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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター7「マグヌム・グラドゥス
170/199

170話「脱出」





 曲が終わると同時に俺たちの最後の機会が終わった。ゆっくりと彼女の手を離し会釈するダンスの相手に対しての感謝を忘れないようにと教わった通りに。


 「見事。」


その声と友にやけに響き渡るような拍手が向かってくる。その拍手があまりに大きくそして誰かを煽るような音だったのでその場にいた紳士淑女の皆様は黙ってしまった。パーティーとは思えない雰囲気が俺たちの方へと近づいてくる。


 「だがここまでだ。」


その拍手の人物は王太子だった。顔は真剣であり彼が片手を挙げると周囲の警備として配置されていた兵士たちが一瞬にして俺たちを取り囲んだ。


 「今確認をとった。フランドベレス公爵は本日のパーティーに代理を送ってないと、つまり貴方は不敬にも貴族の名を名乗った不届きものということになる。」


 (嘘だな。)


どこら辺が嘘かというと最初の代理を送ってないというところだ。俺は間違いなく代理としてここに来たわけだしそれの真意を確かめるためにこの王太子が誰かと話すなんで素振りは見せてなかった。つまりでっちあげだ。

だがこの王太子にはそのでっちあげをできるだけの確証があったのだろう。


 (つまり俺が貴族の関係者でないと確信できる点が。)


 「君のことを思い出した。確かミィレーナと共に冒険者をやっていたものだったね、どうしてここにいる?」


本性が出てきたのか王太子は敵意をこちらに向けながら話を続けた。それは嫉妬に近いものだろう。どうせ差し詰め僕以外に彼女に触れるなとかそんな幼さからくるメンヘラじみた魂胆なんだろう。大体第一印象から俺はこの人物に好かれていなかったと思う。


 (それにしてもよくわかったな。いや。)


最初の諦めは真だった。その後も俺に向ける視線と言っても、なんでミィレーナと踊っているんだ程度しかなかったはずだ。ではなぜこのタイミングで彼が気付いたのか。それは多分会話が聞こえていたのだろう。

人間の耳を持つ俺からすれば音楽によってあの会話はかき消されるものだと推定していたが、思った以上に獣人族の耳はいいらしい、おそらくミィーナよりからの方が耳は良いのだろう。


そしてさっきの会話を聞けばある程度俺が誰なのか見当がつく。そして今のでっちあげに繋がったわけだ。明確な証拠はなくとも周りがそう思い込めば事実になる。この王太子は自分の立場をよく理解している、彼に味方しない者は貴族の中にはいないだろうからな。


 「彼女に会いにきた。っという理由は通じそうじゃないな。」


 「当たり前だ。君のような平民が彼女と触れ合えたことは奇跡に近い。悪いけど、これ以上の勝手は君の身を完全に滅ぼすことになる。」


すぐに兵を放たず、話して忠告してくれているあたり悪いやつなのではないかもしれない。だが向けられている敵意から彼の心が最終的にどうなっているかわかる。いわば交わる気のない平行線が続いていると言ったところだ。


 (でも今は十分。)


 「さぁ、ミィレーナ。」


俺を無視して彼女に手を差し出す王太子。この場に吟遊詩人でもいようものならさぞやこの場面は華やかでロマンチックに語られるんだろう、だが俺からしたらそんな話は甘ったるくて聞いていられない、それに王道もいいが、たまには邪道もいいものだ。


 「殿下、それは違いますよ。」


 「なに?」


 「ゼル?」


俺は不敵な笑みを浮かべながら、彼女の腕を掴んだ。そして目で周囲を確認してから、このお坊ちゃんにこう言ってあげた。


 「彼女の名はミィーナだ!」


俺がそう口にすると、まず初めに窓ガラスが割れた。そして次に上に吊るしてあった豪華なシャンデリアが俺たちめがけて落下してくる。兵士たちは落ちてくるシャンデリアを回避しようと散らばり俺も彼女の腕を引っ張って巻き込まれる形でその場から一気に離れた。


