37話「足止まりにて」
俺と夏は兵士たちに後の戦場をまかせて、2人で奏の戦線へと向かっていた。連戦での疲労を感じられないほどに切羽詰まった状況に、俺たちは互いに息を切らしながら大横断を行っていた。
(油断した!クランクインだからっていうのもあるけど、こんな古典的な手に引っかかるなんて!)
夏の方におびき寄せてから奏の方へに全戦力を投下して制圧する。いくら勇者が一騎当千の力を持っていたとしても、ネームドばかりの魔族を相手に取ることはいくらなんでも不利すぎる。考えてみれば勇者の俺たちがいなけりゃ前線は支えられない。なら集まってなくて、一番戦いが得意じゃない勇者を真っ先に潰すのは当たり前だった。
「天馬、このスピードじゃ間に合うか怪しいわよ!」
「──間に合わせるッ!それに向こうには正治だっている、俺たちよりいち早く行って加勢しているはずだ!」
俺たちは移動を続けた、そして奏の戦線がやっと見えてくる時。
「天馬!」
「────くそっ、足止めかよ!」
目の前に魔族の大軍勢が現れた。指揮をしているのは上級魔族達、大したことはない、ただ数が多すぎる。ざっと見ただけで1000体はいる。これをしっかりと対処しないで奏のところに向かってたらそれこそ後が大変になる。かといってここでまともに対処してたら絶対に間に合わない。
「夏、俺がプロヴィデンスで一気に片付ける!」
プロヴィデンス──それは、俺たち勇者が祠で手にした新しい能力。神の使者として、一時的に全ての能力を上げる技だ。ただし使用後はめちゃくちゃ疲れる。だからタイミングを選ばなねぇといけない。でも今ここでしくじったら何もかもがダメになる。
「天馬、私が使うわ!アンタは正真正銘勇者の"力"よ、鍵は絶対にアンタになる!」
「───俺ならまだっ!」
そう言った時だった。
「───お前ら、相変わらずうるさいな。目をつぶれ。」
聞いたことのある懐かしい声が耳に届く。ただその声は唐突でめちゃくちゃ信頼に欠けるものだったと思う。でも俺と夏は互いに目を見合わせて、すぐに目を瞑った。
[シュィィ─────────ザッ─シュゥ!!!]
何かが一斉に切り飛ばされる音が先に、その後耳全体を覆うような血飛沫の音が後に続いた。何かが終わったことを悟った俺たちは目を開けた。
「ッうそ、……!」
「靁!!」
靁がただ1人、目の前に立っていた。そして目前に広がっていた魔族の大軍はいつのまにか血の海に変わった。何をしたのか全く俺たちにはわからない。でも、これだけは言える、靁は俺たちを助けてくれたんだと。
「音風には借りがある。お前達は急いでるんだろ?ならさっさと行け。」
「靁─────、腕。」
静かに口にする靁に何か言おうとした時、左腕に目が入った。靁は隻腕になっていた。二の腕の真ん中から下が丸ごと何かで切断したようなそんな感じになっていた。俺は、その姿に思考が止まった。
「気にすることじゃない。それより、行けッ」
「─────わかった……っ!靁ッまた会おうな!!!」
「……………。」
そのまま立ち尽くす靁を気にせず俺たちは戦場へと向かった。奏の拠点に近づくにつれて魔族の第軍勢とこっちの大群との大戦争が起こっていた。乱戦も乱戦、もう敵か味方かすら怪しくなりそうな中でも奏の武器の音楽だけは絶え間なく聞こえていた。まだこの戦場で諦めずに戦っているということだ!
「っ!天馬敵が多すぎるわよ!!」
「───突破する!!」
突っ切るつもりだったが、夏の時の数十倍はいる魔族の量に正直戦わざるおえない。上級魔族がそこら辺にいるようなカオスな状況。想像していたより過酷な戦場だった。
(余裕がない……プロヴィデンスを使うなら───今しか!)
そう思った時、空から無数の剣が俺たちに向かって放たれ、一筋の黒い塊が俺の元へと特攻してくる。
「見つけたぜッ────勇者ァァァ!!!」
「!、バークーサーッ!!」
バークーサーの無数の件に巻き込まれながら、俺は足を止めて奏のいる場所からもっと引き離される。
「天馬─────っ。」
「行け夏!こいつは抑える!!」
[ゴォォン──ドゴォォォッン]
「やってみせろよ!今度は俺をもっと楽しませろ、っナァ!!」
バークーサーの剣と俺の剣がぶつかり合って衝撃波が出る。周囲にいた兵士も魔族も吹っ飛ばされる。前と違って小手調べじゃなく、ガチのバークーサーそれでも俺は抑えないといけない。少しでも夏の負担を減らすために!
<──|||──>
音風の拠点が襲撃、天馬たちは急いで向かう。しかしその行手を阻む、上級魔族そこに靁が現れて一気に進むことができた。
「さて、」
音風を助けるために、2人が向こう側に走っていったところで俺は背後にいる上級魔族の気配を薄々感じ取っていた。おそらく次の敵の行動は───。
(奇襲だ。)
[ギィイッ!!]
投擲される普通の槍を鎌で撫でるように弾き飛ばす。そして敵の姿を視界に入れる。
「ちぇっ。」
「クランクイン──、」
俺の前現れるクランクイン。コイツが1人で現れるなんてのは妙だ。おそらく何かを企んでいる。
「何をしにきた?」
「何って戦うためさ……君と、僕とで。」
言葉通りに読み取るなら一対一となる。だがコイツの強さを考えるに勝負をつくのは一瞬だ、俺がコイツの首を一瞬にして持っていけばそれで終わる。だがそれだとコイツの真意をしれない気がした。
「へぇ、珍しいもの持ってるね。聖布、君神様嫌いなんじゃなかったっけ?」
自分の鎌で切断した左腕に興味を持つようにクランクインは尋ねる。聖布は神の神秘が込められていると言われている珍しい布切れだ。呪いなどを跳ね除ける効果があると聞いたため効果があるかないかはさておき、魔族になった腕の切断部に巻き付けてある。
「使えるものは使う。それだけだ。」
「アッハハハ!確かにね!その通りだ。にしても、君、よく我慢するね。常人ならとっくに精神が落ちて、体もダメになるのに。」
クランクインの声は頭によく響く。ここ最近精神がどこか重くなり、気性がだんだんと荒くなっている原因はどうやら俺のコレが影響しているらしい。そしてコイツは。
「………どうやら、お前は知っているそうだな。俺のコレを。」
「あっ、やっばぁい。言っちゃった……!で?それで君はそれを知って僕をどうするの?」
「瀕死にして聞き出す。」
「やっぱりぃ?」




