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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター6「イグニグラキエス」
154/200

154話「ドワーフの里の入り口」





 熱地帯を進んでいく俺たち、環境はさらに過酷となっていく。火の荒野はいつの間にかマグマ溢れる壊滅的な世界へと変わっていく。途中からグリーンエリアでは事足りなくなり、冷却魔法を独自に作り出し身を削りながら里へと向かっていた。休憩は十五分に一回、それ以上行けば俺やミィーナ、エルフルがダウンしてしまうからだ。

ちなみにさすがは竜なのかエルザードはまだ暑い程度で済んでいるらしい。しかしいつもような元気は感じられない。


 「あとどれくらいじゃ?!」


 「あと丸一日くらいだ。」


 「く、我はもう暑いのは嫌じゃぞ。」


 「私も、流石に、でもこれ里に行ってからもなんでしょ?」


そうだ。道中がこれでも里に行ったら滞在時間などを含めてさらに厳しくなるだろう。外に出てこの暑さなら里があると言われるマグマと岩岩に囲まれた地下はこの程度じゃ済まないはずだ。


 「あぁ……。」


 「く、こんなこと言いたくないが。これは受けるべきじゃなかったのかもな。」


言っちゃいけないことはわかっているが、こればっかりはエルザードの意見に同調せざるおえない。灼熱の大地は俺たちの仲まで引き裂こうとする勢いだ。暑いとイラつくというが、今はそれがすごく理解できる。


 「……大陸でこれほどの気候の変動があるなんて。」


俺の深層心理ではここまでの気候変動はなかなかない。草原、森、雪山、荒野、火山地帯。これが一つの大陸内で収まっているのは世界ひろしここだけでは無いのだろうか?


 「そうじゃのう。そしてこの山々の奥には海が存在するもんじゃから不思議ったらありゃしない。」


 「海か。聞いたことはあるけどどんなところなの?」


 「しょっぱい水が一面に広がる一見退屈なところじゃ。」


 「でも海の中は綺麗だろ?」


 「どうじゃかのぉ、我の時は水中系の竜種もおったから、あやつらは喧嘩っぱやくて面倒じゃったわ。」


エルザードは吹かしのことを思い出し長rもその表情はどこか、呆れたようだった。いい思い出がないんだろうなきっと。


 「ゼルも行ったことあるの?」


 「いいや。ただ知ってるだけ、しっかりと記憶にはないんだけどな。」


記憶としてはないが常識的な知識とは知っているという。記憶喪失の辛いところだ。」


 「そっか。ならいつか海に行ってみたいね。」


 「いつか、そうだな。」


こんな過酷な旅じゃないのなら海とか世界を見て回るのもいい思い出になる。いろんなところに行くのは実際ワクワクすることがある。探究心、冒険心というのが俺にもあるんだろう。


 (ただ。)


その時には記憶が戻ってればいいなとか改めて思う。俺は自分のことについてしらなさすぎる。槍のことも、どうして自分がエルザードのどうくつにたった一人でいたのか。普段なら気にしている暇なんてないものだけど、気温のせいかいつもじゃ気にしないことも気になってしまう。


 (俺は、本当に何者なんだろう。)


おそらくそれを知るのはこの大陸じゃない。あの人間がいる海の遥か向こう側の大陸。そこに答えがあるはずだ、いつになるかはわからないけど必ず。だって俺の半生の記憶なんだ。わせれたまま生きるなんて、


 (なんかそんなことしたくない。)


 「ぜ、ゼルお腹空いたのじゃ。」


 「あー。それじゃあご飯にするか。って言っても周りに何にもいないけど。」


 長旅であることを見越した食料は途中まで順調だった。だが今この地獄のような世界にいる生物は少ない。いたとしても関わりたくない部類の大型の魔物だ、どの部位が食べられるかなんかわからないことに加えて余計な体力を消費しないため最終出来に俺たちはしょっぱい干し肉を食いちぎりながら、向かっていったのだった。


