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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター8「イマーゴ」
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179話「真実の鏡」





 「いやぁ、すごかったですね。まさか──あれほどお強いとは。」


帰りの道中妖精王ヴァルはそのようなことを何度も口ずさんでいた。彼も直接戦闘はしていないもののグリンドルムを一瞥しただけで相当な怪物だということがわかったのだろう。もとよりあれはそういう存在だ、常識の尺度に当てはめる方がいけない。


 「どうも……」


だが俺は生返事を返す。どうにも実感が湧いてなかった。記憶はある、感触もある。だが疑問も同時に存在する。衝動に駆られ続け先ほどのように半暴走状態で暴れ回ってグリンドルムをだった一人で倒した俺。この事実に俺自身が全然納得できていなかった。


なぜそんなことをしたのか、なぜそうなったか。事実と経緯が乖離している感触がずっとするのだ。


 (なんだろう、本当に。)


まるで自分が自分じゃないみたいな感じだった。実に俺らしく行動できていなかった。

でもその俺らしくない行動でグリンドルムを一方的にボコボコにしたのだから何だか不思議な感じだ。


本来なら喜ぶべき事実に喜べない。


 「それにしても随分と特殊な力をお持ちなのですね。」


 「ええまぁ。」


妖精王の会話は続く。だが俺の仲間の3人は話に加わらない。今さっきの出来事に俺が全然納得できないように、3人も俺の豹変ぶりにどこか思うところがあるような気がした。


 (…。。)


 改めて自己分析をする。俺はグリンドルムという存在を感じ取った瞬間、スイッチが入ったみたいに人柄が変わった。

紛れもなくそのスイッチはグリンドルムがトリガーとなっていたことは言うまでもないが、どうしてもこのタイミングで今なのか?という疑問は未だ尽きない。


これまでやつと同タイプの存在と何回も交戦をしてきたが、今回が初めての感覚だった。確かにいつもは絶対悪的な憎悪を感じてはいたものの、絶対敵として見ていたわけではない、それどころか俺は他の3人と同じ狩られる側の感覚を持っていたと思う。

でもさっきのは全然違う。グリンドルムという存在をそこら辺にいる雑魚と同クラスと認識していながら絶対敵として殲滅対象として見ていた。その判断の仕方はまるで機械のそれだった。


どこまでも無機質でいながら、精神は人間より。それでもグリンドルムへの対処はまるで朝のルーティーンをこなすが如く滑らかで決められていだものだった。鋭い感覚が常に俺を導いて正解を導き出す動きへと連れて行ってくれる。そもそも俺はあんなに強くないはずなのに、どうして?


 (ダメだ。わからない。)


情けない、自分のことだというのにこれっぽっちも答えが導き出せない。そもそも俺は謎が多すぎる。なんでグリンドルムを一方的に倒せる槍を持っているのか、なんでそれを出し入れできるのか、なんで記憶を失っているのか。


でもそれも真実の鏡によって何か好転するかもしれないという淡い期待を抱いて、俺たちは拠点へと帰って行ったのだった。


 「お約束通り、真実の鏡に案内いたします。今度は気負わなくて大丈夫です、鏡が今攻撃するなんてこと聞いたことも見たこともありませんから。」


 「まるで自分の所有物じゃないみたいな言い方だな。」


 「まぁ、ずっと昔の妖精王が作ったものですから。ある程度の記憶は持っていても私も妖精で、生き物で、忘れる存在ではあるのです。ですが──そんな忘れる記憶の中でも攻撃した、や危害を加えたはありませんから。」


彼はどこか自信げに語っている。曰くあれか、もしそんなことがあったら覚えている。っというやつか、それならちょっとは安心だ。


 「……。。」


3人の口は未だに開かない。無表情のようでどこか俺に対して不安そんな顔色が窺えた。そんな態度に俺もまた口をつぐんで何も言えずに彼の案内に従うだけだった。


 「そう言えばカリスにも見せたんですよね。」


 「はい。流石に10ヶ月もそのままでしたし、この場合はひたすらに申し訳なさが勝ってしまったというか。」


 (それ。俺たちも10ヶ月待てば同じになったのかな。)


