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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター5「さようなら、さようなら、さようなら」
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44話「それは恐怖の進化」





 「地仙剣!!」


地面から突き出る岩がコーズへ向かうも、手に持っていた鈍器で一瞬にして粉々にされる。障害物をものともしない動きのため、もはや隙を作るのは至難の業だった。


 「ッ!」


 [ダダダッ!!」


 「ォォォォオオオッ!!!」


コーズが鈍器を振り回し、大きく跳躍そして正治に向けて豪快な攻撃をかます。正治は間一髪のところでそれをかわして、続くコーズの攻撃も牽制を織り交ぜながらなんとか距離を離す。


 「暴風剣!!」


剣を突き出し、竜巻を前方に発生させる。巻き込まれるコーズは手で顔を隠してはいるがダメージにすらなっていない。


 「風殺剣!!」


 [ガギギギギギィィン!!」


風の刃が鎧に弾き返される。暴風が止んだコーズはすぐにこっちに向かって突進。鉄球が振りかぶってくるような圧力、まともに受ける攻撃じゃないとわかるとすぐに回避する。


 「ッ!」


 「さぁ、勇者の力を見せてみるのだッ!!」


コーズは俺たちとの戦いを真剣にこなしている。だが今までとは違う肉体的にも精神的にも魔族とは言いずらいこの魔族将軍を相手にしていると、解決策が見えてこないような気までする。


 (早い、硬い、強い!)


シンプルな三拍子だからか、かなり厄介だ。まだ他の奴らが戦っている時に使うべきじゃないが、


 「正治、プロヴィデンスを使う!3秒稼いでくれ!」


 「わかった……!」


正治は不得意な近接先頭に持ち込んだ上で、急所を撃ちながら牽制を開始した。コーズは俺に近づこうとするも、正治の弾丸をの防御で足がよく止まった。おかげで時間が十分に得られた俺は剣を前に、そして自分のうちなる力に目を向ける。


 「──プロヴィデンス・フォース!!」


全身に神聖な力が宿る。それをいち早く感じ取ったコーズは俺に向かって大振りの攻撃をしようと向かってくる。すぐそこまできた時に俺はタイミングを合わせて、光る剣でコーズの土手っ腹を横から打ち払った。


 「ゴォォォッ!!!」


コーズはホームランを打たれたボールのように飛び、近くの自然岩に衝突した。そしてその隙を見逃さず、俺は一撃必殺を放つ。


 「神光力剣ゴッズフォースフレイアーァァ!!!!」


剣に光が宿り、一筋の光となってコーズに向けて撃ち放つ。地形を無視して、あらゆる障害を光に飲み込み、そして回避ができないコーズを一方的に押し込んだ。


 予想外にも今まで来なかった反動が返ってくる。たぶんコーズの自体がこの攻撃で消えないほど硬いせいだった。だから俺は抵抗するコーズを押し殺すかのようにさらに剣を前へ前へと突き出して、光を増幅させる。


目の前を覆い尽くす光のビームがえげつない音を立てながら、コーズを超えて向こう側へと撃ち出される。確実にその巨体を飲み込んだと確信して、残りのプロヴィデンスの力を出し切り、俺はその場で膝をついた。


 (一瞬で消費したせいでっ、体が!)


肉体の負荷はとんでもなかった。オンオフを一瞬のうちにしたのだから、その分体が疲れるのは当たり前だった。でもこれだけの攻撃を加えたのだから流石のコーズも無傷ではいられない。


 「天馬!何やってんの!!」


 「夏───?!」


夏の声を聞いて、俺は周囲を見る。そこには武装した下級魔族が俺たちを包囲していた。戦いに集中し切っていた俺は今の今まで自分たちが追い詰められていることに全く気づけていなかった。


 「みんなは………!」


 「───役目を、まっとうしたわよ…っ!」


 「───っ!」


味方の兵士は誰1人としていなかった。つまりは全滅だ。俺は全員を死地に送ったんだ。残っているのは俺たち勇者、、それでも。


 「グウウアアアアッ!今のが勇者の、神の使徒の力かァァ………ッ!」


 「まじかよ、」


コーズが焼け焦げた体で俺たちの前に再び立った。あの攻撃を喰らっていたとしても致命傷には繋がっていなかった。鎧は確かにダメージを受けている、だがそれだけでは確実に足りない、少なくとももうひと押し。でも、それも──。


 「天馬、今全力を出さないとここで終わりよ!」


 「………っ音風さんを助けてないのに死ねないッ。」


 「……っく。」


剣を地面に突き刺し、杖のようにして立ち上がる体全身からドッと疲労感が押し寄せ、集中力が削り尽くされて感覚だけが残っている。


それでもここで、この戦線で倒れていった兵士のみんなのために俺は今ここで立ち上がらないといけない。


 (絶対に諦めないッ!)


