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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター5「さようなら、さようなら、さようなら」
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49話「二翼均壊」





 戦線で止まっていたら死ぬ。って昔言われた、だからとりあえずでもいいから動いて俺たちはコーズの砦を占拠してそこにひとまず身を寄せることにした。


 「…………。」


 「天馬、大丈夫?」


 「──」


大丈夫って返すのはとても辛かった。だから俺は吸った息をそのまま吐いて、心を落ち着かせようとする。ただそんな簡単に落ち着く話じゃない。


 「今、ここにいるのは私と天馬だけ。靁は見回りに行ってるから。」


 「………。」


夏が両手の居場所を探していた。俺は視線を少し落として、静かに抱擁を受け入れた。


 「………大丈夫、大丈夫。」


夏は俺にそう言い続ける、ただそんな言葉を言っていた夏でさえも体震えていてそして声も涙声になっていた。


俺は何も言えなかった。勇者としてここは何か希望のある言葉言ってやれれば良かったんだろうが、そんなことできなかった。今の俺の心はひたすらに疲弊していて、それでいて何も考えたくなかった。


みんな死んで、正治は俺たちの前から去った。そして靁は本当の本当に魔族になった。


 (もう、めちゃくちゃだ………奏は死んで、正治は目の前から消えて、俺は──どうすれば…。)


瞼を閉じて、今は何も考えずに眠ることにしよう、そう考え始めたときだった。


 「天馬、夏。」


 「……靁っ!」


夏があわてて俺から離れる。俺は視線だけゆっくりと靁の方へと向ける。


 「トーマスが大軍を引き連れてきた。」


トーマス、トーマスさんのことだ。大軍、もしかしたら援軍を連れてきたのかもしれない。


 「どうする天馬。」


 「……!」


夏は俺の方を見た。とても嫌がっている様な顔だった、あぁ多分俺のことを案じてくれたんだなってわかる。そうだ、今の俺はとてもじゃないが戦える状態でもなければ勇者として振る舞える状態じゃない。


もう、正直逃げたいって思う。でも。まだこんな戦えない俺でも何かできるならって考える。これが最後だなんてのは多分ない、それでも何かできるなら、もう少し前に進むくらいは。


 「行こう。」


 「わかった準備しろ、天馬。」


 「天馬………。」


俺たち2人は砦から出てトーマスさんが引き連れてきた純白の騎士達がここに来るのをじっと待った。先頭を歩いているトーマスさんの姿はいつもよりどこか真面目な様に見えた。


靁には誤解が生まれないように砦の中で待機してもらった。


 「ナリタ様、アマミヤ様。ご無事で何よりです。」


 「トーマスさん………すみません。兵士を、たくさん犠牲にしました。」


 「………問題ありません。彼らは最初から決死の覚悟でこの戦前に来たのですから。」


 「トーマスさん。俺は………。」


 「───戦場は残酷なものですね。ですがご安心くださいナリタ様。あなた様はもう戦わなくてもよろしいです。」


 「え、」


 「国王様から、勅命が下されました。」


 「勅、命……?」


 「はい。勇者を始末しろと…………。」


は?


 「ということで────さようならナリタ様。」


トーマスさんの顔が一気に変わり、指先に光の粒が集まり、それを一直線に俺の脳天に向けて飛ばす。気づいたときには遅かった、この魔術はおそらく俺のありとあらゆる防御を貫通する。いくら勇者でも脳天に直撃されれば、それはまさしく死、一直線だ。


 (────これ、で。)


夏の呼びかけが聞こえる。俺によけろって言ってるんだろ。でもごめん、俺は避けられないもう疲れたんだ。何もかもから逃げたい、でも逃げても役目が俺を縛り続ける。ならいっそのことこれで──


 [ドシヤ────ァ………!]


