172話「次の目的地」
俺の記憶を探す旅が始まった。まぁ実際には探すと言うよりかは戻す、旅というのが正解だ。俺の記憶がカケラになってその辺に落ちているわけでもあるまい、だから問題はどうやって記憶を戻すかという話。
「まずは情報収集だな。」
目的を達成するにはまず手段が必要だ。魔法があって呪いを解くことができる泉がある世界なんだ。どこかにほんのひとつくらい記憶を戻す力やそんなことができる場所があるはず、そのためにはまず情報収集が先決だ。
大胆不敵に動けばたとえ指名手配されていたとしてもなんとかなる。俺の隠蔽魔法もあるため情報収集は少し慎重になりながらも意外と順調に進んでいた。が、進捗率は芳しくなかった。
「ダメじゃな。」
「ダメだった。」
「ピィー。」
「……次のところに行くか。」
1箇所にとどまらずいろんなところを転々としながら情報収集をした。今回は誰かから急がれているわけないのでゆっくりやっていいのだが、それでも目標のために全員で進んでいるのにも関わらず一向にその先が見えてこないのは、そこそこ落ち込むというものだ。
俺も今まで自分の記憶を戻す方法について調べなかったわけじゃない。だからそもそも大人数で情報収集したって、対して得られないことを知っている。もしそう簡単に見つかっているなら、今頃俺はその場所に行っているか、その方法を試すかして記憶が戻っているからだ。
「やっぱり難しいの。記憶を戻すというのは。」
宿屋兼バーカウンターとなっている街でエルザードはそう愚痴をこぼす。俺だけではない、ミィーナも表情的には同様であるらしい。それとエルフルも
「こうも情報がないんだね。」
「──なんなら、そもそも何したら記憶なくしたのかとか聞かれたわけだし。」
「むー。何やら一説ではめちゃくちゃ精神に負荷がかかると記憶が飛ぶらしいというが、それと頭を打つとか。」
「どっちも勘弁願いたいな。」
記憶が戻ったらそのどっちかに当たることを思い出すのだろうか俺は、なんだか一気に取り戻したくなくなる。流石に痛い思いは勘弁だ。
「ゼルは──エルザードと会う前のことは覚えてないんだよね。」
「うん。」
「エルザード、ゼルとは確か血まみれの状態で出会ったんだっけ?」
「うん。そして我が力を使って完全回復させた。」
「前から気になっていたけど、その力ってなんだ?」
「言っておらんかったか。我はその対象に一度だけ完全復活できる力があるのじゃ。」
「?」
「つまりじゃの。例えばエルフルが瀕死の重症を負ったとする、もう助からないことはほとんど確実。じゃが、我の力を使えば生きてさえいればたとえ欠損しようが頭が潰れようが心臓を貫かれていたようが完全に綺麗さっぱり元通りになるのじゃよ。」
「え!?!」
なんだそれ。前々から言っていたが高位の回復能力かと思っていたらそんな化け物じみた能力だったのか。それって一応生きてさえいれば確実に生き返れるチート級の力ってわけじゃないか。
「なんでそんなこと黙っていたの!?」
「いや、そんなつもりなくての。それにこれにはさっきも言ったが欠点がある。この力は其奴の人生で一度きりしか使えぬということ。」
「一度きり?」
「例えばじゃ、ゼルは我が一度使ったからもうお主が死ぬまでは一生使えん。ただしミィーナとエルフルは我がまだ使ってないからあと一回だけ使える。」
「つまり、一人に対して一回だけしか使えない完全回復魔法?」
「そうじゃの。ちなみにじゃが生まれ変わりなんかはこの例外からは外れる。要は生まれ変わって全く別の生物になってしまえば使えるのじゃ。」
「生まれ変わりって、何言ってんだお前。」
生まれ変わって記憶を持っていた、なんてそんなどこかの漫画じゃあるまい。
「む?あぁ──そうかお主達はわからんか。我は大昔に記憶を持ったまま生まれ変わったという奇妙なやつに出会っての。なんでも我は前世の祖やつに一度力を使ったらしい。全く覚えてないがの。」
「ただの迷信とかじゃなくて?」
「うんその可能性は否定できん。そもそも生前の記憶なぞ、魂に刻まれるせいで生まれ変わった時にそれを掘り返すなぞ無理な話なんじゃ。誰も自分の魂には干渉できんからな。ネクロマンサーとかはあくまで外郭をちょっと移動できる程度なわけ出しの。」
「???」
エルザードが急に高等的な話をし出す。あれ?こいつこんな賢かったっけ?っていうか俺はこのおばあちゃんが言ってることを何一つ理解できない。
「……まぁその話はいいのじゃ。短命の貴様らにはわかる話ではない。」
「おいこら誰が短命だ。」
いい加減の態度で再びココアを飲むエルザードに文句を一つ。続けて言おうとしたところに宿屋の店員さんが俺たちに近づいてきた。
「すみません。ゼル様ですよね、こちらお届け物です。」
「お届け物?」
「差出人は、"お前宛のギルドに溜まったものが溢れ出して困っているから全部宅配で押し付けるが、文句を言うな"さんです。」
「なんて?」
そんな長い名前の知人はいないはずだ。
「ともかくお部屋に置いていきますね。」
店員さんが紙箱を3段済みして階段を軽々と上がっていく、まるでその様は引越し業者が荷物を運んでいる様子に酷似している、いやそんなことよりも店員さんの腕力すごいな。
「……とりあえず部屋に行ってみるかの。」
「あぁ。」
俺たち四人組は俺の部屋へと集合した。ついて見た時にはすでにありとあらゆる荷物が部屋中に積み飾っており、俺はここに引っ越してきたのか?っと変な疑問すら抱いた。
「すごい量だね。」
「マジで差出人は誰なんじゃ?」
「……たぶん。」
俺は手紙に書かれた差出人の名前をよく見た。ギルドに溜まっているという言葉からある程度予測していたし、何やら彼女の声でこの名前の一文が容易に脳内再生できた。
「プレンサだ。」
とりあえず部屋に置いておくのもあれなのでしっかりと分けるために、俺たちは片っ端から開封の儀を行った。中にはレオーナの宿屋に残してきた俺の装備やら手紙、そしてそれと一緒に送られてきたあるとあらゆるものがある。
「おー!我のドレス!!」
エルザードの荷物も配達されていたらしい。自分のお小遣いで買ったお気に入りのドレスをその胸に抱き締めている。
(エルザード、お前は竜力があるだろうに。)
多分そう言うことじゃないけどツッコんどく。
「私の装備も!」
ミィーナの装備も同封されていたらしい。確か婚約者として連行された時に、没収されたと聞いたが、まさかプレンサが回収してくれたのだろうか?それと、レオーナの宿屋に残してきた俺たちの荷物がギルドに流れてプレンサが俺たちに向けて投げてきたと見ていいだろう。だが一つ疑問なのが、
(なんでプレンサは俺たちの居場所がわかったんだ?)
