46話「分かち割れ」
「音風奏を────殺した。」
言葉が静かになった戦場に響き渡った。その後風が吹いた、それは俺たちと靁(?)の間を決定的に別れたことを象徴するようだった。
「……な、何言ってんだよ。」
声が震える。そうだ、靁(?)お前は何を言っているんだ、何を言ってるんだ?お前が、奏を殺した?なんで、なぜ?なんでだよ?なんでそんなことになる?なんでそんなことをした?なんでそんなことを────平然と言う?
心臓の動悸が止まらなかった。喘息になったみたいに胸が苦しくなる。息ができなかった。胸にたまる重いものを今すぐ吐き出したいとする思った。もう、訳がわからない、奏は死んだ?そして靁(?)が奏を殺した??
殺して、殺してどうした?殺す必要は、なんだ、なんだよ。は、え?わからない、こいつが何を言っているのか、こいつが何を見ているのか、こいつが何を想っているのか、頭がぐちゃぐちゃになって、苦しい、苦しい!苦しい!!苦しいッ!!!
「………何言ってんだよっっ!!」
「────。音風奏は、俺が殺した。そう言ったんだ、」
俺の叫びに靁(?)はゆっくりと息を吸って返した。その赤い瞳と何も変わらない表情からは真実と虚無が伝わってくる。でも、それをうまく噛み砕けない俺は、自問自答が繰り返される。
(なんだ、なんだ、なんだ、靁?、違う。わからない、俺はなんなんだ?勇者、は?わからない。苦しい、壊れそうになるっ!吐き気がする。どうしてなんだ、何も、何も!わからないッ!)
「そっか────。」
隣にいた正治が言った。俺はゆっくりと顔を正治の方に向けた。そして───
[………ダァンッ!!]
静寂を切り裂く弾丸、向けられていたのは靁(?)だった。弾は靁の胸に当たりそうになるがすぐに影の鎌がそれを断ち切り落とす。
「し、正治……?なに、やってるん、、だ?」
「………君には失望したよ、雪島靁。君は僕と同じだと信じてたんだけどな………音風さんには借りがあるって言ってた、それに君はそういう損得なコト、しっかりやるタイプだと思ってた。でも───買い被りすぎたみたいだね。ザンネン。」
「…………それで、銃口を向ける理由は見つかったか?」
正治は自分の銃に目を落として、最装填した。再び靁に銃口を向け、その照準は頭に移動した。
「うん、見つかった…──音風さんを殺した、お前を殺す……っ!」
「やってみろ。勇者。」
[ダ────ン!!!]
銃声が響き、空気を裂く弾丸が靁(?)へと放たれる。大鎌が光の軌道を作り、一瞬にして弾丸を真っ二つに切り裂いた。ここでようやく戦いが始まった、想像してもいなかった、勇者同士の殺し合いが。
[ダンダンダンダン───ッ!!]
身を屈めて正治は5発の弾丸を放つ。靁(?)は迎え撃ちそれらの弾丸を全て両断し、接近する。それより早く、最装填を終えた正治は足を止め、靁(?)へ狙いをつける。
「────神の爪。孤高の王。止まらない螺旋。鋼霊弾……!」
蒼い弾丸がまっすぐ靁(?)の頭を狙う。さっきと同じように影が鎌を振るい主人に放たれた弾丸を撃ち落とそうとする、だが。
[ギィィィィィィ………ッ!!!]
弾丸は何者の攻撃も受け付けず、まるでこの世界から断絶されたようにまっすぐそして確実に頭に向かっていく。それを理解した靁(?)は迎撃ではなく回避行動に思考転換、眉間を打ち抜く弾はギリギリの行動により左目を直撃した。
「────起爆。」
[ドゴォォォォオオオッ!!]
命中した地点を中心に大爆発が靁の全身を覆い尽くす。火の粉が薄暗い戦場を照らし、同時に容赦のない正治の顔をあらわにする。
[シュィィ───フィ…スュスュスュスュッ!!!]
炎の中から斬撃が飛び、正治の首元を掠める。同時に大量の血が首先から溢れ出て、それを手で押さえながら正治は回避する。
燃え盛る煉獄から化け物のシルエットが現れて飛び出す。靁(?)だった。目に確実に致命傷クラスのダメージを受けていたはずだったのに、その傷はもう完治して、逆に目から弾丸がこぼれ落ちていた。全身は火傷なんて最初から負っていないようなくらい整えられており、炎の明るさとアイツの目の色が重なったように見える。
「───!」
飛び出した靁は左腕を大きく上げて正治を射程内に入れる。振り下ろされる大爪から逃れられるものはいない。だが正治は何倍も狡猾だった。
[ピュィィィ………ザンッ!!!]
目視でようやく確認できるレベルの鋼糸が瞬時に靁の左腕に巻きつけられた、無理にでも動かせば瞬時に腕はバラバラに切り裂かれる。よってその強度と鋭さは動きを止めれるのに十分だった。
[カチ───ィ……。]
「チェック───!」
ファイヤリングピンが音を鳴らす。勝利を予測した正治が呟く。ゼロ距離、影が攻撃するよりも早い銃弾、右手に持つ鎌はそこまで早くない。靁の負けだ。
だが、こいつは靁じゃない。靁(?)だ。
「ッ!」
鋼糸によって拘束されていた左腕を勢いのまま任せ、自ら切断する。身を翻した靁(?)右手に持つ大鎌の射程圏内だ。
「─────銀死弾!」
声と同時に放たれた弾丸は瞬時に銀色へと変色した。そして靁(?)の鎌へとその弾丸が当たる。
[ト──ッウォォォォォォォン!!!]
強度は互角だった。放たれた弾丸は真正面に靁(?)の鎌と衝突し、互いに一撃必殺の軌道はズレた。すぐさま、正治は距離をとりつつ最装填、向かってくる靁を牽制するために6発の弾丸を放つ。
[キィイン、キュィ!キュイ!!」
弾丸は影によって弾き返され、靁(?)に当たることはなかった。
たった一瞬のうちに起こった戦い。それはまさに生と死の局面。狩人と狩人同士の殺し合いだった。両者の冷徹な殺意だけがこの空間を満たし、もう俺たちの居場所なんてものはなかった。
ただただ見ているだけの俺と夏は、口を開けたまま戦いを静観するしかなかった。




