173話「妖精の国の入り口」
3人の了承を得た俺は早速妖精の国へと歩みを開始した。とても寒いとかとても暑いとかそういった厳しい道のりはなく。かなり穏やかな草原が続く道のりだった。妖精の国への地図はを見つつ進んでいくわけだが、これがいちばんの問題だったと思う。
「ゼル、どっちじゃ?」
「あー。」
「ここがあそこの山じゃない?」
「いやでも二つじゃないのか?」
「ほんとだ。」
この妖精の地図かなり昔に作られたのか、地形情報が今とは全然違っていた。知らない山や川なんかは書かれているし、街があるはずなのになかったりあったりなど、とにかく至る所で差異が見られた。そのせいで地図を見ながら進んでいるのに、本当にこっちであっているのか?という疑問とさっき進んできた道が全く違うということがちょくちょくあった。おかげで直線距離にして数十日のところを、その倍の時間をかけて進むこととなった。
これも旅の醍醐味と言ったらそうなのだが、ひたすらに頭を悩ませながら進む旅は一周回って楽しさより疲れを増大させてきた。なんなら朝昼晩も食事を作りながらあちらこちらにいったりするのを繰り返しているとまるで家に一日中いて何もしなかったときのような無力感と同じようなものを感じる。
だがそんな険しくもない緩やかで長ーいみちのりもしばらく経てば少しずつ進んでいっていけるのだ。おかげで思った以上に時間がかかったものの俺たちはなんとか妖精の国へと辿り着いたのだった。
「いやはや、かなりの長旅じゃったのぉ。」
「次からはカリスに道案内をさせよう。」
観光感覚で行っているのだ、きっと道成もかなり把握しているだろう。俺はこの地図が人類ないしは竜と獣人とスライムにはまだ早すぎる代物だということを重々理解した。そもそも地形の変化やらなんやらは自然と共に生きるエルフの得意分野だ。
改めてこんなことになるならガイドを雇うべきだったと深く後悔している。
「まぁ、かなり大変じゃったが楽しくもあったからの。やっぱりこういうのがいいんじゃよこういうのが。」
「そうだね。」
「ピー。」
「……それじゃあ、行くか。」
俺たちは目の前に広がる樹海の中へと入っていった。見た目こそ普通の樹海であったのだが、どこからか超えたあたりから異様に木の数が減り、その代わり見たことのない植物が俺たちを出迎えるようになった。
「なんか、変わった?」
「多分。」
感覚的なものでは決してわかりずらいが先ほどの森と比較してみればどこか変と言える風景だ。なんだが植物が全体的に二回り、三回りくらい大きい。こんな大きさの葉っぱはないだろうと思う植物がそこには溢れかえっている。
「もしかしてもうついたのか?」
「どうだろう。」
「でも道が続いているよ、ほら!」
ミィーナが指を刺した方向には確かに道が広がっている。いつの間にって感じだ。さっきまで道という道が存在しない樹海だったのにも関わらず、そこには確かに人工的な道が存在してある。
「いってみるか。」
その道に沿ってひたすらに歩く。道のりの数分くらいが経過したとき、俺たちはある関門に到達した。
「これは。」
「なんじゃろうな。」
「ね。」
「ピィ、」
そこには木彫りだろうか、巨大な犬のような像がそこにあった。胴体を地面につけ、前足を前に広げ、後ろ足は折りたたんでいる。どこかで見たことがあるようなポージングに疑問を抱きつつゆっくりとそれに近づいてみる。
『立ち去れー。立ち去れー。』
「うお、なんじゃこの声!?」
『我は妖精の国の守り主。そなたらが国へ入るのに防ぐもの。』
「防ぐもの。」
『もしくは資格を試すもの……我の問題に答えられたらここを通す。』
一瞬戦いを覚悟したが、どうやら問いに答えられたら通してくれるかなり理解力のある妖精の国の守り主らしい。
「なんか、変な気がするの。問題を答えれたらでいいのか?」
『我の問題を甘くみるでない。』
「……どうするゼル、ちょっと胡散臭いが。」
「まぁ、それで通れるんだったらいいんじゃないかな?」
『ならば汝らに問題をかす。』
