20話「別れは死と生へ」
メイビェから帰還した私たちは、まず王様にことの顛末を報告した。メイビェで何があったのか、どんな事件が起こったのか、どんな惨状だったのかを記憶水晶に記録された内容は魔族が私たち人間陣営に潜んでいることを示唆して、王様はより一層警戒を強めると約束してくれた。
そして天馬は上級魔族を"再び"追い返した功績によってまた表彰されることになった。でも、仲間の私たちは知っている天馬乗る奴がこの中で一番暗い顔をしていたことを。
アイツはまた靁とあったんだと思う、そしてまた大変なことがあった。私はそれに対して何かできないかって考えて、そして今アイツの部屋の前にいる。
「天馬、いる?」
「……………あぁ。」
返ってくる小さい声で一瞬扉を開けるのを戸惑った、でも私はそれでもこれが必要だと思って勇気を出して部屋へと入った。
「。。。」
天馬は1人窓の外を眺めていた。ただ私からじゃその表情は見えない。でもここまできたなら。
「天馬、」
「何しにきたんだ?」
「───話をしにきた。靁のこと、そしてアンタのこと。」
「…………。」
「今日は話すまで帰らないから。」
「っ──はぁ。」
天馬は私の言葉を聞くと振り返った。アイツの目頭は赤く腫れていた。多分泣いてたんだろうって思う。いつもなら「何泣いてんのよ」っと言っるけど、全然そんな気になれない。
「なんだよ?」
「─────なんでもない。」
「………慰めに来たのかよ、お前らしくねー。」
「別にそんなんじゃない。アンタが辛そうだから話を聞きに来ただけよ。」
「……話聞いてなんかなるのかよ。。」
「なるわよ、とっとと話しなさい。」
天馬は窓から離れてベットに座った。私もその隣に座った。そして数分が流れて天馬はようやく話し始めた。
「アイツが、人を殺した。」
「──────そ、う。」
靁が人を殺した。天馬の声からして多分アイツは何にも表情を変えずに殺したんだってことがわかる。正直すごくショックで言葉が出ない。そりゃ天馬がダメになるわけ。
「アイツに打ちのめされて、弱いって言われた。実際そうだよな、上級魔族を倒して追い返したなんて、俺じゃなくて全部アイツ1人なのに。俺は何にもできなかった。」
「うん。」
「王様達もアイツのことなんてもう知らないって感じだ。だってそうじゃなきゃ手柄を俺のものにするなんてしないだろ。」
「そうね。」
「みんな、俺が最強の勇者だって言ってる。でも俺なんてそんなんじゃない、ただ最初は好奇心からだった、世界を救うなんてかっこよくてきっと誰にもできなくて、俺なら俺たちならできるって、でも思うんだよ………アイツはもしかしたらお前や奏や正治は本当はこんなことやりたくなかったんじゃないかって────」
「…………私は乗り気じゃなかった。」
「そう、だよな。悪りぃ………」
「でもね、後悔してない。わけわからないことだらけだし、初めて会った王様とかもなんか信用できなさそうだったし、もう家族と会えないって思うと悲しかった。戦うことだって怖かったし。」
「………夏、」
「でも天馬が声を上げたから、天馬が頑張ってるから、私も頑張り始めたのよ。」アンタがみんなを助けたいって世界を救いたいって言ったから、私もついていこうって決めたのよ。」
「─────へ、なんだよそれ。バカみてぇ…………」
「────それじゃあ元を正せばアンタがバカになるわよ。バカ。」
天馬がだんだん涙声を出してきた。
「靁は、どうだったんかな。アイツさ、武器を最初に呼び出せなくて………でもアイツ1人で頑張ってたんだよな、何かできないかって。アイツ、口にはださねぇけどさ、いっつも友人思いだから…………だから俺、本当にアイツがどうなってんのか、なんであんなふうに────!!」
「私もよ。」
靁の変わりようは私も見た。だから私も気になるし、アイツもきっとこいつみたいに心の底では助けを求めているのかも知んないって思う。まるっきり別人みたいになって、人を殺しても魔族を殺してもなんとも思わなくなったアイツを、イッパツぶん殴ってやりたい。
「…………くっそ、くっっそぉぉぉッ!!!!」
「あーもう。」
私はこいつに胸を貸した。コイツはバカそうに見えてしっかりバカじゃない。だから、私とかがこうしてたまに話を聞いてやらないとダメになっちゃう。人一倍行動力があるくせに人一倍後悔する大バカだから。
天馬はそこから数十分間泣いた。私まで涙ぐんできたけど、そこをグッと堪えてコイツの気持ちをしっかり受け止めてあげた。こんな時靁がいれば普通だけどいい言葉をかけてあげられたんだと思う、でも私は不器用だから、これくらいしかコイツの気持ちをわかってあげられない。
「…………悪い。めっちゃ泣いた。」
「いいわ。別に、気は晴れた?」
「すこし。」
「胸まで貸してあげたんだからそこはしっかり晴れなさいよ。」
「…………俺。」
「うん?」
「俺、アイツを止めたい。靁のやつ、このまま魔族を多分皆殺しにして、そしてわかんないけど多分めっちゃ辛い思い、すると思う。」
「……そうね。」
「だから、夏。手伝って欲しい、俺がアイツを止められるようになるために……!」
「───仕方ないわね。でも、アンタのために手伝うんじゃないわ、私も友達として靁を止めるのよ!」
「約束、しようぜ。」
「当たり前よ。」
小指同士を出して互いにゆびきりげんまんをする。子供っぽいけど、一番わかりやすくて、私たち勇者しか知らないまじない。
内容関係なくに、その指切りはいつもと違ってちょっと特別だった気がする。
「あぁ、ありがとう!夏!」
天馬はしっかり吹っ切れた。あと、私は部屋を出て行った。アイツの話を聞いたせいか、こっちの気もなんだか軽くなった気がする。それとなんだかアイツに胸を貸したこと、咄嗟だったけど。
(なんか、恥ずくなっきたわ。)
とにかく、アイツを支えられるように強くなって必ず靁を引き戻す。その日は私にも世界を救う以外にもう一つけして切り離せない、約束ができた日だった。




