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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター8「イマーゴ」
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177話「手がかり」





 「これで最後───っ!」


エルザードが空中に狼を持ち上げるとその隙を見逃さず、神速とも形容されるスピードでミィーナがX字に切り裂き抜く。

見事な連携技を最後に狼達は警戒心をより一層強め散り散りに走っていった。


切り裂かれた黒狼は、必殺的な攻撃を受けていたのにも関わらず気絶だけで済んでいる。その毛並みには傷の痕すらない。


 「何とか撃退できたようですね。」


 「あぁ。そして──」


俺は気絶状態の黒狼に近づき、その体を槍の刃先ですっと撫でる。案の定漆黒のオーラは切り裂かれた口からバラバラと空中に散っていき、その中から小さな妖精が姿を現した。


 「これで、大丈夫だ。」


 「貴方、、いえそれよりも!!」


妖精王が俺の行動に驚くもすぐに体は倒れている妖精の元へ。その手で体を持ち上げて状態を確認しているようだった。


 「ゼルよ、何をしたんじゃ!?」


 「……俺も確かなことはやってないつもりだ。」


あくまでさっきからできていたことを今実行したようなところ、理屈も理由もあったものじゃない。俺自身何でこんなこと起こせるか疑問に感じていた。だがやはり回数をこなせば何かが見えてくるようで。


 「きっとあの黒い体は──悪性でできている。」


 妖精王ヴァルと共に黒秋の森から出ることにした。今回救助できた妖精達を元の場所に戻すためだそう、本人は時間がかかるつもりでいたらしいが幸いなことに俺の槍がその役割を担い、黒狼の状態からは思った以上にすぐ戻った。この時ヴァルが何回も俺に謝罪をしてきてくれたことは言うまでもない。


 「──それでは、話を聞きましょう。」


再びあの拠点に戻ってきた俺達はテーブルを挟んで話し合うことにした。話はこっちから提案したものだった。


 「……聞きたいことがあるんだろ、まず疑問からどうぞ。」


あえて会話のターンをヴァルに譲る。


 「そうですね。では貴方が妖精達の凶暴化を解除できる点について、予測ではと思いますが話していただけますか?」


俺は自分の槍がなぜ妖精達の凶暴化を解除できるのかを憶測も交えながら語った。まずあの黒狼状態は基本的に攻撃が通りにくい、これは魔法であろうが物理攻撃であろうがだ、ミィーナが確実に切り裂き抜いたと思っていてもその毛皮には傷一つすらついてない、それほど丈夫で固く、また柔軟性があるのだ。


だが俺の槍で少し傷をつけるだけでこの強固な鎧は簡単に外れ、あっという間に凶暴化は解除され、中にいる無害な妖精が顔を出すと言う寸法だ。


そこで俺は考える。手応えという曖昧な基準であるが、あの妖精を閉じ込めている黒狼達の外皮は悪性でできている。そしてこの槍は悪性を断つ役割がある。それはグリンドルムという悪性の塊に対して有効打であることと同じである。


 「───なるほど。」


 「のう、そうなるとじゃゼルよ。我考えるんじゃが、」


 「あぁ。多分今回の妖精の凶暴化は」


グリンドルムによるものが大きい。俺はそう推測する。そもそも悪性の塊自体が一人歩きするなど奴以外に考えられない、さまざまな地形適性をもちながら、時に物体、ないしは生命にする寄生し、その力を我がものとする。これは今までであってきた奴の行動パターンに通じるものがある。


 「グリンドルム、初めて聞く名前ですね。」


 「当たり前じゃ。なんせそもそも数が少ないことに加えてほとんどのやつが知れ渡る前に倒しておるからの。」


 「だがグリンドルムを見過ごすわけにはいかない。」


俺はグリンドルムになると意識がガッチリと切り替わる。敵対意識をさらに上げた殲滅意識というのだろうか、それが常に身に纏われ一切の軽口も叩かなくなる。それこそ人が変わるという状態になる。

もっとも本心からこう思っていることなのでこれに自己嫌悪するつもりも、あのグリンドルムを逃そうとするつもりもない。


 (奴は、生きていてはいけない存在だ。)


何か特定なものに恨みを持つはずがない俺はこんなことを考える。客観視すれば不思議だ。


 「ともかくじゃ、奴の犯行となれば急いだほうが良い。奴は放っておくと面倒なタイプじゃ。」


 「ずいぶんお詳しいようですね。」


 「これでもかなり戦ってきたからね。」


 「うん。じゃが、よもやここで出会うとは───本当にもっと最悪にならずによかったの。」


 「あぁ。」


俺たちはたまたまここに立ち寄っただけだ。だから──もし知らないうちにこの妖精の国が完全にグリンドルムの手中となっていたら、対応は今より困難を極めただろう。


 「……ではゼルさん。貴方には借りを作ってばかりですが、どうか妖精国のためにグリンドルムの討伐をお願いいたします。私も─できる限りのサポートは惜しみません。王として民を守りたいのです。」


 「あぁ。もちろんだ。」


まだまだ仮想敵としての領域を抜け出せないが、俺の意識はもうグリンドルムにしか向いていない。奴がここにいると確定したわけでもないのに、俺はここに奴がいると直感的に思い込んでいる。いや、おそらくいる。奴ならここに。



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