29話「舞う天災」
ラズとリズと別れた俺は魔族領から人間領へと戻っているところだった。彼女達から少ないながらも物資を受け取ったが、魔族領での行動を行い続けるにはいささか足りない。
(一度しっかりと補給をしませない────ッ!!)
[ドォン──ドドドド!!!]
風魔術での高速移動中に空から無数の剣が俺へと向けられて落ちてくる。俺は大鎌をすぐさま構え戦闘の準備をする。
「ハ───かわしたな。クランクインの言ってたことはマジだったてことかッ!」
地面に突き刺さっていた剣達が空中へと上がり、声の主の元へと戻っていく。
空中に浮遊する上級魔族、ゆっくりと翼を羽ばたかせながら堂々とした態度で目の前に舞い降りた。
「自己紹介だ……俺はバーグーサー。お前らのいう上級魔族、そん中でもあー?あれだ魔王直属のやつ、あれだ近衛魔将だったか?ま、どうでもいい、でお前が最近噂の大鎌の勇者だな。」
「─────。」
俺が勇者に分類されていることを知っている。余裕のある態度、だが隙を感じさせない立ち振る舞い。体が軽く痙攣するみたいに震えている。
(間違いない。こいつは強い………!)
おそらく今まで戦った敵以上に、そして今の俺以上に。
「おいおい、ダンマリか?挨拶くらいしろって、だって今から最高の殺し合いってのをするから───ナァァッッ!!」
一本の剣を取り、バーグーサーは音を置き去りにする速さで俺の目の前まで接近した。警戒していたとはいえ反応が確実に遅れてしまい、すぐさま防御へと切り替えるが。
「オラァァぁ!!」
鋭い前蹴りが腹部を襲い蹴り飛ばされる。体が咄嗟に判断できず風魔術を使い乱暴な形で自分の移動方向をずらし攻撃を避ける。奴の追撃をギリギリで躱す。
「逃げんな!!」
複数の剣が俺の元へと突き刺さり、一振りがちょうど足へとあたる。
その瞬間痛みで魔術への集中が削がれたことで地面に不時着する。
「────くっ。」
刺されるのはこれで二回目だが、やはり痛い。だがそれを今気にしている暇はない。少なくとも相手からは逃げられない。ここで戦うしかないっ
[ガァン!!]
「!」
「やっとその気になったじゃねぇか!」
追撃の一撃を大鎌の持ち手で防ぐ、足に力が入ると同時に持続して激痛が走り続け戦闘への集中力が削れる。大振りの攻撃をいちどはさみ、同時に足の剣を抜きバーグーサーに投げつける。勇者特有の再生能力の高さがなければこんな粗治療はしない。
だが、奴はそれを手で掴みねげ返してくる。速度がついた投擲剣を寸で回避する。
「いいじゃねぇか!!」
バーグーサーは笑いながら俺と戦い続ける。奴の動きは早く目が追いつかない、感覚によってざっとの場所を掴んだ後必死にタイミングを合わせ、そんな戦い方しかできなかった。
「前にも勇者の野郎とは戦ったが、こんなに楽しくはなかったぜ!」
他にもこんなやつと戦ったやつがいるのかと一瞬考えるが、無数の連続攻撃を捌き続けている俺の頭にまともに考えられる容量はない。目の前のことに集中しなければ。
「────っ!」
守りを剥がされ魔術で誤魔化し、構わず飛んでくる剣を弾き返し本命をまたもや受け止める。かろうじて反応できている自分に奇跡を感じる。だが暇なく、攻撃を続ける敵に感想を述べ隙すらない。
「お前、戦いを楽しんでだろ!!」
「───黙れ!」
戦いを楽しんでいる。そんなわけはない!俺はいつだって戦いを終わらせるために戦っている。敵を殺せば誰も苦しまずに済む、あの娘やあの人間達のように悲惨な結末を迎えずに済む。
「お前は─!!」
うるさいバーサークを突き飛ばし、連撃を加える。だが、それも防がれる。
「ハハハハッ!!今だって俺ら魔族のこと殺したてうずうずしてんだろ!そうなんだろ!?なぁぁぁ!!」
「ッ!」
距離を置き、回避に徹するとバークーサーは笑い、俺の攻撃をモノともせずにスピードを生かした四方八方からの全方位攻撃を始める、それらを紙一重のところで俺は回避する。剣が俺の顔の横を通り過ぎ、バークーサーの一撃が油断をすれば飛んでくる。毎秒命の危険を感じる危険な戦闘、それをもう何十回も繰り返している!
