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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター7「マグヌム・グラドゥス
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162話「取り急ぎ方法」





 新たな目標を見つけた俺たちは、準備をするために一度レオーナに戻ったのだった。このまま王都に行くという選択肢もあったがその前にどうしても確かめたいことがあった。


 「なぜ、レオーナに戻ったんじゃ?」


エルザードが首を傾げながら聞く。そういうばまだ戻るとしか言っていなかったと思い出し理由を話す。


 「これも依頼と同じだ、目標を達成するためには下準備と下調べが先決だ。で、それを聞くために戻ってきた。」


ミィーナのことについて知っているかもしれない人物。それはこの街の中で一人くらいしかいない、盗み聞きの果てに得た結果だがいまさらそんなの考えたってどうにもならない、なんなら向こうも隠していたんだ、お互い様というべきだろう。


 受付で何事もなく依頼の報告書を出したあと、俺は有無を言わさずプレンサの執務室へと向かっていく。毎度のこと行くことが多いからかここで働いている人や冒険者であっても俺たちの行動を不審がらない。


 「プレンサ。今戻った。」


本人に報告するみたいな口調で扉を叩く。だが俺の思惑はもちろん違う。


 「そうか、待っていた。」


毎回プレンサには報告書で内容を知ってもらっている。だから待っていたなんて言葉を使うこと自体がおかしい。それはまるでいつも通りここに報告しにきたな。っと言っているように聞こえるからだ。


だがこの待っていたがもし違う意味だとしたのなら。扉を開ける理由に事足りる。


 「失礼する。」


最低限の礼儀と共に俺たちは部屋に入る。プレンサは机の上の書類に目をくれず俺たちのことを文字通り待ち構えていたように座っていた。それは暗殺者を堂々と迎え撃つ貴族のような姿にも似てとれる。


 「……ドワーフの一件は助かった。まずそこは言っておこう。」


 「……どうも。それでなんで俺たちが来たか、分かってますよね?」


 「あぁ。ミィーナの件だろう」


プレンサはミィーナがいないことに気がついていたのか。それとも俺たちがこの行動を選び取ることを予見していたのか、すでに覚悟を決めていたようだった。


 「なら話が早い。お主、よくミィーナを呼び出していただろう。なにか関係があるのではないのか?」


 「……順を追って説明しよう。」


プレンサは執務卓から離れ目の前にある長椅子に座る。俺たちも向かい側にある長椅子に座り、テーブルにあるポットからプレンサが紅茶をカップに入れるまでただ黙っていた。


 「私がこれから言うことは真実だ。ここに嘘偽りがないことを前提に話す。まず彼女の身分からだ、」


プレンサがカップを持ち上げて丁寧に紅茶を淹れていく。その動きに迷いはない。


 「彼女の本当の名はミィレーナ・フォン・フランドベレス。由緒正しきフランドベレス家の公爵令嬢だ。」


 「公爵。」


 「公爵というのは知っておるぞ。貴族の中で一番高い位じゃったよな。む、てことはミィーナは貴族なのか!」


エルザードが言いたいことを言ってくれる。といってもこの前の王子が言ってくれたようになんとなくは予想していた。しかしそこまでのご令嬢だとはとてもじゃないが想像できなかった


 「あぁ。そして獣人国のキングラッド王家の王太子、ログレス・キングラッドの婚約者だ。」


改めてプレンサの口からそれが語られる。王子の言っていたことを訝しんでいたわけではない。だがこうして突きつけられると思った以上に驚きというかショックが大きいものだ。


 「あ、?う?つまりじゃ、ミィーナはお姫様ということか!?」


 「そう言ってもいいだろう。」


 「え、えぇ!?じゃあ我すごく無礼だったのか?!!」


エルザードも混乱してわけわからないことを言い始めている。お前どちらかと言えばお姫様とかの家柄とか全く気にせず接するやつだろうに。


 まとめよう。ミィーナはキングラッド王家の王太子の婚約者で、そしてミィレーナ・フォン・フランドベレス公爵令嬢でもある。そしてそんな人物が俺たちと共に冒険者をやっていた。


 (こうしてみると。)


ミィーナが俺たちに隠していた理由がなんとなくわかる気がする。彼女は貴族に対してどこかいいイメージを持っていない素振りを見せていた。きっと本人も自分自身の身分にどこか思うところがあったんじゃないだろうか。そうでもしなければ冒険者になって偽名を名乗ってまで活動する理由が見えてこない。


 「………どうして、そんないいとこのお嬢様が冒険者に?」


情報を整理した俺がプレンサに聞く。


 「……自分の目で、自分の手で役目を果たしたいそうだ。」


 「自分の?」


まるで以前は他人にやらせていた、もしくは以前は自分でそれができなかったかのような言い方だ。


 「私も詳しく聞いたことがない。彼女自身、言いたくないような感じだったからな。そもそも公爵令嬢で王太子の婚約者である彼女が冒険者という俗職についていることが私からしたら疑問だ。」


