39話「裏の裏の裏をみる」
四方八方にいる無数の魔族達が襲いかかる。体は死体だがクランクインの力によってゾンビとして操られ、強さも倍以上になっている。
クランクインはそんな亡者と戦う俺の姿に笑みを浮かべている。
「それにしても、君も随分と厄介だよねぇ〜勇者の力をほとんど使わず技量とスペックだけでここまでの仕上がったんだから、お陰でこっちは余計な癖なんかがないから、戦いづらいってね!!」
魔族の死体が地面から湧き上がる。その大半は骨と腐った肉で構成されており、クランクインと連動する手の形へと形成された。
それを俺は大鎌の一撃で真っ向から斬り伏せ、クランクインの元へと向かい続ける。
「ほんと、驚いているのかわかんないよね。もうちょっとリアクションないの?こっちもつまらないんだけど〜!」
「───お前が俺が知りたがっていることを言えば終わるっ!」
地面から巨大な肋骨が突き出て、下から串刺しにしようと攻撃を開始する。クランクインの笑みは変わらない。
「ここは戦場。つまり僕の独壇場、死んだ奴が人間であろうと魔族であろうと、全員使えるからね!」
「そうかな、地面から出てくるやつに人間の数が多くなっている。さては───限度があるな?」
「………っ君って本当に鋭い、」
怒りの笑みを浮かべるクランクインどうやら図星らしい。クランクインが死体を操れるのはおそらく一体に一回だけ、つまり何度も同じやつを蘇らせることはできない。そして人間より魔族の方が強いことと、死にたてホヤホヤの方がまだ強いことを考えると、こいつがここで人間の骨の死体を使うこと自体はそろそろ限界であることを指している。
「その頭と力がまだあればこっちでもやっていけたのに。」
「断る。」
「まぁまぁそう言わずにさ、君はもうかなり魔族になってるんだからぁ〜。」
クランクインの顔にまた愉悦の笑みが溢れる。俺は武器を構え直し、止まった攻撃に警戒を続ける。
「…………。」
「気づいてるんでしょ?君はもう人間じゃなくなってる。」
「それを、なぜ知っているのか知りたい。」
「あは、簡単さ。たとえ姿形が変わっていたとしても魔族には一定の本質が備わっている。それは────何かを滅ぼすほど憎むということ。」
「憎む……だと?」
「そう、君が魔族を憎むようにね、」
クランクインは口が軽く俺の言葉にも簡単に乗る。だからこそ今こちらの反応を試しているのと思われる。この事実を聞いて俺がどう感じるのかを、その笑みの裏に隠れた本性で。
(憎むこと。それが魔族の本質………本質?)
「まさかっ。」
「あは、あはははは!!!やっぱり君は察しがいいや。珍しい顔も見せてくれる、常にクールぶっている奴が驚きの表情を隠せない、僕はそれが大好きなのさ!!」
「ッ!」
「あぁーでも、一言言っておくけど正確には憎しみじゃなくて負の感情かな。だって僕は誰かが憎いとかないもん、僕は今こうして笑っていることが一番自分らしいッ!!」
両手の人差し指で頬の口角をあげ、笑っているように歯をみせるクランクイン。不気味で吐き気を催すような笑みに俺の腕は意識よりも早く動いてやつの首を狙いに行く。
「おっとォォォ!!」
あと一歩のところで、地面から骨が生えクランクインの首元に刺さりそうな俺の鎌を受け止める。そしてクランクインは一歩下がるようなステップを踏み後ろへさがる
「今回も僕の逃げ勝ちだ!!君たちは負けたってわけだァ───アッハハハハハハ!!!!」
同時にクランクインはワープし、その場から一瞬にして消えた。俺は一瞬沸いた怒りから目の前の骨を素手で握りつぶすも、その瞬間また体に激痛が走る。
[ド─────]
「ぐ、ぉああアッ………ァァ!!」
前にも感じたことがある。体を蝕むような痛み、腕を中心に突き刺されるような痛みが広がっていき、呼吸がまともにできなくなる。のたうち回る一歩手前で腕に力が入る。
すると、聖布で覆われていた左腕の断面は布を容易く貫通し、まるで人間から出る音とは思えない何かで一瞬にして再生された。そして無論それは魔族のものと同じであった。
「────はぁ、ハァッ…クソ!!」
クランクインの言葉が聞こえてくる。それはもう治すことができないものだと、どうせいつものように、笑って、笑って俺のことを蔑むような感じに言っているのだろう。
だがそんなことどうでもいいくらい痛い。
(だが、まだ、俺には痛みがある。)
魔族は痛みを感じにくいが、俺の体はまだ人間だった頃と遜色のない痛みを持っている。まだ俺は戦える。
[ドドドドドドドド]
「───、魔族が引いていく。」
顔をあげ、地響きの正体を確かめる。砂埃を立てながら魔族の旗が音風の拠点から離れていっているのが見えた。おそらく、間に合わなかったのだろう。追撃をしている人間の姿が見える。
だから、熾烈な攻防を制したのは魔族であった。
<──|||──>
「────はぁぁぁぁぁッッ!!!」
バークーサーの飛び交う剣を斬り伏せ、本人に近づく。一撃振るうも、それもバークーサーの剣によって鍔迫り合いになる。
「前より早くなったか?あぁ?!」
「そこを退けッ!!」
弾き、斬り、様々な技を使いながらバークーサーとの戦いを終わらせようと奮戦するも相手は相手で強く。こっちとの差はほとんどない。いや、遊ばれている感覚はある。
「いけッ!!」
「───またっ、なら地仙剣!!」
地面から大地を盛り上がらせ、飛び交う剣を抑える。その隙に真っ直ぐ、バークーサーの追従する剣より早く走り、本体に向かって渾身の一撃を放つ。
「─────竜撃剣ッ!!!」
[ズドォォォ───!!!]
打撃音にも似た衝撃波が剣同士の間に巻き起こる。ただこちらの一撃はバークーサーの足を一歩後ろに下がらせることが限界だった。
「甘ぇぇッ!!!」
「ッ!」
剣で打ち弾き返され、距離を取られる。
「俺に二刀使わせたのは久しぶりだな。ちょっくら楽しめそうになってきた─────ぁ?」
バークーサーは周りの雰囲気を理解して、すぐさま構えていた剣で空気を切ったあと鞘へと戻した。
「時間切れ、あぁいやタイムアップだったかな?この言い方マジでいいな。」
「何!?」
「戦いはこっちの勝ちか、勝負はこれからだって時に、ま命令だからな。じゃあな勇者再戦楽しみになってきたぜッ!!」
バークーサーは周りの撤退していく魔族と共に飛び立ち、遥か彼方へと飛んでいった。俺は息を切らしながら頭で考える。なぜあいつらが撤退していったのを。
(────靁……夏、正治、奏ッ!!)
俺は走って奏の拠点へと向かった。だが心の中では薄々気づいている。これは、きっと俺たちの負けなんだなってことを。