ちなみにエルザードに乗って行くという手段も考えて提案したのだが。


 「多分まともに息吸えなくて墜落するぞ我。」


と返された。確かに空の色は何というか健康に悪く、地上の方が幾分かマシに思えた。ということで却下された。


 「にしても驚きなのが一つある。」


 「なんだ?」


 「この地獄みたいな光景の中で全く問題ない世界樹の根マジで何なんじゃ?」


 『それはそう。』


世界樹の根はこの草木も生えない大地の上でも健在だったのだ。おかげでマナが足りなくなるなんてことは全くないから助かるけど、明らかに火の粉が舞う中で無事なのは本当にどういうことなんだろう。


 (元が竜力だから、折り紙付きの生存能力とか?)


考えても答えは出ない。いつかカリスに聞いてみよう。


 そんなこんなの長旅を経て俺たちはついにドワーフの里へと辿り着くことができたのだが。


 「うわあああ!もう無理じゃァァァアアアッ!!!」


エルザードが顔を真っ赤に叫びながら入り口の洞窟から撤退しようとする。しかし服を強引に掴みそれを阻止するここまできたのなら帰るなんて選択肢はできない、なぜならこの洞窟の入り口こそ、さっきそこの岩で作られた看板に書かれたドワーフの多都の入り口なのだ。

そして、引き返すことができない理由は他にもある、精神的な問題もあるが食料的な問題もありここでとんぼ返りでもすればまともな食料確保ができず、確実に飢え死にするのである。ゆえに俺たちは目の前の門を潜り抜けないといけないのだが。


 「──────っ、」


近づくだけで立ちくらみが起こる。この先に行けば水分はあっという間に奪い取られ里の中腹にたどり着く頃には死んでしまうだろう。そもそも人が入れたところではないのだここは!


 「………っ、ごめん。ゼル、」


 「ミィーナ!」


 「うおお!?ひどい顔じゃ!」


ミィーナは言葉通りの満身創痍だ。その顔は一周回って晴れやかそうだ。だがそれは安らかに眠る方のヤバさがある。


 「ぴ、、、ぴ。」


 「あぁ!エルフルまでもか!」


 「っ!」


なんてことだ。あらゆる依頼をこなした俺たちのパーティは異常な暑さ。殺人的な熱気によって壊滅しかけているのだ。いやこれ暑さとかで表現できる領域じゃないな!


 「ゼル、お主は?」


 「人間舐めるな。なんかよくわからないけど、まだいけるッ!」


どこかでこんな灼熱を何回も味わったのだろうか、俺の体はある程度の熱に対する根性というか耐性がある。そしてエルザードは竜人スペックのアドバンテージが。ならばやることは一つしかない、後には引けず進むしかないのなら、押し通るまで。


 「よし。お主はミィーナを頼む。この体じゃ流石にしっかり抱えられん。」


 「わかった!エルフルを頼む。」


倒れかけるミィーナを横抱きして、入り口を潜り抜ける。思わず叫び声を上げたくなってしまう熱気がそこには広がっている。髪の毛が常時燃えているんじゃないか?と錯覚するような熱、そして汗が滝のように湧き出る。


水浴び的なことはしたが、汗の臭いはひどい自覚がある。ミィーナに嫌な思いさせてないかとか思ったが、その臭いすらも熱気がかき消して行く。この空間には何人たりとも生存以外の邪念を破壊する効果があるようだ。


 「は、はぁ……あ。」


 「ま、まずい。」


視界が揺らいでいく。人間にも限界はあるが思った以上に早かった!


 「お、おいゼル。ドワーフの知らんやつがこっちにきておる。心配の顔じゃああ!」


 「……ぅ、ぁ、ん。」


 「ゼル?!」


ま、まずい。彼らが来る前に意識が、意識が。落ちる。


 「ゼ〜、き〜〜て〜〜〜っ!!」


もう何も、聞こえ、ない。




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