い日光が、思わず瞼を重くした。ずっと部屋の中にいた私からすれば直射日光はとても眩しくて仕方なかった。
「………本当に、村なのね。」
町とすら言えないほどの小さな村。のどかな雰囲気が何よりもの証拠。道路は人が長年の踏んだことによってできた、半自然的な作り、家のほとんどは大きな感覚を開けて転々とあって、全部丸太なんかで作った木製。
向こう側を見てみれば山が連なっている。こんな風景今まで見たことなかったから靁がすごく苦労してこんな辺境まできたことが同時にわかった。
(ほんと、感謝してもしきれない。)
そう思いながら、せっかく外に出たことだし少しあたりを散策しようと私はゆっくりと歩き始めた。




