28話「晴れず果たされず」
[ドォン!!]
醜悪な上級魔族の剣の腕は粗末なものだ、しかしながらその粗末さから繰り出される無駄な一撃は時に壁さえも壊す。そして極め付けは
「くひひぃぃ──!!」
こいつはこちらが攻撃する時に人間の死体を放り投げる。俺はそれを潜って本邸へと着実にダメージを与える。相手はどうも俺の動きが気に食わないらしい。
「イィぃイィぃいっっっ!!オマエ、お前、お前!気持ち悪いなァ!!」
どうやら再生速度は早いようだが、痛いのは苦手らしい。数回切りつけただけで随分と攻撃が乱暴になっていく。そしてその隙を狙って俺は渾身の一撃を相手の胸元へと繰り出す。
[ザシュ──ン!]
「ウギィあぁあああ!!」
そして首を狙った一撃を放つ時、相手は近くにいた人間の死体を俺の前へと出した。
「どうダ!これなら殺せなィ───」
[ドス────────]
「ア──────。」
「オマエ達は心臓を潰しても死ぬ、だったな。」
傷つけた腹に腕を突っ込んでやつの心臓を体から引き摺り出す。そして何が起こったか理解できない内に目の前でその蠢く心臓を握りつぶした。
「─────………ナ、イ。」
上級魔族は後ろへ大きく倒れた。魔族は心臓を潰されても数分は生きていないといけない。奴らにとって心臓を潰されるというのは時に一瞬の死よりも苦しいことになる、確定された死に怯えながら最後のひと時を過ごすのだからな。
「アァ、わかっタ。そうだったノ───カ、くひ。」
「………」
「くひぃいぃひひ。オマエは、モウこっち側なんダぁぁ───ァニキぃぃ……アニキが、お前をォォォ…!!!」
上級魔族はそう言い残し死んだ。遺言は実にくだらないもので首を切りたくなったが、こいつは簡単には死なさないつもりだったので抑えた。
その後、ラズとリズと合流し人質がどうだったか聞いたが砦に残っていたのは魔族だけだったらしい。人質やここにつれてこられていた人は全滅だったと聞かされた。その後死体を布に包んで埋葬した。こんなことで死んだ人間の弔いになるかは怪しいが、ラズとリズのために俺も少し真面目に取り組んだ。
「それじゃ、今回はありがとう。自分の手で復讐はできなかったけど。あなたがいなかったら成し遂げられねかった。」
「………もう傭兵業からは足を洗ったほうがいい。」
「……それはできないよ。」
ラズとリズは互いに顔を見合わせてそう言った。
「そうか。」
おそらく彼女達は魔族以外も殺したんだろう。俺と同じ目的を達成するために手段を選ばなかったそれをひどく後悔しているような顔だった。俺にはおそらくあんな顔をする日はおとずれない、なぜなら俺の復讐の炎は決して消えることはなく、過程にあるものを全て飲み込んでいくのだから。




