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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター7「マグヌム・グラドゥス
165/197

165話「意地の意思」





 意思を反映するかのようにその手に槍が握られる。もはやまともな理性など機能していない。あるのはただ突き進むと決めた決意と目の前の敵を撃ち倒すという絶対的な目標、そしてそのためだったら全てを投げ打って出るという覚悟だ。


 「!」


また一つ体の中の回路が槍と接続される、得てした力は能力強化。先ほどは手も足も出ず技量、力においても完敗した獅子に鋭い一撃を与える。残念なことに巧みな防御で防がれてしまったが、その障壁を超えて打ち返すことには成功した。スタートラインにやっと立ったのである。


 「───っ、はぁ、」


 「………その化けの皮を剥がしたか。」


彼は冷淡にそう呟いた。鋭い眼光はこちらの正体を看破したようだ。だがそんなこと関係ない、今この場で必要なのは。


 「それが、……っどうした。俺はまだ──立っている!」


 「……そのようだな。」


戦いが振り出しに戻る、剣を構える獅子。初撃と同じ構えだ、そこから繰り出されるは神技の一撃そこから続くのは剣鬼の乱舞。先ほどの俺ならばこれらをなすすべもなく受け続けるしかなかった、が。


 「────!」


強化された動体視力が閃光に残像を付け足す。追いつくにはまだまだ遠すぎる速さだ、だが反応して対応するには十分。


 「っ!!」


 「!」


振り下ろされる激斬に体がついていき、スレスレの回避から攻撃へと転じる。眉ひとつすら動かさなかった相手に驚きの感情を引き出しながら、俺はその手に握られた槍を振るって攻撃を押し通す。


 「──!」


 「っ、く」


木剣が腕部にかかり崩壊を彷彿とさせる衝撃が重くのしかかる。


 「っ……ぁか」


その時実感する精神能力共に研ぎ澄まされていながら俺の稼働はすでに限界一歩手前、いやもしかしたら超過して動いているのが現状なのかもしれない。どちらにせよ今の強烈な衝撃は精神を半分シャットダウンさせるに足りた。


 (──っ)


ひどいことをした罰だ。俺の目は半分しか機能していない、意識も落ちかけている。それをギリギリまで現世に留めておけるのは間違いなくこの諦めの悪さだろう。自分にしては本当に珍しく、そして筋金入りの狂気だ。


 「………ッ!!」


暴風のような剣撃が止まっていた思考を無理やり再起動させてくる。不覚にも自分を取り戻したのは自身ではなく外敵の激しい衝撃からくる痛みだった。相手はこちらを寝かせるつもりはない、文字通り死ぬその瞬間まで起きててもらうつもりだ。


 「────っ、こ。の!!」


一秒間に16連撃、目視で確認できるのはその程度だ、槍は俺の意思を尊重して動かない体の代わりに動いてくれる。意思は俺にあるが体の主導権を握っているのは間違いなく槍だ。だが俺たちの目的は一致している。


 「───、。あああーーっ!!!」


その叫び声は情けないだろう。そもそも顎の感覚がない俺にとって口があるのかどうかすら正しく認識できない。だがそれでも叫んで自分の意思を乗せた力を相手にぶつけるのみだ。


再起動した俺が動ける時間は5分とない。その間に確実に決着をつけなければいけない。見極めるものは相手の動きと相手のパターン。どんなものにも法則があるのならそれを体に無理やり叩き込ませる。先ほどは早すぎて見えなかったものも痛みの連続で感じ取れなかった技術の繊細さ全てを理解のために費やす。


そして適切なタイミングを見極める。激痛と何度目かの思考停止が繰り返されつつも俺の意志は決して曲がらない。我慢するのに、"ゼル"という人間、いや"ゼル"と名乗っている人間はとても強いはずだ。


 「───っ。─!」


相手の隙が見えた。本来見えることのないような一瞬の隙、感覚がまた研ぎ澄ませれその隙を狙いに俺は大きく一歩を踏み出した。

足はすでに鉛のように重く骨が軋み筋肉は捻じ曲がったように変形している。だが動かせるのだ、たった一撃を相手に打ち込むためだけに。


 「、──────ッ」


槍が相手の剣へと振り翳される。攻撃側のこちらに相手が防御しようと受け流しの構えを取る相手の行動はこの次に連撃へとつながるだがその運命の楔を真正面から断ち切る。


槍の直ちに消し、両手に出現させる。相手は動揺しただろうそして判断を鈍らせただろう。間違いない武器が現れたとして自在に消えることを誰が予見できるだろうか、だがそれでも。


 「!!!!」


獅子は大きな口を開き百獣の王が如き形相を見せ剣を防御ではなく攻撃に切り替える、そしてその異常共形容できる行動反転から繰り出されるは力技は俺の右胸から左腰にかけてを殴打する。


 「──ッ──っ─ぁ─!っ!?」


骨が何本も砕けた。痛みでは到底形容できない。衝撃が精神を暗黒の中に引き摺り込もうと手を伸ばす。だがそれよりも早く、早く、もっと早く。


 「────ああああああぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」


二振りの槍を振りかざす。金剛の如し強度を持つ武器は即座に相手の木剣の破壊に成功した。だがこれでは足りない言ったはずだどこまでが勝利でどこまでが敗北という烙印をつけさせるかを。


それを知っていたから俺はその槍を獅子の首元へと向き穿つ。


 ただ、ここで違ったことがあったのは。俺がこの時槍を寸止めで止めてしまったことだった。


 「─────、」


 「─────っ。───なぜ、止める!」


本気で死を覚悟したのか獅子が命懸けだというのに激昂する。死ぬつもりは毛頭なかったものの覚悟を決めたというのにこれで終わり。戦士としてこのような発言をするのは全然不思議ではない。


だがそれに対して俺は確実に終わりに向かっていく意識の中でこう伝えた。


 「…。。ミィ、ーナがかな──しむ。」


 「────!」


誰かには誰かの大切な人がおり、誰にも大切にされていない人など存在しない。だから争いや闘争というのはどこまでも無意味なのだ、どちらも大切な人にとっての存在なのにも関わらず本人たちはそれを守るために互いに殺し合う。


大切なものがあるとわかっていたのなら殺さなかった!


なぜ?簡単だ。人は誰しも大切なものがあると理解した時自分の大切なものをか想像する。それが失われる苦痛を理解し、擬似的に実感して、後悔するのだ。


 ここで俺は彼の生殺与奪の権を持っていても、それが彼女のためになるなんてのは絶対思わない。自分の親もそして自分自身すら知らない俺にとってないものを、彼女は持っていてこの人も持っているのだ。


俺は、とてもじゃないがそんなことができない。


 「それ、だ………」


意識が落ちる。悲惨な体がようやく地に落ち、地面へとその身を預ける。ここまでよく頑張った、自分は文字通りやれるべきことをやった。あとは目が覚めた後の自分たくそう、だってまだまだこれからなのだから。




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