35話「増援、救援、襲撃」
バークーサーの襲撃によって、俺の部隊は一時的に進軍を停止していた。俺が一人で出れば基本的に防衛は上手くいく。ここにいる兵士のみんなは俺たち勇者みたいに強くなければ回復能力が優れているわけじゃない。そしてここにいる一人一人が戦場においての鍵を握っている。
勇者は一騎当千の力を持っている、でもそれが決定的になるにはまだ俺も弱いと思う。
「勇者様!お話がっ!」
「なんだ?」
「…ハッ報告致します!アマミヤ様の拠点から救難が届きました、どうやら魔族による大規模な襲撃を受けているそうです!」
「(夏の……!)───今すぐいくぞ!みんなに伝えてくれ!」
「ハイッ!!」
大事な友人の危機にじっとしていられる人じゃない俺はすぐにみんなを引き連れて東にある夏の拠点に急いで向かった。本来なら馬を使う距離だ、でも俺は勇者の力をフル活用して全力疾走で戦場に向かった。今の俺の力なら馬を使わずに走ったほうがはるかに近いと思ったからだ。
「間に合ったか…!みんな、横から割り込んで前線を支えろ!アマミヤ達魔法部隊の攻撃時間を確保するんだ!」
『ハイッ!!』
兵士のみんなに戦術指揮をした後、俺は単身で戦地のど真ん中に行って敵を薙ぎ倒しに行った。敵の数が多いことから相手も本気でここを堕としに来ていることがわかる。
「天馬?!」
飛びかかってきた大柄の魔族を一刀両断したところで夏の声が聞こえた。少し目をやれば、夏が自ら戦線に出て直に魔族と戦っている。近接は不得意だったのに細剣を使ってなんとか凌ぎながら魔術を使っていた。
「──夏っ…助けに来た!」
「アンタは──っ、助かったわ!」
夏に攻撃の時間を稼ぐために向かってくる魔族を削ぎ落とすように動く。
「夏、戦況は!?」
「クランクインと上級数人よ、今頃向こう側でふんぞり返ってじゃない!?」
「またあいつかっ!」
クランクインはメイビェで初対面した上級魔族。下級魔族をゾンビとして復活させ、さらに強化を施すとかいうめんどくさいやつだ。この人魔戦線に出てからはしょっちゅう見かけては死んだ魔族を復活、強化して得意なワープで逃げる、この戦線で一番会いたくない魔族だ。下手に強いとか下手に多いとかよりよっぽど厄介だ。
もうこれに関しては呆れるしかない。多分本人はとても弱いからすぐ倒せると思うが、すぐ逃げるのでこっちのストレスは溜まってばかりだ。
「天馬!上級が来るわ!!」
「クランクインは無しか。」
「当たり前でしょ、あいつは出てこないわ!」
「それじゃ──軽く片付けて、挨拶でもしにいくか?」
「言うじゃないっ!見てなさい──上級なんて敵じゃなないんだから!」
上級魔族達が俺たちの姿を見ると一斉に攻撃を仕掛けてくる。
二手に分かれながら、俺たちは個人対処を始める。
「勇者、ここで死ぬのダ!」
「お前達は、許されないコトをしタ!」
「───戦えない人達も一方的に襲っているお前達が、いう言葉かッ!」
上級魔族は前まで苦戦をしていた相手だった、でもこの戦線に来て。そして新しい力を手に入れて。こんな奴らに負けるような俺じゃや無くなった。剣筋ははっきり見える。動きも見える。何より戦い慣れて恐怖を飲み込めるようになった。
「獅子王剣!」
「炎なぞ効かぬ!」
「ならっ!地仙剣──!」
剣筋は受け止められるも、大地が盛りあがって上級魔族一帯目の背後を封じる。逃げ場を失っていることに留まっている瞬間に確実に心臓を突く。
「が────あ!」
「もうっ出てくんな!」
一人目の魔族を殺した。でも、まだまだ上級魔族は尽きない。空を飛んで今キマかとチャンスを伺っている。あいつらの目にはクランクインと違って逃げるなんて選択肢はない。コイツら上級魔族は俺たとを殺すために戦ってんのか。
(それとも、あの魔族みたいに子供のためとか、そんなののために戦ってんのか。)
それはわかんない、でもここに来て分かったことがある。これは靁の言った通り戦争で、戦場に出たら死ぬ覚悟ができたやつだってことを。だから俺は剣を掲げて真正面からこう言ってやる。
「こい!勇者天馬が相手になる──!!」