 「て、んま………。」


目を瞑ろうとして、死を覚悟した。ただ俺に死は訪れなかった。代わりに訪れたのは、親友が俺を庇って脳天を半壊させられた姿だった。

魔族と人間の血液の中間、紫色の体液が俺の頬を掠め、水っぽい音共に靁は地面に倒れた。


 「──────ら、い……?」


俺は名前を口にしたが、靁は動きを止めていた。いまの、今のたった一瞬まで生きていた靁はもうぴくりとも動かなかった。

そこでようやく俺はわかった。俺に当たるはずだった一撃必殺の攻撃、それを靁が身を挺して庇ったこと、なんで。なんで庇ったのか理解できなかった。


 いや、そんなこと必要ない。靁は姿形本質までもが変わっていたとしても最初から変わらず靁だったからだ。


 「……これは、意外。防がれましたか、ですが一番厄介な敵が消えたと考えれば上々──」


 「───っ!!トーマス!それ以上喋るなら、あんたを殺すッ!!」


トーマスの言葉を切り、夏は怒りをあらわにして魔術を展開する。そして即座にトーマスやその背後にいる純白の騎士達に向けて攻撃を開始した。数撃の爆発が起こった後、夏は攻撃をやめて、俺の元へと駆け寄る。


 「舐められたものですね。」


トーマス、そして背後の純白の騎士達は平然としてしていた。それどころかトーマスの手には先ほど夏が放った幾千もの魔術、それが一つに圧縮された球体を手にしていた。それを躊躇なく、前触れなく俺たちに向かって放った。


 今度こそ俺は死を覚悟した。ただ死はまた俺には訪れなかった。夏が防御魔術を展開しながら俺の前に立って身を挺して守ったからだ。

目を瞑りたくなるほどの強い光がおさまった頃。夏はズタボロの姿で、俺にもたれかかって倒れていた。


 「な、、つ。」


目の前で色んなことが起こって脳が全然間に合わなかった。怒りよりも悲しみよりも失望が先に来て、俺の心を覆い尽くし、完全に失意に飲まれた。


 「いくら勇者といえど、魔術を貴方に教えたのは私です。さて、今度こそ終わりですが私は疲れたのでこの者達に任せましょう。構え、」


弓を持った純白の騎士達が前に出て、俺に目標をつける。俺はもう、何もできなかった。何もする気が起きなかった。だって、多分それはもう、なんの意味もないから。誰にも求められていない勇者なんて、もう死ぬしかないって思ったから。


 「放て。」


 [シュイィィィッッザ─ンッ!!!]


純白の騎士達が鋭い音ともに一斉に横へ切断される。そして俺の前に1人の親友がたった。


 「──確かに脳をやったはずっ!」


 「残念だったな。俺は普通じゃない、次に脳天を狙うときは全部潰すようにしろ。じゃなきゃ俺は死なない……」


靁だった。今の今頭をやられて死んだはずの靁が立ち上がって、息を吹き返した。またわけがわからなくなった。いくら魔族でも脳と心臓が途切れれば死ぬ、それなのになんで靁は生き返ったのか。


 「天馬、聞け。今すぐに夏を連れて逃げろ。」


 「逃げ、る。」


 「お前が勇者として何もかもを失ったとして、お前は夏も捨てるのか?」


 「──────!」


そうだ。俺が何か失うなら、まだいい。でも夏が死んだり、何かを失ったりするのは、何か違う!


 「靁、お前は──お前も!」


 「………俺には仕事がある。戦えないお前達を逃がさないといけない。心配するな、脳が半壊したって俺は死なない。だから、さっさと行け──!」


 「──────っ!!!」


俺は夏を抱えて、急いでその場から逃げた。早く、早く、早く、目的なんてないただがむしゃらに、こいつを助けるために、靁の言った言葉とか、行動とか全部犠牲にしないために!


 「随分大きく出ましたね。この数から逃げれると?」


 「逃げさせるんだよ。それに、お前達こそ勘違いしている。」


 「…………。」


 「───本当の俺の殺意を見せてやる…………ッ!」




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