「お前の本質は俺たちよりなんだよ!!」
「────ガっ、く…ッ!!」
戦っててバークーサーが無数の剣を攻撃の合間に組み込み、二振りが俺の両肩に刺さり、激痛を押し殺しながら、肩をガクッと落とした。次の攻撃を考えて鎌に力を入れていると、バークーサーはその場で立ち尽くしていた。俺はそんな姿に油断せず、また立ち上がる。
「勇者ってのは本当に便利だよな、こんなにやってんのに全っ然ぶっ壊れねぇ!───って…………あー、まじか。そうか、そうなのか!?マジかよ───!!!あっははははははは!!!」
突然頭を抑えながら笑うバークーサー、俺はその姿に意味が分からず止まる。アイツは俺を見て笑った。今の俺はどんな姿をしている。
自分の体に目を向けた、
「──────……。」
俺の体は無数の剣撃を受け、すでに崩壊寸前だった。腕は裂けていながら手首の部分でかろうじて繋がれており、足は半分以上が欠損していてもはや足とは言えない体は無数の風穴が空いている。回避できていたと思っていた攻撃のほとんどは俺が感じていないだけで避けられていなかったのだ。
──────だが、痛覚はなかった。
両肩を貫く2本の剣の違和感は感じるが、全くもって"痛覚"は存在しなかった。
生きているのか怪しいような姿に思考が固まる。そして後からやってくるはずの痛覚を覚悟するも、全くやってこない。その現象に内心動揺しかしない。
(俺は────人なのか………?)
「はははっ!こいつは傑作だ、まさかあいつみたいなやつが他にもいるなんてなあっはははははは!最高だ!、んじゃ───ぶっ殺しても死なねぇよなァ!
(まずい────ッ!)
奴が一振りの剣を構え、俺の方へ向ける。そして先から放たれた光のように早い一撃、世界の色が反転したような光景が目の前で広がり俺に放たれる。全身の意識が持ってかれそうな重圧が体にかかり、瞬間身動きが取れなくなる。いやそれ以前にこの体はすでに限界を迎えている、行動すれば体の一部が確実に千切れる。痛覚というリミッターを失った俺は体が動かせる限りどんな無茶なこともできるだろうが、あれは違う。
確実に死ぬ。まずい、まずい、本当に死ぬ。こんな状態でも生きている俺でもあれを食らえばおそらく骨すら残らず消滅する。
(これが、最後なのか。)
いや、こんなところで俺は終われない、終わらせない、終わるな。だから動け……!
「─────戦律の助奏!!!」
はじめに音が聞こえた。そして次に目の前を覆っていた光が終息して消えた。俺が立ち上がって行動するよりも早く、その曲は聞こえてきた。この辺り一体に響き、思わず心地いいと感じてしまうそんな曲が。
「…………マジかよ。運悪りぃ、一番会いたくねぇやつと会っちまったぜ。」
「───雪島くん!?大丈夫…!!!」
背後から聞こえてくる声、俺の記憶に浮かぶ人物は1人。
「音風、奏。」
前に会った時とはまた違った装いの彼女が独特な武器を片手に現れた。どうしてここにいる、どうして俺を助けたという疑問が浮かんだ。だがそれよりも早く。俺は体を動かした。
[シュイィ─────ギィィッ!!!]
「っやる、じゃねぇかッすこし遅れてたらマジで傷つけられるところだった!!」
隙ができたバークーサーに一撃いれるも4本の剣によって防がれる。今までで一番いい線のいった攻撃であったに違いない。
この後は距離をとってコイツは攻撃をするだろう。だが、それ以前にここは俺の距離だ!
「─────"死を授け、汝は朽ち果てる"……………デスアーキィ!!」
詠唱を口にして大鎌には死の概念が付与される。一太刀加えさえすれば無条件でどんな生物でも絶命させることができる技。最後まで残していた奥の手の中の奥の手、デメリットがあるとすれば当てられなかった場合、こちらが死ぬという点。だがこの距離ではいくらバーグーサーであっても完全回避は不可能だ。
「貴様ッ────!!?」
バーグーサーが回避と防御を同時に行う。どうやらこの鎌の意味に気づいたらしい、だが遅い。
[ザ─────ッ!!!]
鎌は振りおろされ、バークーサーの体には当たらなくともその剣には当たった。同時に剣は死を迎え、粉々に砕け散った。
「──ハ。───初めてだぜ、俺の剣をバラバラにした奴は。」
俺の死は免れたが、すでに体は動かせない。痛覚がなくてもこれが稼働限界だとわかる。
「今日は正義の女勇者様もきたことだ、ここらで引き上げるかっ、またな"死鎌"。次会う時は、殺してやるぜ……!!!」
バークーサーはそのまま剣を引き連れて追いつけない速度で飛び立っていった。同時に俺は力を出し切って倒れる。
「───雪島くん!?」
意識が朦朧とする。音風が俺の近くにまできている、だが何もできない。
「────っぁ、な……夏ちゃん!夏ちゃんッ!!」
俺の姿を見て、夏の名前を呼んで音風はどこかへ行く。もう、お前達が何をしているのか分からない、視界はもう閉じている。そこまで、頭は、はたらかない………。
死にはしない。、だが、今は………少し眠い。




