34話「もしその心も撃ち抜けたら」
生まれてから、よく無愛想だと言われ続けていた。周りからよく何を考えているのかわからないと言われていた。心無い言葉をたくさん言われた。でも僕の心は最初から凍りついていたのか、まるで彼らの言葉のナイフは届かなかった。
僕は、今自分が持っている銃が好きだ。元の世界にいた時にはこんなことまるで考えてなかった。銃を持っている人はどこか怖いし、なんで簡単に人を殺すことができるんだろうって思ってた。でも今、そのすべての疑問を僕は理解した。
[ダン!ダダダダダッッ!!]
照準を定めて引き金を引く。そうすれば誰だってほぼ一撃で倒れる。射程は長くて、こっちがバレなければほぼ一撃で魔族を倒すことができる武器。怖くない。前で戦ってヒーローのフリなんてしなくて良い。僕は後ろでちょうど良いタイミングでいつも行動すれば良い。
「…………。」
誰かが僕たちに求めているように僕は魔族を殺すための弾丸になる。そうすれば、このなんの意味もない人生にも少しは価値が生まれるかなって思った。
最初異世界に召喚なんて、夢だと思ってた。ベットに眠ってとりあえず起きれば何もかも元通り、僕を陰で馬鹿にするクラスメイトも、いつも通りの僕を見ている親も何もかも元通りになると思ってた。でもならなかった。
その時くらいに思ったぬるま湯に浸かっていた自分がいつのまにか冷水に放り込まれていて、体をガタガタ震え出して、命が惜しいと感じていることに。
(初めてだったんだ。目の前のものに呼吸が荒くなったのは。)
小学校、中学校、高校まで来て僕の人生の色は何も変わらず、灰色に近いままだった。退屈だったのかもしれない、すべてどうでも良いと思っていたのかもしれない。でも今の僕は必死になれるものが見つかった。
相変わらず顔には出ないし、多分天馬にも何を考えているかわからないと思われているだろうけど、それでも僕は必死になっている。
「内村くん?」
「何?」
「その、何か考え事?」
「…………うん。」
音風さんは、僕たちのことを苗字で呼ぶ。うん、彼女らしい。誰かに遠慮しているわけでもなくて、ただ彼女のスタンスは苗字呼びの姿がしっくりくる。僕はこの世界に来る前はほとんど誰とも会話はしなかったけど、音風さんは定期的に僕に付き合ってくれた。
この世界に来て、関わりがなかったクラスメイトとの交流は増えても、僕の中で音風さんは、なんだか特別に見える。
「君のことを考えてた。」
「私のこと?例えば?」
「………君は、(優しい)ってこと。」
「?え?なんて…?」
困惑する君は僕に真面目だ。今まで人付き合いなんてめんどくさくて結果的に疎遠になるだけの面倒な行為だと思ってたけど、君は一度だって僕のことを忘れたりはしなかった。だから僕も君のことを忘れたりしない。
君の歌は君の音楽はいろんな人を虜にして、いろんな人を癒す風のようだけど。それがすごく気になってすがっちゃうような人だっている。君はいつも通りその人に接するんだろうけど、彼の裏に隠れた感情はすごくわかる。多分僕も同じだから、でもそこは超えちゃいけない。
「……ウチムラ様?」
「キミ、少し良いかな?」
「え?あぁはい。」
彼の心にいるものはとても厄介だ。普通を装っていても僕からすればバレバレだ。だからその芽が最悪な花になる前に。
[ダンッ!]
「ぁ───ゆ、うしゃさ………。」
「さようなら。」
僕の銃は少し特殊で、倒した相手を丸ごと消滅させられる死体を消せる。血液も、筋肉も、骨も、心も。だから僕の物騒な武器の後には血だって残らないし、僕の服には血だってつかない。だって君は血が苦手なはずだから、いつも誰かの傷を癒すときすごく辛そうな顔をしてるから、どうしてこんなに傷ついているんだろうって顔、だから僕はいつだって傷ついてない姿で君の前に現れる。
「あ!内村くん、少し聞きたいことがあるんだけど!」
「何?」
「この前、私の音楽をすごく良いって言っていた人のこと覚えてる?すごい拍手して盛り上げてくれた人!」
「……うん、知ってるよ。」
「よかった!その人今日違う戦線に移動することになってたから。」
彼女は手に持っていた簡単に作られたアクセサリーを取り出した。
「これは?」
「これはそのお礼に。本当は私が直接行かなきゃいけないんだけど………」
「オトカゼ様!負傷者がっ!!」
「あっはい!──こんな感じで離れられなくて、だから。」
「わかった。僕が代わりに届けにいくよ、彼の顔も知ってるから。」
「ありがとう内村くん!!私も音楽聞いてくれてすごく楽しかったって、伝えてね!」
彼女は走りながら、いつも通りの笑顔で負傷者テントへと戻っていった。彼女はこの戦線では戦いから回復から、補助まで引っ張りだこだ。毎日辛いし忙しいのに辛い顔一つせずに取り組んでいる。血だってまだ慣れてないのに、本当は笑顔なんて浮かべられないのに、それほど辛いのに。周りを心配させないためらしい。
(かわいそう。でもそんなところも優しくて、とっても良い。)
僕はそう思って自分の戦線に戻った。そして自分に用意されたテントの中で。
[ダン、ダンダン──]
誰にも聞こえない小さな銃声でそのアクセサリーを粉砕した。そして粉々になって消えていくアクセサリーを地面に叩きつけて靴で踏む。
「みんな、君の泣き顔なんて見たことないもんね。」
君の泣き顔を見るのは僕だけで十分だ。天馬も夏は──ともかく、靁にも見せない。誰にも、僕だけで良い。君を煩わせるもの、君を殺す者、君を邪魔するもの、君を苦しませる者、全員いつかこの銃で灰すら残らず消すから。だから安心して、君はずっと音楽の風を奏でて。
(顔に出ない僕のために。君を知ってる僕のために。)




