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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター5「さようなら、さようなら、さようなら」
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50話「その心にさようなら」





 逃げる。逃げる。逃げ続ける。足場にならない場所を駆けていく。ぬかるんだ大地を精一杯蹴って、逃げないといけない。


 「ぁ、ぁ、天馬……?」


 「───夏!」


目を覚ました夏に思わず足を止めたくなる。ただそんなことしたらいけない。今はいけない、後でいっぱい夏の手当てをしてやるから。今はとりあえず逃げないといけない!


 「……らい、は?」


 「アイツなら無事だ!頭半分吹き飛んだのにピンピンしてた!だから、今はゆっくり休んでてくれ!!」


 「………─。」


夏は俺の言葉に安心して再び目を閉じた。俺はこいつを抱えたまま、そのまま逃げていく、でも思った。俺は俺たちはどこに逃げればいい、どこに逃げれば助かる。どこに逃げれば、もうこれ以上何も失わずに済むんだ!


 「くそ──っ、くそっ!!」


それでもがむしゃらに走った。走って走った。でも自分の中にある不安は一向に消えなかった。今後ろを振り返れば死ぬ気がした、今立ち止まれば死ぬ気がした。


 「───逃げないと!逃げないとッ!!」


 [ドンドドドドーーー!!!]


 「っ!!」


何かが大地に落ちる音、すぐ後ろからくる死の臭い、すぐさま夏を力強く抱きしめながら転がり、攻撃を間一髪で避ける。地面と激突したことで生じる体の痛みに構う暇なく、空を見上げた。


 「───不様になったなぁ、勇者!!」


 「──バークーサー……っ!」


まずい。今バークーサーと戦える余裕は俺にはない。夏を守り切れる自信がない。それに、いつもと違って勇気を飲み込む力がなくて、足が震えている。逃げろって言ってる。


 (逃げれるのか!こいつから……っ!?)


 「おいおい、マジで怖がってんなぁ。正直戦っても意味がねぇ。」


 「ちょっと、ちょっと───」


 「!クランクイン!!」


 「───ご名答。僕も仲間に入れてよー。」


虚空からクランクインが現れて、バークーサーの方を叩く。バークーサーにクランクイン、最悪な状況がさらに最悪になったことを悟った俺は内心、気が気じゃなかった。


もうこの状況から逃げれると思う方が、おかしい…っ!


 「クランクイン。なんの真似だ?俺は魔王の命令でこいつを今から八つ裂きにして殺さねぇといけねんだが……?邪魔すんのか?」


 「まっさかー!ただ僕も彼に用事があってきたんだよ。君はやりたくない仕事をする。僕はそのやりたくない仕事がちょっと嫌になるだけで最高の旨みを得る。ってだけ!」


 「…………ちっ、そういうことか。ま、最初から乗り気じゃねぇ好きにしやがれ、ただ俺が気まぐれで見つけた────」


バークーサーは俺が走ってきた方向を見る。そしてだんだんと口角が上がって歯を見せ不適な笑顔に変貌した。俺は悟った、あの方角には靁がいる、もしやこいつは─!


 「───アイツを殺して帰ってくる間になッ!!!」


 「ま、待て───!」


 「またないよー!」


 「っ。」


バークーサーが飛び立ち、俺の声を行く手を遮るようにクランクインは宙返りで俺の目の前に現れる。


 「ふふ、君には今から絶望を味わってもらうんだから!」


 「絶……望、」


 「うんうん。もう絶望には慣れっこだと思った?ただ今回はそんなもんじゃない。これは間違いなく誰もが口にする最低最悪の呪いの言葉、それはただの言葉、でも君を再起不能にするには十分な言葉なんだよ……っ!」


 「……………っ。」


何か攻撃が飛んでくるかもしれない。こいつの言っていることはいつもわけがわからない。でもせめて今は夏だけは守らないといけない。

俺は腕の中にある夏をしっかり抱き抱える。


 「不様だねぇ。ほんっと、今の君は誰かのヒーローでもなくて、その娘を守れる勇者でもない。不様すぎて、アハハ……!今にも笑い転げちゃいそうだよッ!!!」


 「…………お前はッ」


 「あーっと、と、と!ごめんね。これは僕の問題だぁぁ大丈夫今言うから、この世界いや、人類が犯している史上最大の罪をね!」






<──|||──>






 殺す。殺す。殺す。。殺す。殺す!目の前の純白の騎士を殺し続ける。今の俺は動く殺意、殺意だけが今の俺を動かし続けて殺意だけが俺の思考ロジック。殺す。


 「────!!」


体から伸びる影を使って腕、脚、心臓、頭を無差別に切り落とす。奴らの光矢なんてものは関係ない、一切合切関係ない。打たれるより早く殺して、撃たれるより早く殺して、撃たれるより早く殺す!