 「な、に。なんだ!?」


シャンデリアが落ちると会場の明かりは沈む。そして紳士淑女の皆様方は一気に騒然とし始め大混乱に陥った。無論窓ガラスをぶち破ったのは誰か見当はついている。だがジャンデリアが落ちてくるまでは想定外だった。だが結果的にかなり有利な状況が作れたことには間違いなく、このチャンスを利用しない手はなかった。


 「ぜ、ぜる!?」


 「行こうミィーナ!」


俺はミィーナの手を引っ張って窓に突き進む。それを見ていたであろう王太子が待て!と大声を発したと思ったが気にすることなく俺は窓をぶち破って外に出た。


 「……!」


窓を出るとそこは空中だった。かなり下には足場があ流が落ちたらひとたまりもないだろう。だがこんな時のためのエルザードがいるのだ。


先に窓ガラスをぶち破って外に身を放り出したエルザードは竜形態へと姿を変えて空中で待機していた。そして窓ガラスを破ってきた俺たちの元にすぐにその背中を向かわせ、うまい具合にキャッチする。


 「危ない危ない!意外に早かったの!」


 「よし!逃げるぞ!!」


俺の声を聞いたエルザードは大きく返事をした後その翼を羽ばたかせ空中を駆ける。追手はいないおそらく場の収拾がつかないせいでしばらくこちらを追ってくるなんてことはしないしできないだろう。あの王太子は人をまとめるカリスマやらしっかりとした実力はあってもイレギュラーに対応できるほどの経験はまだないと見える。


 「……ゼル、どうして?」


どうしてこんなことをしたのか?どうしてあんなことをしたのか。私の本音は確かに言ったはずなのに。っといろんな言葉がその後に聞こえてくる。だが俺はそれらを無視してこう告げる。


 「だって──ミィーナがめちゃくちゃつまらなさそうだったから。」


 「……っ!」


 「ミィーナ、楽しかったって言ったよな旅のこと。なら続けないと、」


 「うん!人生楽しくないとおかしいのじゃ!!」


 「二人とも。」


ミィーナは一瞬喜びかけたがその顔はまた再び曇った。こうして飛び出したことはわかっていてもこの先どうしたらいいのかという不安も含んだ顔だった。


 「私───いいの?また、冒険をして…っ!」


 「……ミィーナは、どうしたい?」


俺は彼女に質問をする。自分を最後に決めることができるのは自分だ。だから、いつでも誰かのためにためらってしまう彼女が本当のミィーナに戻るために。


 「私は、私は───また四人と冒険したい!もっと世界を見てみたい、誰かのためじゃなくて……自分がそうしたいからッ!!」


 「わかった…!」


 「うん。良い返事を聞けたの!」


 「ピィー!」


彼女の決断を俺たちは受け入れた。彼女はもうミィレーナではない、ミィレーナから本当にミィーナという一人の世界を見て回ってついでで人助けをする女の子に戻ったのだ。


 白き竜は空をかける、夜空に広がる星が手に届きそうなくらい近く感じる。月下の灯りに照らされて、祝福を受けるような心地で風を感じる。


 「ゼル……ありがとう。」


 「どういたしまして。」


俺だけが成したことではない。それでも彼女が俺に感謝を向けるならそれはしっかりと言葉で返すのが礼儀というものだ。


 「それと………──ありがとう。」


 「?」


すぐに顔を背ける彼女に俺は疑問を浮かべる。

ミィーナからまた感謝の声が聞こえた気がしたが、おそらく気のせいだろう。さっきも言ったことをまた言うなんてことはしない。それにあまりに小さな声だったからおそらくそれは独り言に近いんだろう。


 「のう、これからどこに行くかの?」


 「どこでもいい。とりあえず、しばらくはここに帰ってきたくないなァ俺。」


ここにはいい思い出が少なすぎる。行くならもっとそういうのが多いところ、もしくは、まだ見ぬ新しい世界がいい。今こうして冷たい風が俺たちの合間を吹き抜けエルザードが大きく翼を広げ羽ばたくように、時間は進んで世界は進んでいる。ならば、今日とは違う場所がこの広い世界のどこかにはきっとあるはずだ。


そこに行ってまた楽しい思い出を作る。それがきっと隣の彼女が望んでいることなんだろう。




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