18話「断罪は罰をもって。」
街についた俺たちを待っていた光景は地獄そのものだった。
「っ!!」
思わず歯を食いしばりたくなるような光景、街には火が付けられており、至る所から悲鳴が聞こえてくる阿鼻叫喚のような世界。住民達は混乱した様子で魔族から必死逃げている。
ここを守っていた兵士は初めから徹底的に殺されており、見るも無惨な状態になっていた。
「天馬────!」
「みんな、魔族を撃退して住民を非難させるんだ!俺は領主のところに行ってくる!!」
俺の言葉を聞くと、三人は行動を始める。そして俺はダッシュで領主の屋敷へと向かう。道中現れる魔族は全員切り伏せ、前へと進んでいく。
(あの魔族は……上級魔族はどこに……!?)
魔族の団結性がやけに高いことから、城の時と同じ上級魔族であるクランクインが指揮をとっているんだと俺は理解した。でも奴の姿は見えない、勝手なイメージだけどあいつって嘲笑いながらこういう時、俺のことを見下しにくるんじゃないのか!
[ドォォォン!!]
突如近くの屋根の天井が衝撃音と共に吹き飛ぶ。そしてそこから出てきたのは靁とクランクインだった2人とも戦って、見ればわかる通り靁が優勢だ。
「君ィィッ、ちょっとしつこいぞー!!」
「…………!!」
素早い蹴りを繰り出しクランクインを彼方へと蹴り飛ばす。すかさず靁は追撃しに空中を舞う。
「あいつ、どこで飛ぶことなんて習ったんだよ!」
でも靁がクランクインを足止めしてくれているなら、俺は領主の救出に専念することができる。すぐさま、屋敷へと再び足を運んだ。
「………やっぱり、そうなのか!」
屋敷は街とは違い、結界が張られており火が回っていなかった。靁が渡してくれた記憶水晶に写っていたこと、そして住人から聞いた領主の態度。
こいつは悪徳貴族に分類される奴だと、ここでしっかりと理解した。今まで散々人達を苦しめてきたんだろう、魔族に加担して俺たちを殺そうともしたし、絶対に許せない。
(でも、それは罪を償ってからだ!)
靁も言った"断罪"。とアイツの今の消極性なら殺しに行ってもおかしくないとか俺は考えてたけど、やっぱりアイツは靁、雪島靁だ!
(だから、勇者としてここは俺が何が何でもいかないと!)
たとえ弱くても、たとえ力が足りなくても、勇者として最大限、ヒーローみたいな存在でみんなを笑顔にするようなやつにならないといけない!ずっとそんなのに憧れてたんだ。だから、そのためなら俺は自分が少し辛くなるくらいなら全然後悔はしない!
[バンッ!]
「───っ勇者ナリタ様!?」
扉を蹴り破るとそこにいたプレストンは部屋の隅で小さくうずくまりながら震えていた。そして俺の顔を見るなり、なりふり構わず足元へと這い寄って
「おたすけくださぁぁぁぁい!!」
「っ!」
っと助けを乞いた。その潔さにか、それとも自分は何も悪くないと思っているような声で叫んだからか、俺はとても今居心地が悪くなった。本気で殴ってやりたいってこういうやつを言うんだと生まれて初めて理解した。だから、その衝動に拳を強く握るまでいったけど!
「プレストン卿!領主として最低な行いをした!住民達に苦しい思いをさせて、敵である魔族を領内に誘い込んで、陰謀を始めた!今から身柄を拘束させてもらう!!」
「ひっ、な……違う!私は!!」
[ドゴォォォォン!!!]
「────ああぁぁぁぁぁっ!もう!!」
壁が破壊され、上級魔族クランクインが転がりながら部屋へと乱入する。
「─────終わりだ。」
「ひぃ、魔族!?」
そして大鎌を携えた靁が冷酷な眼差しでクランクインを標的に捉える。後ろには俺がいる、ここから逃げることはできない。
「!あちゃー、プレストンくん捕まっちゃったかー、あわよくば回収してあげようかなとか考えたけど無理そうだねぇ。僕も腕一本持ってかれちゃったし、ここらが潮時かなぁッ!」
「────逃すかっ!!」
靁は大鎌を振り上げ、クランクインの首を取りに行く。だが、クランクインは一歩後ろへと下がり魔法によって一瞬にしてその場から消えた。多分ワープ系の魔法だとわかる。その証拠に靁の大鎌に引っかかったのはアイツが付けていたネクタイジャボの破片があった。
「逃したか。」
「あぁ、でもこれで魔族はすぐにみんなで鎮圧される。だからあとは───。」
「は、はぁ、ぃぃぃっ!降伏します!助けてください!家族を、ひ、人質に取られて!!私は仕方なかったんです!!許してくださいぃぃ!!」
「プレストン卿。それは城で裁いてもらう。さぁ、早く拘束されるんだ!」
「…………わかってないな。」
靁は一歩前に進み、そして大鎌を一瞬にして構え、大きく振るった。その標的はただ一つ、プレストンの首だった。
[ブシャ───ッ!]
「ぇ───?」
反応するよりも早く、プレストンの首が落ちた。切断面から当たり前のように大量の血が吹き出し、胴体は動かなくなった人形みたいに倒れる。
「全く。なんで生きれるとか思ったのか。」
そう吐き捨てた靁に俺は声をあげてこう言った。
「な───んで、殺し……!」
あの時と同じように靁は佇んでいる。こっちが驚いているのをまるで気にしてないようだった。相手の最後の言葉に耳を傾けず、首を正確に狙って切った。そして今こいつは人間を、同族を殺した。
「───罪は、罰によって裁かれなければいけない。当たり前だろ?」
「当たり、前?ふざけんなよ、お前にとっちゃそれが死だって言うのかよ…!?」
息がつまる。こいつが何を言っているかわからない。人を殺してもまるで魔族と同じような態度、こいつにとって魔族も人も何も関係ないんじゃないのか。そう思ったときだった
「そうだが?」
あいつははっきりそうだと答えた。
「─────っ!!!」
剣を抜いて靁に向かって振り翳す、靁は俺の行動に表情ひとつ変えずに大鎌の持ち手の部分で剣をガードした。あいつの言葉を聞いて俺は今の靁は靁じゃないって思った。見た目も瓜二つ、こっちのことも知ってる、だっていうのに俺自身がこいつを靁だって認めてない、こいつは
「……………。」
「───意味わかんねぇ!ふざけんな!お前が言っていること何一つわかんねーよ!!おまえは、お前は───なんだよ!なんなんだよ!!靁!」
靁の態度に俺は苛立った。こいつは友達に剣をむけた俺のことをなんとも思ってない。怒ってない、悲しんでない。ただ事象として捉えている。その上から目線な態度と、冷たすぎる心がすげぇ痛く感じる。
「………剣を抜くか───。そうか、ならその剣を俺に向けたことを罪とし、俺に敗北することを罰にしてやる……!」
剣を押し返し俺たちは距離を取る。靁は大鎌を構える、躊躇はない。ただあいつは自分のやることを妨げる障害を排除する。そんな意志をその目から感じた。




