159話「アフタードワーフの里」
グリンドルムの討伐によって、案の定ドワーフの里は安定化していった。見切り発車的な勢いで討伐したがやはり例の異常気象の原因はグリンドルムで間違い無かったのだ。
ドワーフ達もいつもの暑さが戻ったと俺たちが里にきた時より遥かに賑わいを見せている。ただそれによって起こったことは。
「あ、暑い……!」
そう気温が元に戻ったということは、きた時より暑くなったということだ。今は宿屋の涼しい地帯の方にいるのにも関わらず、気温が上がったせいでここまでも暑くなっている。耐えられる領域ではあるが不快感がなくならないわけではない。
「早くここから出たいね……」
「あぁ、エルザードの方が早く終わればいいんだが。」
前に話していた。バートンにエルザードの鱗を使った装備を作ってもらうという件、グリンドルムや道案内の時に手伝ってもらったのでそのお礼という形で今行ってもらっているのだが。肝心のエルザードから鱗を剥がすのに手間取っている。そもそも肉から生成されているゆえに、取れる場所というのが限られており、慎重に剥ぎ取りを行わないといけないことから、思った以上に時間がかかっている、俺たちはそれ待ちということだ。
「鱗を剥ぐってやっぱり痛いのかな?」
「どうだか、でもエルザードは相当嫌がってたしな。」
「ピ、ピィ。」
暑さを紛らわすためにミィーナと雑談をする。だがもちろん話は続かない、ここまでくるとあるとあらゆる行動にやる気が起きなくなる。只今の望みは早くここから脱したいという願いだけだ。
「……帰る時も、大変だよね。」
「まぁ暑くなってるわけだからな。でもお礼にもらった氷水石はたくさんあるわけだし。」
そう、行きは涼しいが本来の暑さに戻ったことによって帰りはより過酷になる。ドワーフ達はお礼に何がいいかと話していた時に俺たちが真っ先に提示したのは氷水石だった。
里の中で活動することにおいてもあれは必需品レベルのものだ。是非とも帰りの道を快適にするために使いたいと、ねだったらこれが思いのほかよく手に入った。
『グリンドルムとやらがいなくなった影響だろうな。アイツが食べていた分が取れるようになったんだろ。』
とはバートンの談。目に見える効果が出ていることはいいことだ、特に一番欲しかったものが一番多く手に入るってのは願ったり叶ったりだ。
「……あ、報告書書かないと。」
「あー。」
ギルドに向けて、今回の調査記録をつけなければならない。大きな仕事には調査記録がつきものというが、記憶のほとんどが暑いで構成されている。
「里を出て気候が安定したらにしよう。さもないとまともに書ける気がしない。」
「だね〜ぇ。」
「ピ。」
暑い部屋で3人で、気だるく過ごす。エルザードが早く戻ってこいと願うがさっきの会話から10分も経っていない。
「そういえば、ミィーナはどこで読み書きを習ったんだ?独学か?」
「あー。うん、そ、そんなところ。」
「そうかー。」
頭が働かないせいでミィーナの気になる返しに、突っ込みを入れられない。この大陸で読み書きができるのは独学で頑張ったやつか、ご貴族様くらいなのだ、一般の学校なんてものがあるわけでもないし、仮に学舎があったとしてもそれは貴族専用だ。
ちなみに俺は独学、エルザードは途中で挫折、エルフルは、、エルザード曰く読みはできるらしい。そりゃそうだってだって明確な手がないんだもん。
「ゼルは独学だよね。大変だった?」
「そりゃあもう、でも書きはともかく読みができないのは致命的すぎるから、そこは頑張った。」
「そうだよね。じゃあ最初の頃はどうやってギルドの依頼を受けてたの?」
「受付に聞いてどんな依頼かを。読みができないやつって一定いるらしくて、簡単に聞けたよ。それもしばらく続けたら申し訳なさが勝つし。」
常識ができない自分を恥じる時が俺にはある、エルザードやミィーナからすればこれは不思議らしい。多分だけど人間社会特有の感触ってやつなんだろうこれは。
「そういえばゼル、槍は?」
「槍?」
「二つ目っていうの?同じのをもう一つ出してたでしょ?」
「あー。あれ、出せない。」
「まだ完全にモノにしてないってこと?」
「多分。俺もわからないっ!」
こんな話したり過ごしたりして数時間。エルザードを待ち続ける時間は意外にも長かった。だがその長い時にもついに終わりがやってきたのである。
「帰ったぞー!」
「やっと帰ってきたか。」
エルザードがバートンのところから帰ってきたのだった。本人曰く予備の鱗も剥ぎ取ることとなってかなり時間がかかったらしい。それはまぁ痛かっただろうなとか思っていたものだが、意外にもエルザードはピンピンしている、それどころか前より爽やかなような。
「それにしても鱗取られたのに随分とピンピンだな。」
「まぁの。鱗も不必要のところをできるだけ取ったわけだし、何より鱗を取ったことによってこれまたそこそこ涼しくての。」
「そんな羊の毛刈りじゃないんだし。」
ミィーナが案外無事なエルザードに苦笑いする。ともかくこうして俺たちはやっと帰れる状態になったのである。
「装備は?」
「バートンに宿屋と冒険者ギルドの住所を教えた。出来上がったら送ってくれるそうじゃ。」
「それは楽しみだな、よし……行くか。」
思えば郵便屋さんっていろんなここみたいにいろんな里や街に行くんだから結構辛い仕事だよなぁ。とかボーッと考えながら依頼を無事達成できた俺たちは帰路に着いたのであった。




