33話「それぞれの動向」
戦線での生活が慣れてきた頃、奏から一つのメッセージが届いた。メッセージの内容を見た俺は急いで奏が担当している前哨拠点に向かって、負傷者テントへと息を切らして入った。
最初にメッセージを見た時は信じられなかった。アイツは強い、きっと俺たちより上手くやって今日も生き延びてまた再開するって思っていたから、でもそんなことはなかった。
(わかってた。アイツは、きっと───)
俺たちとは別の道をいく。それは多分めちゃくちゃ辛いことできっと想像を絶するほど苦しい道のりだって、だからすぐに、無理にでも手を引っ張ってやればよかったんだって今後悔している。
靁は1人でも強いやつだけど、万能には程遠かったんだって。
「夏!!靁は!?」
俺がテントについた時、そこには誰もいなかった。いや、夏を除いて負傷者がいなかった。
焦って、疑問が止まらない中夏はことの顛末を話してくれた。
靁は確かにもう負傷者じゃなくなって、メッセージにあった命の危険も無くなった。けど、代わりに聞いたものはそんなのどうでも良くなるようなものだった。
「────なんて、言ったんだよ。」
「………天馬、靁は魔族だわ。」
夏が苦しそうな声でそう言った。言葉の意味は理解できなかった。理解したくなかった。だって、そんなこと"ありえない"。
アイツは人間だ、人間のはずだ。でも、でもでも、でも!でも!!もし、もし。夏の言っていることが嘘とか冗談とかじゃなく事実だったら。いや、そんなはずはない!!
「なぁ………何かの冗談なんだろ!!そうだと言えよ夏ッ!!」
夏の肩を掴んで激しく揺さぶる。テントの壁に夏を叩きつけて必死に今のが嘘であると言い続ける。
「─────っ……。」
もう受け入れてしまっている夏の涙を見て俺は正気になった。それと同時に止まっていた呼吸が再開して激しい動悸のようなものに襲われた。
「……ぁ、。ちがっ、……っ!なんだ──よ。、、、なん………なんだよっ、なんで─だよォ!!」
頭がめちゃくちゃになって、その場に跪いた。自分がわからなくなった。アイツは魔族を殺すために、化け物みたいになって、結果化け物になって?それで俺は勇者で、魔族を倒さないといけなくて、アイツも?アイツも倒さないといけないのか!?昔からの友達を、友達を殺さないといけないのか、殺すことが正しいから?!
「───てんま、天馬ぁぁ───!!」
俺の姿に、夏も耐えきれなくなったのか、俺たちは互いに服を握り泣いた。いつも気丈に振る舞っている夏のぐしゃぐしゃな顔、でも俺は揶揄う気にも慣れなかった。だって、俺たち三人はいつだって離れたって一緒に過ごしていたから。
この世界にきて靁が言っていたことがわかった。魔族はすごく許せない、でも何か理由があったり、している。でも許せない。どっちかが勝つためには戦わないといけないことだって、わかった。のに、だから靁も魔族だから殺さないといけない。間違っている、でも間違ってもやらないといけない!だって俺は勇者だから、みんなの期待を背負った勇者だから、みんな自分たちを守るために誰かをいたしかなく傷つけているはずだから、だから。俺は、
「俺は───どうしたら、いぃ…んだよもう──っ!」
こんな時、アイツなら泣いても解決しないとかめっちゃ冷酷なこと言うんだろうな、でもそれでも最後は俺に手を差し伸べてまた引っ張って立たせようとしてくるんだと思う。
根本は絶対に変わってないから、靁は靁のままのはずだ。でも、今ばっかりは本当にどうしたら良いのかわからない。
「靁……は、靁はぁぁぁぁっっっ…………!」
夏は今まで見たことないくらい泣いている。わかっている俺たち勇者の役目はそういうことだから、多分夏の方が悲しいに決まってる。だって、こいつは俺みたいに強くなくて、たまにすげぇ優しいのはこいつの本性のはずだから。
だから、俺は今いない靁のためにこいつを受け止めてやんないといけない。それで、またアイツと出会った時、もしアイツがまだまともだったら、話したい。それが最後の会話になったとしても、話したいと思う。




