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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター7「マグヌム・グラドゥス
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166話「目覚めの結果」





 寝ている間には様々な夢を見た。でも目覚めてみればそんな夢夢達がどんな存在だったかなんて覚えていない。すぐに手帳やら口に出して語ってみればまだ多少はその内容を記憶できたのかもしれないが、その時の俺には開く口ですら重度の火傷を負ったみたいにひりついてまともに話せなかった。


 「……………っ」


目覚めた時体がこわばる。目はしっかりと開かない中俺はまだ戦いの渦中にいると思い込んでいる、傷口に染みる土の感触で目覚めたのかと一瞬誤解したが、それは違った。目覚めたのは俺の体がようやく活動できる状態になったからだった。


 「……ぁ、こ」


口は開けない開いても顎に包帯を巻かれているせいで少ししか開かない。状況が読めない中俺は今一度しっかりと目を見開き、グリルと見回す。この時片目に何か巻かれていると初めて気づいた、どうりで遠近感が読めないわけだ。


 気配がしない部屋の中で思考する。ここは、どこで?何が起こったているのか?

少なくとも寝かされている俺は安全でこの光景にはひどく見覚えがある、風景は違えど既視感はある。同時に鼻からため息のように生暖かい空気を吐き出す。


 (戦いは………終わったか。)


体は、思った以上にひどい状態らしい。もはや俺一人では身動きは取れない体全身が文字通りぐるぐる巻きにされているのだ。五感も今や目と鼻と耳だけ、いずれも半減中。感触なんて圧迫感と隣り合わせでまともに機能していない。


 (勝ったのか?負けたのか?)


そんなことを考えながらまた瞼を閉じた。俺的には負けていると思っている。本来なら悔しがるところだが目覚めたばかりなのに強烈な眠気が襲ってきてそれどころではない。


 (寝よう)


俺はもう一度寝た。しっかりと寝ているせいで体内時計は機能していなく次に目が覚めたのは夜だった。


 窓を叩く風の音が多分俺の目を覚ましたのだろう。暗くなった部屋は前に見た時と何も変わっていない、ただ耳に入る寝息が聞こえた。


 (………、)


寝息の正体は見えない。だが少女のような声でそれでいてどこか大胆さを感じるその声に俺は聞き覚えしかなかった。エルザードだ、前覚醒した時に影も形も感じなかった彼女を今はすぐ近くにいるのだと理解する。


 (起こすのは悪いよな。)


今が何時何日か皆目見当もつかないが、寝ているやつを無理に起こすなんて、どんな返しが飛んでくるかわからない。特に経験から寝ぼけたエルザードはとてもめんどくさい。

そう思って俺は再び瞼を閉じる。次起きる時は頼むから朝方にしてくれと願った。


 「〜〜、」


 話し声が聞こえて目が覚める。眠りすぎたのか目覚めはとても快調だった。それどころか隣で話している誰かがめちゃくちゃ気になったかのどちらかもしれない。


 「む、ぐぐぐ。」


 「そうです、そこを通して引っ張って…そうスーっとです!」


 「お、こうか!」


 「そうです!」


一人の聞きなれた声、それと知らない声複数が聞こえてくる。見えないからトーン的な話をするとまるで英才児の達成を喜ぶ取り巻きのような構図だと予想。そしてその英才児はもちろんエルザードだ。あの聞きすぎた声を間違えるはずもない、その周りにいるであろう取り巻きに関しては皆目見当もつかないんだけど。


 「………っ、」


声を出そうと決意しても咄嗟に出てこない。喉はカラカラだし、体全身がぐるぐる巻きのせいで小さなアクションひとつも取れない、でも今は明るい。ここでエルザードに声をかけなければ俺はまた退屈な睡眠に戻ることとなるのだ。それだけは流石に避けたい、だって流石に退屈を極めている。


 「、、が。ぁ、、っ………あ」


 「む?」


 「エルザードさん?」


内緒話をするような小さな声でもあの竜の五感は優れていた。俺がの目が覚めたのではないかとわかった彼女ははやる足取りで俺のそばに駆け寄ってきた。


 「──ゼル…!」


布が擦れる音と共に俺の目前に現れたのはエルザードの顔面、満面の笑みだ。流石にぶっ倒れるのは3回目ということもあってエルザードも慣れているのか異常な心配性を発揮しない。それどころかお主の生還を待っていた!と言っているようだ。


 「な、に……し」


動かない口で何していると視線もつかって訴えかける。するとエルザードは向こう側に行って何かを俺の目の前に見せ出す。


 「じゃーーん!」


 「な、に?」


と口に出ていながらもそれはどこか見覚えがある。編み物だ。でもなんでエルザードが?という疑問が即時に浮かぶ


 「お主が起きるまで退屈なのでな、ここのメイド達に教えてもらっておった。」


 「………。」


変わらずなんて図太さだと感じた。確かになんか裁縫だとかにちょっと興味を持っていたとか聞いていたが、まさか仲間が戦った奴の屋敷でそれを暇つぶしに教わるとは俺ですら読めない。