 「うおアァアアアアァァァァッッ!!!!」


 「───これではまるで化け物ですね。」


あの2人を殺しかけたクソ魔術師を潰す。殺す。アイツを殺せばこんな動く神の木偶の坊に、殺す。構う暇なく殺して、殺してやる。


鎌を振え、殺す。左腕で全てを、殺す。影で奴らの心臓を、殺す!コロス!コロス!!コロス!!!


殺意だ、殺意こそだ、殺す。、殺意、殺意が殺す。殺す。殺意だけが、殺す。殺意だけだから、殺す。この、俺の、殺す。が、刃だ!!


 「────殺す。」


 「アッハハハハハハ!!!!!」


殺す。聞き覚えのある声だ、殺す。災いを、厄災をもたらす。戦場の、魔族。殺す。。殺してやるさ。たとえそいつがなんであろうと、殺す!


 「防御陣形!!」


 「───死ねぇ!人間!!死ねぇ!!大魔族ッ!!俺を楽しませろォォォォ!!!!」


殺す。血の匂いを嗅ぎつけた、殺す。バークーサーが無数の剣で、殺す。あたり一体を針山に、殺す。して俺に二刀で、殺す。切り掛かってきた、殺す。殺す!


 「────バークーサー、お前を殺し尽くす。」


 「いいぞ!!やってみせろ!死鎌!俺を楽しませろ!!本当のお前を見せてみろ!!」


 「────殺す!!」


殺す。鍔迫り合い、殺す。をしていたバークーサー、殺す。を蹴飛ばして、殺す。攻勢に、殺す!殺す!!殺す!!!


 「さぁ!お前はアイツらのとろこに行けるかッ!!あぁッッ!!?」


 「─────天馬、夏ッ。」


 「ッ!俺を退かせるつもりか、随分舐めてんなぁッ!!」


殺す。剣が俺の体につき刺さる、殺す。ただそれを左手で、殺す。払ってバークーサーを、殺す。叩き潰す!!殺す!


 [ゴゴゴゴギィィィン!!!]


 「マジかよ!こんな音初めて聞いたぜ!」


 (今の一瞬で防御したかっ!!殺す!)


 「今です、攻撃を開始しなさい!」


 「邪魔、、だ!」


殺す。背後からの攻撃が飛んでくる、殺す。トーマスが率いる純白の騎士が弓を放ち、殺す。俺とバークーサーをまとめて攻撃する、殺す。うざいやつ!殺す。


 「神聖付きかよ!いいぜ!お前らもぶっ殺すッ!!」


殺す。バークーサーの意識が、殺す。トーマスの方に逸れた隙を狙って、殺す。一気に戦場から離脱する、殺す。いくら殺意に飲まれても、殺す。あの2人の安全が、殺す。今は第一だ、殺す。


 「!待てこの野郎ッ!!」


 「バークーサーを逃してはなりません!攻撃を続けなさい!」


 「クソ、ちくしょー!!」


 (これで、しばらくは、もつか…!)


バークーサーが、飛んできた方から、殺す。逆算して、殺す。2人の居場所の方向に、殺す。移動する風魔術を使わずとも、殺す。今ならこの影が俺の新しい羽になってくれる、殺す。


 (魔族の視力ならっ!見つけた──!ころ……さないッ!)


殺す。なんとか、殺す。意識を抑制、殺す。して、殺す。2人の元へと、殺す。いく、殺す。ただクランクインが、殺す。そこに、殺す。いた、殺す。


 (まずい、予感が、、するっ!!アイツは、何を話そうと、している!!)


殺す。アイツの口から余計な言葉が飛び出す前に、殺す!!






<──|||──>






 「君はなんで魔族が生まれたのか知っているかい?」


 「魔族が生まれた……?」


それは、魔族っていう存在が最初からないみたいな言い方だった。俺はそれが今その時どうしても気になってクランクインの話に本来なら耳を傾けない戯言に耳を貸した。


 「まず、魔族は生まれたんだよ君たち人間から。」


 「…は、何言って──?」


 「いま、すっごくわかんないって顔だよね。うんうん、気持ちはわかるよ。でもね事実なんだ。魔族は人間の憎しみによって生まれた。」


 「にく、しみ。」


脳裏に靁の姿が浮かんだ。魔族を憎んで憎んで憎んで、殺して殺して殺し尽くすアイツの姿が。そこに慈悲はなく、あるのはただ決して消えない感情。まさに憎しみそのものだった。


 「神様は言ったんだ、人間には無限の可能性があるって。そして魔族はその一角だよ。つまりね、魔族はね────"人間が人間を憎んだことによって誕生した、いや人間が進化した姿"なのさ。」


