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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター6「イグニグラキエス」
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153話「長く灼熱の道のり」





 そこから数日後、準備を整えた俺たちはドワーフの里に向かっていた。里の位置は王都からはるか南の方角、大陸の端の火山が溢れる熱地帯だ。今までかなりまともな気候で生活していたため、準備は万端にして向かった。ミィーナはいつも以上に軽装備、そして熱を取るための準備をかなりしてきたようだった。いつも身体のどこかに鉄防具を見に纏う彼女も今回ばかりはそれを止めていた。


だがそれ以前に今回のドワーフの里への道のりというのはかなり時間のかかるものだった。


 「ゼル、次の街で今日は終わらんか?」


 「そうだな。」


まともに歩いたら一週間かかる距離を行くんだ。流石に野宿もそうだがしっかりとした宿屋で休めるなら休みたいのが常である。幸い王都の周りには小さな街や村がそこそこあるおかげで途中までは心に余裕を持って移動ができた。だがそれも途中までだ。


街が少なくなってきた頃、ちょうど俺たちは気候の境目を見つけた。ついにドワーフの里の入り口とも言える熱地帯へと入ったのである。しかし進んでいるのに手放しでは喜べないのが旅というものだ。


 「暑いな。」


 「うん、暑いの。」


 「ぴ、ピー、」


 「うわわ!ゼル、エルフルが溶けそうじゃ!」


 「まずいっ!」


熱地帯は聞いていた話より過酷な環境であった、蒸し焼けるような暑さと火の粉が飛び交う地帯。地面からは熱、空は暗雲に包まれている。まともな環境で過ごしているならこの世界はまさに終末世界のように見えるだろう。ただこんな地獄みたいな地域でも生物は生きてるし、魔物だっている。もちろん適応した生物とかなんだが、でもまだいるだけ正常の域なのだ。


 「よーうし、何とかもとに戻ったの。」


 「ピィ!」


とりあえず水をかけることによってエルフルは一命を取り留めた。だが今にもエルフルの蒸発は始まりかけてきている。水気を失ったスライムの姿なんて想像もできないけどきっとエルフルからしたら命に関わることに違いない。定期的に水を与えるとしても、それも限度がある。


 「これでは、イタチごっこじゃのう。」


 「ピ、ピィ。」


 「──はぁ、、はぁ……。」


エルフルの次はミィーナが危ない感じだった。舌を出して、顔を真っ赤にしてなんだか尋常じゃないくらい辛そうだ。獣人族は体温が高いと聞いたことがある。


 「ミィーナ、大丈夫かの?」


 「うん。大丈夫。」


 「………休憩にしよう。」


休憩できる場所なんて碌にないが、それでも立ち止まって水を飲むだけでもまるで奇跡のように感じられる。特にミィーナはこの熱地帯に向いていないのかすごく辛そうにしている。


 (試してみるか。)


暇つぶしも兼ねて持ってきた魔法書を開き、あるページまでめくる。まだ後回しだとか思って使わないでいた合体魔法とやらを試してみようと思う。


 「広範囲+水魔法+結界+自然」


 「なにをしておるんじゃ?」


 「エレメンツの組み合わせだ。」


魔法とは基本的な元素の組み合わせ、ただただ既存のものを使うのであればここに着眼する機会はほとんどないが、元素を知っていれば合体魔法などを使用することができる。

元素はエレメンツとも呼ばれこの世界の至るところに存在する、要素だ。このエレメンツはなにも自然現象じゃなくとも獲得することができる。個人的には概念と現象の狭間のような存在。


収集魔法という特殊な魔法があるのだが、それによってエレメンツを集める。草木からは自然のエレメンツ、結界のエレメンツは相応の魔法から、または壁からも入手できる。

っとこのように人工的なものからもエレメンツは取得できる。自然が一番手っ取り早いが人工的なエレメンツには特殊性だったり希少だがとても役に立つものがある。


 「エレメンツ?の組み合わせをするとどういうことができるんじゃ?」


 「言った通り、これらは魔法の元となっているものだ。これを直接組み合わせることはすなわち魔法の合成のようなもの。だから、こんな感じなことができる。」


試しに完成した魔法を目の前一帯へと発動してみる。結界魔法によって隔絶された空間が誕生し、そこに穏やかな気候が発生する。


 「お…?」


エルザードが試しにその結界の中に入ってみる。


 「おぉ!涼しい!」


 「今回の魔法は穏やかな気候を作り出す魔法だからな。まぁ、消費するマナが多いから連発はできないけど休憩するには十分だろ?」


 「おぉ!!」


 「て聞いてないし。」


合体魔法、そうだな名前をグリーンエリアとでも名付けておこうか。このグリーンエリアのおかげでドワーフの里まで行くのがだいぶ楽になったことは事実だった。初めての合体魔法だったが上手くいって助かった。正直道中の暇つぶしがてらのエレメンツ収集がこんなところで役に立つとは夢にも思わなかった。


 ドワーフの里までの道中、グリーンエリアで休憩を行っていたとき。


 「うぅ。」


 「ミィーナ?どうした。」


 「いや、毛並みが。」


ミィーナがしきりに自分の耳や尻尾の手入れをしている。この熱地帯に入ってからだ、プレンサがたしか毛並みがチリチリになるだか言っていたのはこれか。


 「………」


最近は気にしていなかったが、初歩的な疑問が湧き上がってくる。まだマナに余裕もあってグリーンエリアも長く持つ、聞いてみるのもいいかもしれない。


 「なぁミィーナ、獣人族って耳が頭のところについているけど、人間の耳もついているよな?」


 「そうだね。」


 「使い分けとかしているのか?」


動物の耳は人間の数倍聞きやすい、なら人間の耳をわざわざ使う場面というのはあるのだろうか?という面だ。いやそもそもそんなこと考えてすらいなくて普通に聞き取れているという可能性もあるけど。でもミィーナの動物耳がよく動いているところを見ると、なんだかこう思えてくるのだ。