少し怖いのでこの先は考えないことにした。
開封を進めていくと、いろんなもの掘り出すことができる。特にこれは一級品だった。
「ゼル!バートンから装備が届いておるぞ!」
バートンがいつかの日に郵便すると言っていた装備が中には同封されていた。エルザードの鱗を使ったりとかしていたからか、その装備は着てみるだけでも今までの服や使っていた装備などとは一線を画すような心地になった。
「すごい。」
「あやつ裁縫もできるんじゃない、かなりの仕上がりじゃ。」
「てっきりフルプレートとか送られてくるかと思ったけど。」
「そしたらミィーナは重くて動けないな。」
「わ、私よりゼルじゃない?!ゼルは人間なんだから、」
「たしかに。」
ミィーナが獣人であることを忘れかけつつもその装備をありがたく使わせていただくことにした。そして荷物はそれだけではない。
「あれ、これ。」
ミィーナはとある箱を開けた。それはバースデーボックスのような飾り付けがされたなんとも俺たちの荷物にしては一段と豪華さが高いものだった。そしてその中身は、
「あ。」
「お、ナイフじゃの。しかもなんかすごい色というか、代物ではないかの?」
そこにあったナイフは刃の部分が黒曜石のような漆黒でありながらミスリルのような独特の水色を放つ、みるからに特殊な短双剣であった。この大きさ的にミィーナの戦闘スタイルにもバッチリな代物だった。
「手紙もあったのか?」
「うん。」
手紙を読むミィーナの顔は無表情だった。俺はエルザードと顔を見合わせながら一体何が書いてあるのか覗こうとしたところで彼女は読み終わったようにその手紙を畳んだ。
「誰からだった?」
「お父様から……。」
「え!」
予想外の相手に思わず変な声をあげてしまった。同封されていたというところからこの短双剣はガイアスが送ってきたことになるが。
「大丈夫かの?変なこと書かれていなかったから?」
俺の心配をエルザードが代弁する。
「うぅん。その、なんというか遅くなった17歳の誕生日プレゼントだって。」
「……。」
手紙の内容は全部わからないでも、ガイアスがこれでどういう人かなんとなくわかった気がする。あの人は本当にかなりの不器用らしい。自分の娘に会って渡せばいいものをこんな回りくどい方法を使ってこんなことをするのだから。
「奴からの施しか。」
場合によってはそう取れる言い方をエルザードはする。ミィーナはそっと短剣に近づいて、その二つを持ってみる。
「どうするのじゃ。」
「……いい武器は使わないとね。」
ミィーナは小さくそう言って双短剣を大事そうに抱えた。俺はミィーナから少し距離を置いて他の荷物を開け始めていった。次は手紙が多く入っている箱だった。カリスとサーノルドの手紙がその大部分を占めていた。
二人からの定期連絡やらなんやらが色々書かれた手紙、特に大したことは書いていないものの、どうやら俺の紹介が良かったからか二人は互いに研究者同士連絡を取り合う中になったらしい。なんか俺がその間を取り持ったことに感謝もされたしちょっと複雑だ。けしかけたのは確かに俺なんだが。
手紙には友人としていたわるカリスと、研究結果をひたすら綴るサーノルドの二つだ。特にカリスの手紙の方が読んでいて面白かった、その中でも特に奇妙なものを見つけた。
『ゼルさん、たしか前に記憶喪失とおっしゃっていたので何かに使えるかもしれないとこれを同封しておきます。これは端的に言えば妖精の国に行くための地図です。なぜこれを渡したのかというと、妖精の国には真実の鏡というものがあります。なんでも自分を見つめ直すことができると、実際に私も行って見たのですが、確かに何やら強い力で自分自身と向き合えたような感覚になりました、もしかしたら記憶を失っている貴方の部分もみることができるかもしれませんか。もしまだ記憶を探しになっているのでしたらこちらをご活用ください。ちなみに観光で行ったのですが、かなり楽しかったです!』
と最後の一文が本命ではないのだろうかと俺は感じた。いや俺たちにとってはその前の真実の鏡とやらが本命だ。
「真実の鏡か。」
行ってみる価値はありそうだと心の中でつぶやいた。カリスの感謝の手紙を急いで書き上げて俺はこのことを3人に話し、早速その妖精の国へ行ってみることにした。