 「人が、人を、憎んで………。」


靁は、憎んでいた。魔族を。もし、こいつの言っていることが本当なら靁が魔族になったのは、


 「まぁでも近年では、魔族を憎むことによって生まれる例もあったね。あの勇者くんとか。」


 「─────。」


 「でも、元を正せば、人を憎んで生まれたことには変わりない。ただ重要なのはここでの憎むって、ケンカとか競争とかそんな単純なものじゃない。自分の命を使ってでも相手を確実に殺す。つまり本当の殺意、人が決して抱くとを許されないくらい憎むこと、そうして僕たちは生まれるんだ。」


 「なん…でっ、」


 「なんで、そんなに憎むのか、君にはわからないだろうね。───教えてあげるよ。」


クランクインは地面から人間の死体を一つ取り出し、俺の前で演劇を始めた。


 「この世界はとっても残酷で、ある子は身も心もズタボロになって、人を憎んだり。」


その死体は体の至る所を無惨にも突き刺され、そして、バラバラに砕け散った。


 「ある色んな人に人生を狂って狂って狂わされて、もう死にたいと思う経験をして人を憎んで。」


その死体は周りの死体に攻撃され、砕け散った。


 「ある人はこの事実を知って、自分の責任に耐えきれなくなって、人を憎み始めたり。」


その死体は立ち上がり、自分の胸にボロボロの剣を突き立てて砕け散った。


 「ある人は自分の異常性を誰にも理解されないまま、一人狂って狂って、自分を認めなかった人を憎身始めたり。」


剣を両手に持った死体はあらゆる死体を切って砕け散った。


 「でね。ここまで言えばわかるよね?」


あぁ、わかる。わかってしまった、そういう人がいることを、今まで見て見ぬ振りしていた自分の情けなさも、そしてその事実を。


 「そう、わかったんだね!君は────」


 「────クランクイン!!それ以上喋るなッ!殺してやるッッ!!!」


 「───今まで人を殺していたんだよッ!!」


──クランクインの言葉が頭の中で何度も、何十回も何百回も反響した。そして、俺はこいつの言葉通り絶望した。


 「クランクインッ!!!!!!」


 「────っ!!ったッ容赦ないなぁ君はッ!!」


靁の攻撃で両腕一瞬にして飛ばされたクランクインは得意な能力で一瞬にして姿を消した。殺し損ねた靁の舌打ちが聞こえて、その後俺のところに来る。


 「追いついたぜぇ、死鎌ッッ!!」


 「退け、バークーサー!!」


立ち塞がるバークーサーは俺を通り過ぎて、靁と戦い始める。そして向こう側からゾロゾロと純白の騎士達が武器を持ってやってくる。


 「魔族、そして勇者達を皆殺しにしなさい!!」


 『ハ。』


俺を取り囲む敵に影の攻撃が襲いかかる。まるで鋭い鞭のように騎士達の心臓と首を確実に狙い、あっという間に殲滅していく。


 「よそ見すんなよ!死鎌!!」


 「───このッ!」


二人の戦う声が聞こえてくる。俺達二人は蚊帳の外だ。ただそれももうどうでもいい、俺はもう自分を守る気もこいつを守る気もしない。だって俺たちは人殺しだから、今の今まで何十人も殺して、殺して、殺し尽くしたんだ。それも、人間じゃなくて、人間に人生を無茶苦茶にされた被害者を。


 「──天馬!立てッそして逃げろ───ッ!!」


 「立てねぇよ!そんな木偶の坊がよッ!!」


 「逃がしません!必ずここで始末するのです!!」


もう、周りには敵しかいない。俺達が守るべき存在はいない。俺達勇者が出る幕なんてない。もうこれ以上頑張らなくていい、もうこれ以上苦しまなくていい、もうこれ以上。誰かを助けなくていい。


 (もう………ここで。)


 「しゃらくせぇ!!!全員まとめて殺してやるッ!!!」


バークーサーの剣先に赤い光が集まる。以前も見た全てを破壊する危険な光。その場所はここを向いていた。アイツの剣が靁へと一斉に襲いかかって本体を守る。まるでバークーサーを中心にして回転する台風みたいだ。


 「全員防御体制!私が迎え撃ちます!!!」


トーマスが両手を合わせて呪文を唱える。手には大規模な魔法陣が形成される。夏が一回使ったところを見たことがある。殲滅魔術、あたり全てを焼き払って何もかも残さない。文字通りの魔術。


 「ッ天馬!!立て!!!」


 (………。)


靁には申し訳ないけど、俺は無理だ。俺もうだめだ。もう何もできない。


 (夏、ごめん。)


でもきっと、多分。ここで終わった方が俺達きっと幸せだろうから。靁みたいに絶望の中でも戦い続けられるほど強くないし、靁みたいに魔族になっても自分を見失わないくらい強くない。


だから─────ごめん。


 [───────ッッッッッッッッッ─ッ─ッ────!!!!!!]


瞼越しに強い光が広がる。そして俺の意識は消えた。




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