剣を構えて、頭の中で打開策を考える。でもいくら捻り出しても答えは変わらなさそうに見える。


 「みんな、死ぬなよ。」


 「アンタを残して死ねないわよ。」


 「………音風さんも。」


 「………そうだな。そうだッ!」


俺たちが戦う意志を見せたことでコーズは再び手を挙げ、下級魔族達に攻撃指令を出す、一斉に襲いかかってくる兵士達、一歩前に踏み出してそれを斬り伏せようとした時。


 [バジュ─────ン]


どこからともなく鎌のような刃がその場にいた下級魔族達の心臓を貫いた。


 「ぇ?」


鎌は魔族を立ったの一撃で殲滅した。その鎌はある一ヶ所のところから影のように伸びていた。俺の視線は鎌から伸びる影を辿ってそして一つの人物に行き着いた。


 「………ら!──ら、、い?」


そのシルエットは確かに靁のものだった。ただなぜか知識ではなく本能がそれが靁ではないと告げてくる。ではそれはなんなのか?それは化け物だ。でも俺にはどうしても理解できなかった。


 (なんでだ、なんで俺はあれが化け物のように見えるんだ?)


なんで靁の形をした化け物がいるのか、なんでそのシルエットから靁だってわかるのに化け物と錯覚するのか。答えは下級魔族の心臓を貫いた鎌達が一斉に主人の元に戻った時に分かった。


 (………なんだ、アレ?)


それは何かの技のように見えていた。ただ靁の元にあの鎌が戻った時に違和感を感じた。アレは技によるものではなく生物由来のもの、つまりはあの鎌一つ一つが靁の体のようなものだってことを。言葉にできない、言語化できない、アレをなんて形容していいか俺にもわからない。ただアレはそう化け物のはずだ。人の形をしていながら人ではない何か、それはもう決まっている、一つだけだ、でもそれは違う。ついこの間まで違っていたはずだ、それなのに、もう──こんなになっていたのか、俺がわからないだけだったのか……?


 「─────」


その存在は何も言わない。ただ怪しく光その目は真っ赤に染まっており、こちらを見ている。思わず息を呑んで体が勝手に武器を構え始める。違う、アレは靁だ、靁のはずだ。なのになんでなんだ………?


 (なんで俺は、あの、靁を敵だと思ってる……っ!)


 「──さっき逃した奴か………ォォォオオオオオッ!!!」


コーズが下級魔族がやられたことに激情しながら、靁(?)に向かって武器を振るい突撃した。


 「─────靁!」


俺は咄嗟に声を出した。でもそんな声よりも早く、靁(?)は行動していた。意識するよりも早く事象が起こった。コーズに靁(?)から放たれた無数の影の鎌が五体全身に突き刺さりその強靭な肉体を最も簡単に貫通した。


 「!」


肉体に括り刺さった鎌に引っ張られるように靁(?)の体は宙を舞い、動きが止まったコーズに取り憑いた。そして鎧に両足をつけ、隠していた左手を日の元に晒す。


 「………っ、、!」


絶句した。その左手は完全に変貌しきっていて、人の手とは似ても似つかなかった。まさに化け物の手。その爪は全てのものを切り裂き、全てのものの守りを破壊する。


 [バジャァァァン!!!!]


鎧と肉が切り裂かれる音が聞こえた。広げた左腕から繰り出されるだった一撃によってコーズの鋼よりも遥かに硬い鎧は一瞬にして粉々になった。コーズの体の前面はすでに抉り取られており、内臓が露出してきた。アレだけ頑強な存在がいったい何をどうしたら、あんな姿に至るのかまるで理解ができなかった。


 「────貴様、そうかッ魔族の!クランクインがッッ!!!」


コーズの声が焦り掠れる。大鎌を右手に顕現させた靁(?)はそれを一瞬にして横に払い、コーズの首を切断した。


大鎌はより一層禍々しい姿に生まれ変わっており、見るだけであらゆる強固な守りであっても破壊し、全ての存在をしに至らしめる紛れもなく死神の鎌に変貌していた。


 「───────。」


一瞬で片が付いた。コーズは靁(?)によって一方的に攻撃されたのち、何もできずに死に至った。俺たちの努力、頑張り、必死、全てが夢みたいにあっけなく終わった。


 「────靁……?」


 「………………。」


靁はコーズの死体から降りて俺たちの方へと向かってくる。その目は確かに狂気を孕んでいた、でもそれでも靁はまだ理性的だってことがその目から分かった。ただひどく、ひどく疲弊している。


 「………何が、あって───『殺した。』──え、」


回答は言い終わる前に帰ってきた。殺した?何を、コーズを?いや違うそうじゃない。じゃあ何を殺したんだ?


 (血……魔族だけじゃない、)


靁(?)の服についていた血は魔族だけじゃなかった。その時俺は何かを理解した。ただその理解をすぐさま否定して、否定して、否定した。靁はそんなことをする奴じゃない、靁はそんなことをする奴じゃない!


 (─でも…………もし?)


否定していたこころが一瞬びっくり返って、目が真っ黒になる感覚がする。それはもしかしたら靁のあの目に似ているのかもしれない。


 「音風奏を────殺した。」


あぁ、そうだ。こいつは靁じゃない、ましもこいつが靁(?)なら、きっと、そうする。




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