47話「二度とのさようなら」
正治と靁(?)の戦いは続いていた。互いに一歩も譲らず、完全な化け物となった靁(?)に正治は容赦をしていない。距離を詰めては距離を引き離して、ほぼ互角、ただ傷の再生の速さという一点で靁(?)は正治を確かに上回っていた。
「────くそ、さっさと死ね……っ!」
正治が赤い弾を三発放ち、靁(?)がそれら全ての軌道をずらし弾く、しかし赤い球は宙に軌跡を残し再び靁(?)の元へとホーミングして戻ってくる。
靁はその弾を対処せず体に当たらせる。ただすぐに被弾した場所の修復に当たって1秒後にはなんともなく体が球を吐き出していた。
「本当にくだらない……!こんなことなら最初に始末しておけばよかった!!」
「無理だ───、お前の行動はあからさますぎた。俺が気づかないと思っていなかったのか?」
靁はまた接近して、正治を追い詰めかかる。再装填を済ませながら正治は距離を取り、特異な弾で牽制と攻撃を両立する。
「最初から音風しか目がなかったお前。完璧な人間を演じられたと思っていたのか?身勝手にも何人もの兵士を無断で殺しておいて、許されると思っているのか……?」
「君の方がいっぱい殺している……!」
「そうだな。だから俺の罰は人を捨てること。そしてお前の罰は死のみだ───!」
一瞬の隙をついて靁(?)の影が正治の腕に絡みつく。銃口の位置を地面にずらし、その隙に接近した靁(?)は正治の右腕を切断した。
「───っあああぁ───ッ!!」
「正治……っ」
靁(?)は倒れた正治を追撃するため、彼の体に急接近する。そして左腕を大きく上げ天にその左腕を見せつける。
「腕が切り飛ばされて終わると思ったか?───死ね。」
「ウゴガアアアアアア!!!!!」
左腕を振り下ろす直前雄叫びが聞こえ、靁(?)の体を大きく吹き飛ばす。そしてそこにいたのは先ほど靁(?)に完全に始末されたコーズの首から下の体だった。
「……は?」
「──もーう。何面白いことしてんのさー、勇者と勇者のデスマッチ、正しくは大魔族と勇者のデスマッチかぁ……最っ高だよね!私も入れてよ!!」
聞き覚えのある声、空を見てみるとクランクインが不適な笑顔で宙を飛んでいた。
「クランクイン……!?」
「あれ?これは一番剣の勇者くんじゃん。その顔はってことはもう知っちゃったんだあの女勇者ちゃんが完膚なきまでに潰されちゃったコ、ト!!」
ニヤニヤしながら俺の顔を伺う。俺は目の前のことだけでいっぱいなのにクランクインの言葉に反応できずにいた。
「……んん?あれ、まだ知らないか。なら今ぶっ飛ばされた大魔族くんに聞きなよ、ほら彼私たちより再生能力高いからさ、今にすぐ───!」
影が宙を舞い、クランクインのあげていた左腕を切断する。そして死体となって操られていたコーズの体は一瞬にして真っ二つにされた。
「クランクイン────!」
「………近いってッ!!!」
地面から現れた骨たちが一丸となってクランクインに接近した靁(?)を引き離そうとするも、鎌の影が一瞬でその壁を使い物にならなくする。
「───まず!」
クランクインに靁(?)の一撃が触れようとした瞬間
[ダ──────ン!!]
「氷結弾」
正治が靁(?)を撃ち抜いた。そしてその構図は紛れもなくクランクインを助ける正治の姿だった。
「………へぇ、」
クランクインの口角がまた上がる。そしてあたりにいる魔族の死体達を一瞬で蘇らせて、体が氷になっていく靁(?)に向けて攻撃を開始した。
「お膳立てはしてあげたよ?」
「お礼なんか言わない。ただ───プロヴィデンス・ジャッチ……!」
正治が神の力を解放して、その光景にウキウキなクランクイン、照準は大量の死体によって身動きが取れない靁(?)へと向いていた。
「この一射は神すら赦す裁定。神断罪銃───────。」
その一射は確かに光り輝いていた。それはまるで悪魔を殺す弾丸、神が作り出した断罪の弾、一直線にあらゆる障害。空気、死体、肉体、そして靁(?)いずれも撃ち抜かれた存在は灰塵と化した。
殺せば死体すら残らず殺せる。それが正治の武器だった。そしてこの弾はそれの究極系だった。
まっすぐ、射線上にいる魔族達は灰となって消えて、そして靁(?)はその弾を受けて体がボロボロと崩れ始めていった。
「やったじゃーーん!!!」
「………僕の勝ちだ、雪島靁。」
「───────は。こんなチンケな弾程度で俺を殺すか。」
靁(?)は崩れ行く肉体なんて気にせず着弾した心臓部に左手を伸ばす。そして弾丸を取り出して、左手でそれを握りつぶし、粉々にした。
その瞬間から靁(?)の肉体の崩壊はピタッと止まった。
「────うそっしょ。神の作った弾丸のはずだよ。」
「神が作ったか。今の俺は神なんかに従わない。神の作った奇跡なんかを信じない、そしてその全てを否定する。否定し尽くしてやる。お前らが叫ぶ神とやらはいない。そしてこの左腕はその体現だ。神の言いなりにしかならない力で俺を殺せると思うな。」
「…………まじかー、魔王様以外では初めて見た、神の作ったもの破壊するなんて。だから、魔王様、ああ言ったのね。」
「………ぅぐ──プロヴィデンスの反動が。」
「───ねぇ、ねぇ正治くんとか言ったっけ?アイツを倒したいならさ、私と一緒に逃げない?」
「………逃げる?」
「そう!そうすればあの化け物を確実に倒す力が身につくよ。」
「………わかった。アイツを殺すまで僕は逃げれない。」
「交渉成立ってことで、行こうか!」
クランクインが正治の肩を掴む。俺はようやく目の前の事態に頭が追いついて、咄嗟に前へ駆け出す。
「正治っ待て!そんなの、デタラメだ!!クランクインの言うことなんて───!」
「………デタラメでも、それでも!君たちに僕の何がわかる──。」
「っ。正治………!」
「もーう邪魔すんなよー。でも良かった正治くんが乗り気で、、きっと気にいるよ、なんせ魔王様はああいう化け物相手には特に強いから……アハ!」
クランクインはそのまま正治と一緒に戦場から逃げていった。残されたのは俺と夏とそして変貌した靁(?)だけだった。




