27話「卑劣へ憎しみを」
ラズとリズと共に魔族領での共同生活を始めて一週間ごろ、下準備のための情報収集や道具の制作や収集を経て俺たちは例の上級魔族を殺すために動き始めた。
上級魔族は大型の砦の奥におり、俺はともかく2人は道具を使ってでの侵入を優先した。
真正面から殲滅すればいいと提案したが、砦内にいる人間を盾にされる可能性があることから2人から却下された。
(俺が思っているよりも卑劣らしいな。)
残虐というより、卑劣の方が強いらしい。2人の顔から滲み出ている憎しみがそれを物語っている。面倒ではあるが、俺の武器も暗殺向きだ。よほど皮膚が固くなければ一撃で上級魔族を殺すことができる。
なので作戦には同意して今は砦の本丸に当たる部分、つまり上級魔族が居座っている部分を目指している。
「ここだ。」
壁の向こう側にとびきり大きな気配を感じる。間違いなく上級魔族、だがどうやら寝てはいないらしい。それどころか何かをしているようだ。
「突撃するよ、いいね?」
「うん。」
「──わかった。」
[バンッ!!]
扉を蹴破り、2人と共に中へと侵入する。そこで待っていた光景は残酷なものだった。
「──────。」
醜い巨体の上級魔族が人間を喰らっていた。人間の目にはすでに生気はなく、体はボロボロ、大半が女性と子供であった。
俺はその光景から彼らがどんな末路を辿ったのかを理解した。そして同時にこう思った。
(────コイツは簡単には殺さない。)
「っあああああああああ!!!!」
ラズは剣を抜き一心不乱に上級魔族へと飛び出していく。だが上級魔族はこちらの動きをすでに予期していたようで人を食べながらラズの体をその手で掴んだ。
「……………なんだァ、お前ェ?」
「うっ、ぐぁ。」
「ラズ!!」
ラズは掴まれた手から抜け出そうとするも、力の差から脱出はできていない。その間上級魔族は少し力を入れて、ラズの苦痛に悶える顔を楽しんでいた。
「───!」
奴の腕を大鎌によって切りつけ、手を緩ませた隙に俺はラズを救出する。
「………ごめん。」
「気をつけろ。」
リズにラズを預けて俺は上級魔族を見る。手応えから察してはいたが奴の傷は浅い、それどころかもう再生をし始め、傷はほぼ完治に向かっている。
(今まで戦ってきた奴の中で一番硬いな。)
「くひひっ、初めてダァ。オデラの体に傷をつけた奴ゥ……!」
上級魔族が不敵に笑いながらこちらを見る。これはラズとリズの手に負えるタイプじゃないと悟った俺は2人に砦にいる人質の解放を頼んだ。
「………わかった。」
2人は悔しそうな顔をしながら俺の言葉通り行動していった。その隙に向こうも準備を整えたようで手には体に似つかないサイズの細剣を持っている。
「お前は、男だけド、うまそうだなァ…!」
「………。」
大鎌を構える。そしてコイツを殺すことだけを考える。怒りと憎しみを通り越して今俺にあるのは圧倒的な殺意だけだ。今もそしてこれからも。
「─────!!」
「はァァァァァァ!!」
殺す。