ということで、問題を解くことになった。俺はここでも警戒する、なぜなら問題と言っても種類があるからだ、何かの専門的な問題が出てくるのか、それとも相当に頭を悩ませる直球だが難しいタイプの問題なのか。
場合によってはここを通れないなんてこともあるかもしれない。出される問題に警戒しつつ、俺は頭をフル回転させて待機した。
『問題。朝は四足、昼は二足、夜は三足の動物は?』
「は?」
出された問題に唖然とする俺。それはどこかで聞いたことがある問題、というかかなりポピュラーな、ナゾナゾだった。
(まさか。)
俺は答えを知っている。聞いたことはないがどうやらこの頭が記憶していたらしい。記憶喪失でもこういうところはありがたい、だが今はそんなことよりも問題とは、まさかのナゾナゾだったということにびっくりである。
「む?むむ。そんなのいないのではないのか?」
「え。」
「だよね。あ、もしかしたら朝昼夜は人生を表していて、足が減っていくのは再生と切断を繰り返しているとか?」
「おぉ。」
「え?。」
二人は皆目見当がつかないらしい。ていうかミィーナのその発想力の良さと変に残虐なところはなんなんだろう。ちょっと怖い。
「ゼルは何かわかるか?」
「え。あぁ、たぶん。」
「そうなの?」
「うん。」
『自信があるなら答えるが良い。だが我の問題はそう簡単には───』
「えと、人間?」
『………正解。』
ですよね。
「ええぇ!?なぜ、なぜ人間なんじゃ?!は!もしや人間とは歳をとると足がなくなって増えるのか!?」
「そんなわけあるかっ!これはさっきミィーナが言っていた通り、朝〜夜までを人生と例えるとだ。朝は赤ん坊だから足と手で歩くから四つ、昼は大人で建てるようになって二つ、夜は年老いて杖をついているから杖の分も含めて三つ。ほらな?」
「我は年寄りじゃが杖をついておらんぞ!」
「お前は竜だろうが!」
『見事。ならば次なる問題を。』
やっぱりそうきたか。こんな簡単な問題一つで通れるなら誰も苦労はしない。予想していた通り第二、第三の問題があると見て良さそうだ。
「でもこの難易度なら。」
『問題。夜に現れる影は?』
「は?」
「はい!亡霊!!」
『見事。』
「なんだそれ!?」
俺は驚愕した。急に意味不明な問題を出されたと思ったら即座にミィーナが答えたからだ。というか夜に現れる影とは?なぜ亡霊なのか?
「知らないのゼル。夜には亡霊がたまに出るじゃん。」
「いや………そんなわけ、、いや。あるか。」
記憶を思い返してみれば確かにいたわ亡霊。亡霊が出るから基本的に夜は焚き火をつけた状態にして呪われないように対策するのが旅の基本だと聞いていた。今までなんの疑問持たなかったが、確かに言われてみればそうだ。だがこれを影と形容するのは難しい気がする。
『問題。割ると生きているように見えるが、食べると死んでしまうものは何?』
間髪入れず次の問題が出てくる。聞き覚えのある問題が出てくる。しかし残念ながらあと一歩のところで思い出すことができない。割と知っていてもおかしくない答えだったはずだ。
「卵ではないのか?」
『見事。』
「あー。卵か、」
『問題──。』
その後俺たちは数回にわたってこの目の前の巨像とナゾナゾ対決を繰り広げた、聞いたことがあるやつから聞いたことがないものまで、だが俺たちは四人の知恵でも十分答えられる領域だった。今までの旅とは打って変わってなんだか気が抜けてしまいそうなものばかりであったが、意外にもこの問題は頭を悩ませながらも達成感があり、どこか楽しかった。
『終了──よくぞ我の問題を解いた。先へ進むが良いー。』
ゴゴゴっと音を立てて犬の巨像は地面へと沈んでいった。ちなみに沈んだ巨像の後はびっくりするぐらいなかった、俺がいつかの日に土魔法を使ったときみたいにそこにはきれさっぱり痕跡がなくなった。
「なんか楽しかったのぉ。」
「うん。」
「とりあえずこれで進めるらしいし、先に行くか。」
妖精の国というのはこういう感じなのだろうかと心の中で考えながら俺たちは先の道へと進んでいった。




