42話「一呼吸の静寂」
また数日が経過した。国から増援の兵士達が次々と送り込まれてきたおかげで、戦力は十分。あとは肝心の奏の場所を見つけるだけになっていた。
「………天馬。」
「!正治、どこ行ってたんだッ傷はまだ───。」
1〜2日留守にしていた正治が帰ってきた。本来ならまだ安静にしていなきゃいけない体だっていうのに。
「わかった。音風さんの場所。」
「───!」
話を聞いてみれば正治は1人で無断で出て行って魔族を尋問して奏の居場所を聞き出して帰ってきたらしい。追加で負った傷はなかったらしい、でもそもそも前の戦いによって左目が完全に潰れて使い物にならなくなっていたはずだ。それでも正治は落ち着いていながら何かを焦っているように俺に伝えてくれた。
「────天馬、早く音風を助けに行こう。」
「そうだ、な。でも正治無理はしないでくれ。」
「わかってる。自分のことは自分が一番よくわかってるから。」
正治が示した場所は、現在いるところからかなり離れた魔族領の中でも後方に位置する場所だった。最前線に奏を捕らえているはずないって思っておいて正解だった。今なら兵力もあるし何しろ靁もいる。うまくいけば攻め入って占拠して形成を一気に逆転できるかもしれない。
(犠牲を考えなければの話だけどな。)
きっと今までで一番犠牲の出る戦いになる。新しくきた兵士たちの大半は新人ばかりだ。この作戦を実施するのならそれは死ににいけって俺たち勇者が命じているのと同じだ。
考えているのがどうあれ、アイツらの命は俺達に託されている。
「……正治、靁と一緒に奏が捕らえられている具体的な場所を探って欲しい。やるなら最小限の被害で、それに円滑に進めたい。」
「円滑に。わかった。」
そして靁と正治が戻ってくる間に、俺と夏は部隊の割り振りなんかを考えつつ、夏にしっかり相談して自分の気持ちを打ち明けたりもした。
本当は夏にカウンセリングしてもらうことが本命な自分もいる。
「はぁ!?───…………わかったわよ、ホラ。」
「悪い。」
俺は腕を広げた夏にもたれかかるように体を預ける。夏の体温を感じてなんだがようやく安心だ自分がいることに気がついた。
「……いくら友達でも誰にでもハグをやっていいわけじゃないから、そこは気をつけなさいよ。」
「わかってる。」
「次からは、靁にしてもらったら。」
「………アイツは辛いだろうから。」
「はぁ、私からみればアンタの方がよっぽど酷いわよ。」
開いたままだった夏の手が俺の背中に回る。顔は見えないけど、夏が優しいことはわかる。
「……アンタはよく頑張ってる。勇者なんて器じゃないのに、まったく。」
「………俺。正しいことしてるよな。」
「してるわよ。アンタはバカでも、バカなりに努力してんだから!」
「おいっ、それ褒めてるのかよ……。」
この世界での夏との会話は意味を感じる。自分がやっていることが正しいのか、正しくないのか。それに少しでも答えを見出せるようになった。それに何より、
(夏が見ているのは勇者じゃなくて、成田天馬(俺)だってことが、わかるから……)
俺はそれだけでも救われている気持ちになる。
そして2、3日経って偵察に行っていた靁と正治が戻ってきた。
「戻った、具体的な場所がわかったぞ。」
「本当か…!」
「うん。尋問したやつの言っていた砦、その少し後方に建物を見つけた。そこで捕まった人の姿を見たから間違いない。」
「……他にも捕まった人がいるんだな。」
「あぁ、だが──いやなんでもない。」
靁が言おうとしていた言葉を引っ込めた。正直気になる、でも今はそれを考えている暇よりも。
「よし、部隊を分けよう───俺と夏と靁は砦を攻める。そしてその間に正治が奏を救う。でいいか?」
「問題ないわ。アンタの後ろは守ってやるから。」
「うん。僕は絶対に音風さんを助ける。」
「…………」
2人の返事を聞いた後に靁を見ると何か考えていた。俺がどうした?っと聞く前に靁が言葉を出した。
「いや、救出は俺がいく。」
「……なんで?」
同じことを言う前に正治が靁の方に向き直って聞いた。その目はどことなく怖かった。
「俺とお前達の戦力差だ。俺と内村だったら内村の方が確実に強い。だから戦力を割くなら内村が砦の攻撃に回った方がいい、こうすれば戦力を有効活用して運用できるはずだ。」
「………君は、音風さんを必ず助けられるの?」
「借りがある。返さないといけない借りがな。だから、必ず助ける。約束してもいい。」
「。。。」
正治の納得していない感じは素人でもわかる。このままじゃ2人が衝突すると理解した俺は話を切らないといけない。問題はどっちの後押しをするかだ。
(靁の意見を推奨するか、正治の意見を考えてやるか……)
「正治、靁の意見は合理的だ。それに正治がこっちに加わってくれれば心強い。俺からも頼む。」
「………わかった。ただ、音風さんを必ず助けてね。雪島靁。」
「あぁ、分かっている。」
こうして靁は救出部隊の筆頭になった。従う兵士たちの顔はどこか不安げだったり曇っていたりしたが、今回ばかりの話だと伝えたら納得してくれた。靁は何も悪いことをしていない、だがやはり失踪した勇者というレッテルは想像以上に重いと俺は改めて感じた。
そして俺たちはまっすぐ正治の案内に従っての魔族将軍コーズの砦に奏を奪還しに進軍した。