 「してるよ。こっちは人の話を聞くとき用。」


 「人の話?」


 「上の耳は基本的に小さな音とか戦闘の時、警戒の時なんかのこっちの耳じゃ聞こえないものを聞くときに使ってる。」


 「つまり生活する分には、横の耳を使って。それ以上のものを聞くときは上の耳を使ってるってことか。」


 「そういうこと。」


そんな使い分けがあったのかと、感心する。いやでも待てよ、今の聞いてまた疑問が浮かんだ。


 「音が重複するとかないのか?」


 「……ない、と思う。普通に聞こえてるし。」


 「そっか。」


流石にそんなことはないようだ。そりゃ俺だって左で聞いた声と右で聞いた声でごっちゃになることは少ない、右で聞こえたとき左にもある程度聞こえるものなのだから。


これはそういうのと同じ感じなんだろうと思う。


 「その、ゼルの方はどんなふうに聞こえるの?」


 「どんなふうにって、多分ミィーナと比べてあんまり聞こえないと思う。」


こればっかりは体が入れ替わった。みたいな展開にならないとわからない、俺がミィーナと比較できないようにミィーナも俺も比較できないのだ。


 「……。」


 「、あのミィーナ?」


ミィーナは俺の頭に手を置いてそこにあるものを探すみたいにわしゃわしゃと撫でる。多分探しているものはあれだ、動物耳。


 「……ほんとにないんだね。」


 「うん、やっぱりなんか変?」


 「うん。」


変だったのかそうだったのか。まぁそりゃ、ミィーナ達獣人族からみれば人間なんて幻の生き物だろう。それゆえに違いが気になるということか。今更感はすごいけど、それは俺も同じだ。


 「ゼルは、変だと思わないの?」


 「…ぇ?あ、」


変じゃない。っと答えようとしたときに自分の中の疑問に気がついた。いくら記憶喪失でも基本的なことは忘れない。人間がどういう特徴の生き物か知っているように、獣人、そして竜がどのようなものか俺は知っていた。


これはどこかおかしい。俺がもし海の向こうにある人間の大陸出身だとしたら獣人のことなんて知る由もないのだ。それなのに俺はここでミィーナや多くの種族を見て、全く動じてない。


まるで前から知っていたみたいに。


 「。。実のところよくわからない。」


 「そうなんだ。」


会話がすぐに終わる。こんな答えが見えない問題にぶつかった俺は、よく勢いを失う。最近は記憶喪失のことなんて気にすることもなかったけど、でもそれでもたまに自分はおかしいのか?と思う時がある。


 「……けど、獣人族を変だと思ったことは一度もない。」


これだけは確かだ。何か違和感を覚える見た目だとか、変なのだとか思ったことはない。冷めていると言ったらそうなのかもしれないが、俺は竜もスライムも獣人もほとんど隔てなく見ている。それこそ敵意をむき出しじゃない限り。


 「そっか。よかった。」


ミィーナはなんだが不自然に笑う。どう言ったふうに感情を伝えればいいのかわからないようだ。とか思っている俺も同じだ、なんだか気まずい雰囲気にどう言えばいいのかわからない。


 「なんじゃなんじゃ、何の話じゃ?」


そこにエルザードが首を突っ込んでくる。雰囲気は一気に柔らかくなった気がした。

視線はエルザードの頭に、ミィーナの耳の件もあって今日の俺は頭についているものに興味が湧くようになってしまったらしい。


 「……そう言えばエルザード、お前の角って何か意味があったりするのか?」


 「──い、いきなりなんじゃ!?そんなこと!」


エルザードは角を隠して俺から離れる。もしかして今のはまずいことだったのだろうか。


 「ごめん、もしかして変なこと言った?」


 「………う、ん。なるほどの、純粋な質問としてか。」


 「うん、うん?」


ちょっと待て純粋な質問じゃないなら何なんだろう。何か危ない気配がするがそっちの方が気になる。好奇心は猫を殺すというが、俺は人間だ。


 「なぁ、エルザード。」


 「待て───、お主が聞こうとしたいことがわかるぞ。じゃから先んじて答えてやる。竜の角にとやかく言うのは、その……ときに相引きを指す時があるぞ。」


 「な………。」


 「じゃからの、言うんじゃないぞ。うん。」


 「あぁ。」


話は意外にも早く終わった。エルザードの回答に俺は満足せざるおえなかった。というかこの先に踏み込むのなら俺は死を覚悟しなければいけない。


なんかさっきからミィーナの視線が痛い。うん、悪いことを聞いたことはわかった、ちなみに俺からエルザードに対するそんな気なんてものはない。


 「で角についてじゃったな。これは我ら竜が竜力を貯める貯蔵庫のようなものじゃ、これが大きかったり長かったり固かったりすれば相応の竜力があるということじゃ。」


 「へぇ。」


固かったり長かったりって、そんなところまで竜力が関係しているのか。っと思う。竜の力の源は角にありということか。


 「ねぇエルザードって、火を吹いたりするけど竜力で他にはどんなことができるの?」


っと会話は続いていく。道中は過酷な道ではあるがこうした小休憩には互いの疑問をぶつけ合って、何かと理解力を深めていく、それはこの熱地帯でも変わらない。




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