03話「始まりの夜」
「こちらの部屋で今夜はお過ごしください。」
「おぉ…!」
勇者となることを選択した俺たちはその後、明日まで休息を取ることを国王に与えられた。そして今ちょうど部屋へと案内された。部屋は少しボロいホテルのようなもの。整えられてはいるが特別感は感じない、言ってしまえば相部屋の寮のような感じだ。
(勇者の扱いってこんなのなのか?)
現実と幻想の違いを思い知らされるながら俺は近くのベットへと腰をかける。
「おぉっ!!」
さっきからテンションが高い天馬は窓を開けて外を見ているようだ、冷たい風が室内に侵入してきているからすぐ閉めて欲しい……。
内村くんの方を見ると、部屋をキョロキョロと見ながら平然としていた。彼とはそこまで親しいわけじゃないため、何を考えているかはわからない。先ほども夏と天馬が積極的に向こうの人と会話をしていたため、しっかりとした声すら聞いていない。
部屋は男と女で分かれているようで、先ほど夏と音風さんは別々のところへ連れて行かれていた。
(今日は会えなさそうだな。)
「にっしても、俺たちが勇者かぁ……なぁなぁ、靁!お前は想像できたから?!」
「近い……。想像なんてできるわけないだろ。」
「だよなぁ!!テンション上がる!」
(………何も考えてなさそうだな。)
あれだけ啖呵切ったというか、希望を持った勇者ムーブをしておいて、その実何も考えてないように見える。いやテンションでおかしくなっているだけだって信じよう。
「にしても、お前やけに物静かだよな。夏くらいはさておき、何か言い出すかと思ってたぜ。」
「その逆だ。驚きすぎて、その場で情報を整理するだけで手いっぱいだったんだよ。」
「そうか?」
「……疑うところあったか?」
「いや、ない。言ってみただけ。」
(はぁ、聞いた俺がバカだった。)
そう思いながら内村くんの方に視線だけ向ける。彼は向かい側のベットに腰を下ろしてボーッとしている、ただただボーッとしているとかじゃなく、考え事をしているようだ。
「………内村くん。」
「…なに?」
「その────大変なことになったな。」
コミュニケーション能力の不足がひどい。天馬ならこうもならないだろう。
「大変なこと、かぁ。そうだよな。」
ほらな。天馬はそういえばそうだったみたいな態度でそう言う。
「………勇者って、」
「ん?」
「………勇者って何をするんだろう?」
内村くんの言葉に、俺と天馬は顔を見合わせる。
「魔王でも倒すんじゃねーの?」
確かに、順当に考えればそうなる。でも本当にそうなのだろうか、宮廷魔術師トーマスの言葉をそのまま読み取るなら、勇者は戦争に勝つための戦力として呼ばれた気がする。
(………)
「魔王っているのかな?」
内村くんの言葉に俺は今考えていることをやめた。
「いるんじゃね?知らんけど、」
「知らないのに言ったのか。」
「まぁ、でも王道だろ?」
「そうだが……。」
言われたらそうとしか言いようがない。そこまでテンプレートすぎるのもどーかと考えるけども。
「……ま、考えたって仕方なさそうじゃね?今日はとりあえず寝よう!内村くんもこれからよろしくな。」
「……うん、よろしく。」
「……そうだな。」
そしてその長いようで短かった日は終わりを迎えた。いつもみている天井の光景とは違い、布団、空気、音、感触、何もかもが違ったベットは変に異色で気持ち悪い感じだった。でも素材が悪いと考えて、ゆっくりと瞼を閉じた。
その時まで普段なら、こういう時眠れないはずだった。でも出来事があまりに突然すぎて、疲れていたのか、眠れないなんてことはなく、すぐ俺は睡魔に襲われ眠りについた。