 「そうじゃ、今どんなところか知りたいじゃろう?話してやるのじゃ!」


エルザードはご機嫌に話してくれた。どうやら完全に沈黙した俺は屋敷でかなり丁寧に治療を施させてもらっているらしい(現在進行形)エルザードは俺が倒れたところですぐさまガイアスに突撃して行ったらしいが一瞬で鎮圧され、今は大人しくここで俺が目覚めるまで過ごしていたらしい。


その過程で夫人であるフェアルス・フォン・フランドベレスと洋服談義で盛り上がって友達となり、メイド達に編み物を教えてもらっていたという。


 (とんでもない奴だ。)


思わず感服する。というかなんだちゃっかり友達って。


 「とりあえず体が大丈夫になるまではしっかり面倒見ると言われたぞ。お主は大人しく回復に専念するんじゃな、我は編み物があるから!」


 (仲間より編み物が大事なのか。悲しいな。)


まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のようなエルザードを見送ってから俺は再び眠りについた。


 そこからおそらくだが数十日は経った。寝る他にやることがない俺は起きては寝ての繰り返しだった。身動きが取れないことにストレスは感じても他にどうすることもできないので黙っていた。そして俺の体は少しずつ包帯やらギプスやらを外してもらって立ち上がって歩ける程度まで回復したところで。


 「ゼル、お呼びじゃそうじゃ!」


エルザードに連れられて再びガイアスと話し合ったあの部屋に呼び出された。万全とはいえども敵ながらここまで世話をかけたのだ、出ていけということなんだろう。だがそれとは別に何かあると俺は半不自由な体を持ちあげながら感じていた。


 いざ部屋に入るとこの前の変わらない雰囲気が漂っていた。だが少し違うところがあるそれはこの間ガイアスの隣に座っていた夫人が席の後ろで立っていたということ。こんなことを言うのはアレだが、俺は母親に叱られている子供が詫びるみたいな体制に見えた。


 『………。。』


沈黙。呼び出されたのにも関わらず一向に話が切り出されない。用意された紅茶にも手付かずだ。この隣に座っている竜を除いて。


 「……。、」


 (いや何か言ってくれよ。)


スッーっと息を吸ったと思ったら紛らわしく吐く。こんなことを数回もやられれば打ちのめされたであろうと文句を言いたくなるものだ。


 「あなた。」


 「……。」


耐えきれなくなってか、夫人がガイアスに向かってさっさと言えという合図を送るも。相手は頑なに話したくないようだった。もしかしなくても目の前の獅子はかなり不器用なのではないのだろうか?


 「あの、話というのは?」


このままでは埒が開かないと、黙っていた口を開く。そこでようやく会話は始まった。


 「……君は私に力を示した。そしてどんな形であれ、私は君に負けた。」


 「──え、と。俺は、」


 「確かに私は君のことを散々打ちのめした挙句、武器をへし折りトドメの寸前まで追いやった。だがそこから先は何もしなかった。その気になれば首を打ち完全に意識を断つこともできたが。」


 (手加減してたっけこと?いや怖。)


あれでまだ本気じゃないと言っているような言葉が飛んでくるとあの時の光景がトラウマのように蘇ってしまう。


 「私はそれをしなかった。そして君は不思議な力を使っただろうが、化けの皮を剥がしたであろうが私に負けを認めさせた。」


 「……。。」


彼はまるで負けを認めた方が真の負けなのだと言ったようだった。


 「だが、それでも"私"は君たちには協力できない。礼儀というルールを破った相手に私は協力できる立場を持ち合わせてはいない。」


 「!」


 「ミィレーナ。君たちのいうミィーナを救いたいのならば勝手にするがいい。」


ガイアスはそう言って部屋を出た。そして変わるように夫人が彼の座っていた椅子に座る。


 「ごめんなさいね。あの人は不器用で、」


 「いや、不器用のレベル当に超えておるじゃろ。なんじゃあれ?」


 「!おい!!」


 「本当にねぇ。」


 「え。」


エルザードのストレートな物言いに夫人はかなり共感。俺はこの二人の関係があんまり見えないからかなんだが蚊帳の外感が否めない。


 「でも、許して欲しいの。あの人は成り上がりだったから本当に信用している相手以外に弱みを絶対に見せないのよ。そういうふうに生きてきたから。」


 「ふむ、思ったのじゃがお主は信用されておるのか?」


 「どうかしらね。」


 「えぇ。」


それかなり重要なんじゃという事項に夫人はふふふと嬉しそうに笑うだけだ。やっぱり掴みどころがわからない。


 「あ、ここにはいくらでもいていいからね。」


 「え、いいんですか?」


 「それはもちろん。あの人はどんな形であれ貴方に負けて実力を認めたんですもの。我が物顔で居たって流石に怒らないわ、まぁ〜〜何か壊したりしたら別かもだけど。」


 「そ、それは。」


どうもと言ったらいいのか。と俺が困った顔を見せる。すると夫人は続けて言った。


 「ま、あの人も不貞腐れてるからしばらくは話しかけない方が身のためかもね。でも、話しかけられたらぜひ答えてちょうだい。」


 「はぁ。」


なんだか子供抜きの二者面談をさせられているような気分だった。




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