もっともである。冒険者はいわば傭兵みたいな職業で命の危険も十分にある。プレンサがいうように高貴な貴族がつく職業では決してない。まさしく、月と鼈のような距離感だ。

だが実際問題、ミィーナはそんな職業についていた。貴族という立場ならばその財力を持って多種多様な職業がある中で、彼女は冒険者を選んでいたのだ。


 「プレンサ、お主も一応貴族じゃろう。ならば、ミィーナを連れ戻すことを考えなかったのか?」


エルザードが鋭い質問をする。ミィーナの身分を知っていたのならプレンサは立場的に元の場所に戻すべきなんだろう。辺境伯の彼女は少なくとも公爵より位が下だ。


 「考えたさ。だが、本人から直接願われてしまってな。公爵令嬢の願いは無碍にはできない、それに私自身彼女のやり方は気に入っている。」


 「貴族が冒険者をやる行動が?」


 「私は貴族社会の中では一風変わっているからな。」


答えのような答えをプレンサは語る。そういえばプレンサはそういう人だった。


 「いつ知ったんだ?」


 「初めて見た時さ。もっとも向こうも貴族がギルドマスターをやっていることにかなり驚いていたがな。」


 「いやほんとじゃのう。」


当時のミィーナの顔が目にうかぶ。彼女からしたら自分だけがイレギュラーだと思っていたらそれよりはるかにイレギュラーが目の前にお出しされたのだ、これで驚かないほうがおかしい。いや本当にどうして貴族やりながらギルドマスターやれるんだろうなこの人は。


 「彼女のことはかつて出たくない社交界で一目見たことがあった。クロージャーから重要人だから顔を覚えておけと言われてな。だから本当に見間違えかと思ったさ。」


 「それで交流を持ったと。」


 「あぁ。彼女は自分の身分を隠しながら冒険者を続けたい、そして王太子にできるだけ見つかりたくないと私にお願いしてきた。私はそれに承諾してこの前まで彼女を貴族社会から匿っていたということさ。」


 「辺境伯もこのことを?」


 「知っているだろうな。私が何も言わないからどうせ何も聞かず協力してくれていたんだろう。相変わらず空気だけは読める男だからな。」


プレンサ、そしてクロージャこと辺境伯はミィーナのことを匿っていた。二人の性格を考えればやりそうなことだ。もしくはそれだけの決意や心を動かすことをミィーナがやっていたということなのかもしれない。事実、素人目線だがミィーナは誰がどう見ても冒険者として馴染んでいた。


 (それこそ貴族なんて性に合わないみたいに。)


 「だがそれもこの前までだ。私も聞いたさ、」


 「…………。」


 「この先は私も関与できない。自分の力と身分だけでは王家と戦争をするつもりはない。それに流石に彼に心配をかけさせるわけにもいかないからな。」


プレンサは自分の無力さを嘆くわけでもなくただ淡々とそれを語った。おそらく彼女もこんな時がいつか訪れるのではないのだろうかと予感していたのだろう。そしてそれはミィーナもきっと同じ。

だからせめて夢が終わるまでの間、ということなんだろう。これはそういった話に聞こえる。


 「君たちはどうするつもりだ?」


プレンサが問いかける。答えは決まっている、だが彼女の瞳からはその先は苦難の道だということが伝わる。そればかりか、生半可な回答次第では君たちを処理するという感情の色までもが見える。まさに狩人の瞳だ。小動物であるこっちは本来震い上がって何もできない。


だが、ここに来るまでの覚悟は決めたある。だからあとは答えをいうだけなのだ。


 「──俺たちは、彼女の口から本心の聞きたい。」


 「………本心。」


 「。」


俺はそれ以上語らない。これ以上語れない。これ以上何もない。だからあと判断するのはプレンサだ。


 「本心、、か。───ふ、」


プレンサは俺の回答に満足したように紅茶がカラになったティーカップを机に戻す。そして立ち上がって執務室へ行く。


 「予想していなかった答えだ。意外にもな、だが実に君たちらしい。」


 「プレンサ。」


 「私は言ったとおり協力できない。だがそれでも君たちが望むならこれを。」


プレンサは執務机から一枚の封筒を取り出し俺へ渡す。あらかじめ用意されていたのか封筒に少しの埃がついており、ひっくり返せば真っ赤な封蝋がついている。


 「これは?」


 「招待状だ、ミィーナの両親であるフランドベレス公爵へのな。」


 「……用意していたのか?」


 「ほんの少ない気持ちとしてな。でも君たち以上にこれを渡すにふさわしい相手はいない。彼女の本心を聞くだけだとしても茨も緩く感じる道のりだ。まずは公爵を尋ねてみるといい、」


 「わかった。」


 「だが忠告として。それは門を開くだけの鍵だ。奥にいる獣を沈めるまでの効力はない、獣を認めさせるのは君たちの仕事というわけだ。」


 「獣?随分なものいいじゃのう。」


 「あぁ。何せフランドベレスはな。」


そのあとプレンサからフランドベレス家のことをある程度聞き、俺たちは決意を胸にレオーナの街を旅立ち再び王都に向かったのであった。



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