26話「なりゆきへ」
勇者の祠から飛び立ち、一週間彷徨いながら俺はようやく麓まで戻ることができた。携帯食料は数日前にきれ、完全に満身創痍の状態だ。
(くそ………)
アイツらから逃げるように帰らなければ今ごろ、こんな辛い思いもせずに下山できたのだろうかと思う。だが考えても仕方がない、今の俺には風魔術を使って飛翔する力すら残ってない。
今回の勇者の祠はハズレだった、考えてみれば勇者じゃない俺は弾かれるって考えておくべきだった。
(意識が────、)
ここは魔族領であり、こんなところで倒れてしまっては後にどうなるかなんてわかったものではない。そんなことはわかっているが、俺は、もう意識をとどめて置けなかった。
(─────っ。)
意志が落ちて、しばらく経ったと思う。体が重いような感覚がずっとしてそして途中意識が戻りそうなことが数回あって、その後どうなったのかわからない。ただ俺が次に目を覚ましたのは。
「────。」
知らない天井だった、しかも木製の。叩き上げられた危機察知能力が何も反応を示していないということは少なくとも敵地ではない。となると俺は誰かにここへ連れてこられたようだ。
それがわかるとゆっくりと体を起き上がらせてあたりを見回し、自分の体を確認する。
「手当されている……。」
自分が寝ていた粗末なベットやかろうじて確保された生活空間から予想はしていたが、どうやらここへ俺を連れてきたのは敵ではないらしい。
「……!あ。」
「───。」
部屋にあった扉が開き、いろいろ持ち物を抱えた女性が入ってきた。驚きましたが真っ先にしたのは警戒だった。それは相手がどんな姿形であれ、どんな態度をしているだろうと今の俺はする。
[バタン]
「………。」
扉は閉められた。そして直後聞こえてくる。扉の向こう側での話し声、声のトーンからしておそらく2人。
体の状態を確認する。相手が2人ならどんな不利状況であれ、現状俺の勝算が高い。相手がこっちを攻撃した素振りを見せたら殺す。
さあ、どう出る?
「──本当だ。目が覚めたんだ!」
「だから、言ったじゃん!」
「いやだって、あんなボロボロの状態だったし正直生きてるのが不思議っていうか、生きてても数ヶ月はダメだなって思ってたから!」
「本人の前でそれ言う?何か事情があったかもしれないじゃん!」
「まぁまぁ……それで、初めまして私はラズ、こっちはリズ、貴方は?」
「─────靁だ。」
会話の嵐の中に放り込まれた俺は自分の名前を口にする。
「ライかぁ。あ、ちなみに私たちは君が雪山の麓でぶっ倒れているところを救ったまぁ通りすがりの傭兵。あなたももしかして傭兵?」
「あ、あぁ。」
傭兵、確か金さえもらえればどんな依頼もこなす職業だったか。人間が魔族と戦っているっていうのにこいつ職業(かどうか呼ぶには怪しいもの)があるのは個人的には不思議だ。
「───やっぱりかぁ!ほら、リズ私の予想当たってたでしょ!!」
「当たってるも何も………それでって感じだけど。傭兵なんていっぱいいるし。」
目の前の二人組はどうも良く喋る。特にリズと名乗った方、天馬と夏でさえここまでハイスピードに会話をしなかったような気がする。
正直馬が合わない。
「どうして助けた?」
「──えっ、どうしてってそれは、つい。」
「つい?」
「だって困ってる人がいたら助けたくなるじゃん。」
「………そうだな。助けてくれて感謝する。」
世間知らずなのだろうか、この世界は意外と騙してくる奴が多いからこんな思考であの場所から俺を助けたとは到底考えにくい。いや、魔族と戦いすぎて俺に焼きが回っただけかもな。案外。
「いいのいいの。ていうか、ちょっと聞きたいんだけどあんな場所で何してたの?」
「ちょっとリズ。」
「………。」
ここは少しはぐらかしたほうが良さそうだな。勇者と俺が関わってたなんて思われなくない。
「山に用事があって登って降りてきただけだ。」
「………え?登った、あれを?」
「そうだが?」
「…………そーなんだ。あはは、世界って広いなぁ。」
ラズは俺の言葉を聞くと聞かなきゃよかったみたいな顔をしてよそを向いた。
「それで力尽きてたんだ。もしかして相当強いの?」
「どうだろうな。」
なんか面倒なこと頼まれそうな予感がしたからまたはぐらかした。
「いや強いでしょ!あの山登って降りて力尽きるだけで済むって相当じゃん!しかも眠ってだったの3日で目覚めたし!」
(3日って相当長い方じゃないのか?)
いや、こいつらからすれば3日じゃ済まないって話か。
「ねぇ、リズ。手伝ってもらったら?」
「え、でも関係ないじゃん。」
「でも、こんなに強い人滅多にいないし。いうだけならタダでしょ?」
「うーん。まぁ、」
「………何を話してんだ?」
「あ、えーとね。実はあなたに手伝って欲しいことがあるの!」
「断る。」
「え!即断?!」
絶対面倒なことだ。俺の今まで鍛えられた面倒なことレーダーがそう示している。
「そこを話しだけでもさ!それに、君の命を助けたのは私たちなんだよ!」
「……わかった。(本人の前でそれ言うかコイツ。)」
なんか何も考えてなさそうで意外に頭がいい言葉を飛ばすラズにそう思いながら俺は話を聞いた。どうやら彼女たちは倒したい上級魔族がいるらしく、その魔族は悪逆非道の非道、おまけに強いとくる。
2人だけでは心細いから助けて欲しいと言うのが簡単にまとめた内容だ。もちろん簡単にまとめなければ。
「その上級魔族は、大軍を率いて私たちが住んでいた街を無茶苦茶にしたの。男は殺されて女の人たちと子供は全員アイツらに連れて行かれて、私たちはその生き残り。だからこの手で復讐してやりたい。」
とのことだ。この世界じゃ魔族が非道じゃないなんてことはない。だからこの話も珍しいわけじゃない。だが話しているラズの目には確かに復讐の炎が灯されていた。それが悪いとは言わない。だがそんなものは、
「わかった。手伝う。ただし一回は一回だ。その上級魔族を殺したらそれでおしまいだ。」
どちらにせよ魔族を全て殺すつもりだった俺からすれば、その種族が出た時点で断る理由はない。
俺はこうしてラズとリズという2人の傭兵と共に上級魔族を殺すために行動を開始するのであった。