いやそんなこと考えるな。10ヶ月待ったらこの妖精の国が黒秋の森に完全に侵食されていたはずだ。少し気になるがここは予測までの話としておこう。


 「こちらです。あれが真実の鏡となります。」


 「……!」


大木の階段を上がり続けてある一室へと案内される。そこにはただ一つポツンと身だしなみくらいしか整えられない素朴な鏡が佇んでいた。

あれが真実の鏡?っと目を疑ったものだ、あまりに普通すぎて、部屋の片付け中に忘れた置物の一つか?っと誤認してしまいそうな代物だ。


ゆっくり近づいて確認する。遠くからでもわかるほど鏡は完璧に磨かれている。部屋には苔やら雨水に晒されたことによってかどこか腐食している部分が見受けられあまり綺麗さは感じないものの、鏡はそんな常識を打ち破るかのように完璧で綺麗な状態でそこにあり続ける。

鏡がどこか普通じゃないと感じる要因はそこにもあるのだろう。


 「真実の鏡は大昔の妖精王が作ったものです。用途としてははっきりしていません、これがいつ作られたのか、これがなんのために作られたのか文字通り昔すぎて全然知らないというワケです。私も先代から記憶をある程度引き継げる身なのですが、よく知りません。」


ヴァルの話が続く。俺は話を半分に聞きながら鏡へと進み続ける。鏡に魅了されたように落ち着いた足取りでしかして視線は鏡を離さず、そうして鏡の前に立つ、遠目から見たときと同じようにそこには俺が写っていた。どこも違和感はない、服装にも何も変化はない。本当に何も違わないのだ。


 (なんだ、ただの鏡じゃないか。)


そう思って振り返ろうと押したときだった。


 「─── ただわかることは──それが真実を写し出すということだけです。」


そう言葉が耳に届いたとき、鏡の自分に違和感があった。鏡の自分は背後から鋭い円刃状の武器によってその胸を貫かれたのだ、すぐさま自分の体を感覚で確認する。どこにも異常はない、そこでふたたびあの第六感が発動する。


 (背後───っ)


すぐさま槍をその手に持ち、迫り来る漆黒の刃に対して振り翳す。ガゴォンっと鋭い音を立てて、武器同士が衝突する。今まで感じたことのないような衝撃が体全身を渡り、押し返される。


 「なっ!」


そして目がパチパチと目の前の状況を理解できない中、俺は目の前のとある存在に押し出され、あろうことか先ほどまでただ一つの物体として成立していた鏡へと激突する。本来なら鏡が割れて俺も吹き飛ばされるはずが、そうはならず俺はなんと鏡の中へと引き摺り込まれるのだった。


 「────ッ!!」


受け身を取りつつ鏡の世界へと俺は放り込まれる。向こう側鏡の反射光で真っ白となっており、見るからに戻ることはできない。

そして鏡の世界はというとモノクロの反転世界、部屋の扉は反対向きに開いており、さっきの世界とはまるで別世界の様子であった。


そして


 「。」


その世界に佇む一つの存在。全身は黒色、そして黒煙のようなオーラを纏い鋭い赤い眼光は黒狼を連想させる。だが奴から感じるものは悪性でもなんでもない、ただの気持ち悪さだ。

その気持ち悪さもまるで自己嫌悪のよう、自分自身に迷いがありそれがどこか受け入れ難い俺自身が抱くイメージが目の前に形を持って顕現したようなそんな言いようのない不気味さがあった。


 「お前は、」


相手は鋭い円運動攻撃を得意とする漆黒の鎌を携えている。すぐさまその鋭い刃先が自分に向けられたものだと理解する。

武器を構える、目の前の存在は敵性存在だ。もはや対話を行う気はない、こちらをただひたすらに蹂躙対象として見ている。次のカウントが進めばすぐさまに攻撃を開始するだろう。


 「戦うしかない。」


決意は早かった。もとより対話なんてできないかもしれないという考えが功を奏したのか、俺は強敵と戦う時のように身構える。人型と戦ったことは少ない、だがわかる。奴は俺が見てきた敵の中で必ずと言っていいほど強敵の部類に入るタイプだと。




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