149話「唐突」
王都に向かって奴隷達を解放して貴族の屋敷を燃やしてから数日後、基本的に無関与と処理された俺たちはいつも通りなんでことのない日々を送っていた。
例の貴族は後から伝えられた情報によると王都で裁判にかけられ、ものの見事に有罪判決を喰らったらしい。無事奴隷達は解放され、今では手厚く保護されている聞いた。
もちろん謎に貴族の屋敷が燃えたりした理由や、奴隷達が逃げ出した理由に関しては俺たちの仕業だとは全く思われていないらしい。それもそうだ、そもそもどうやったら数時間のうちに向こうまで行って屋敷燃やしてここに帰って来れるのか、怪しさはあっても移動時間という決して消せない要素がある以上、真犯人にたどり着くことはできないだろう。
辺境伯が先の一件を秘匿してくれたおかげで、俺もプレンサもほとんど咎めなく過ごすことができている。まぁ辺境伯からしばらく暴れるなってすごい忠告をプレンサは受けていたんだけれども。
思い出すだけであれはすごい説教だった。
プレンサを地面に正座させてから街の人たちがしっかり起きるまでの数時間、その一言一句に無駄はなく本気で怒っていると言うことが側から見ても明らか、こんなこと言うのもなんだが俺たちは説教されなかったのか救いだ、なんでされなかったのかについては。
責任を抱えるのがプレンサならプレンサだけが怒られるのは普通だ。らしい。
「お待たせしました。こちらコーヒーになります、」
テーブルに置かれたコーヒーに手を伸ばして、新聞をめくる。ちなみにエルザードは同じテーブルでエルフルと寝ている。今日は久しぶりの休日として朝からカフェに行って過ごしている。たまにはこんな日があってもいいだろう。
「こんにちは。」
「あぁ。ミィーナか、」
載せられているさまざまな情報に目を通す中ミィーナが立ち寄る。服装から彼女が今日はオフであることがわかる。
「そっちも休日?」
「あぁ。ギルドもやってないし他に仕事があるわけじゃないからな。」
ギルドがやってないというのは言葉の通りである。実に不思議なことにここ一週間は冒険者ギルドが閉まっている一時休館日のような形らしく来週くらいにはまた始まると入り口の扉に書かれていた。
そのため依頼がない冒険者などただ休日を謳歌する暇人と化す。俺もエルザードもそしてミィーナにも例外はない。
「私も同じ。プレンサに何かあったのかな?」
「さぁ。もしかしたら辺境伯の仕事でも手伝わされたりして。」
そうしてコーヒーを啜りながら新聞のとある記事に目を止める。どうやら結婚の記事らしい、こういうのは全くもって今までの新聞には書かれていなかったから興味本位でその続きを読んでいくと。
「ブーーーーッ!!!?!」
「うぎゃぁぁぁぁ!!?」
とある一文を目にしてコーヒーを吹き出す俺、吹き出されたコーヒーは寝ているエルザードの顔にクリーンヒット。エルザードは椅子から転げ落ち顔を抑えながらのたうち回っている。
「ゼル!?」
「ごほっ、ごは!大丈夫……っごめんエルザー、、ごほ!!」
「う、うぐん。びっくりしたぁ、いいんじゃがお主の方こそ大丈夫か!?」
あまりにひどい咳をする俺を心配してか、エルザードは自分にかかったコーヒーよりも俺の心配をしてくれる。大したことではない、いや大したことなのかもしれないがとにかくこんな内容誰が見ても吹き出してしまう。
いや特に俺たちならこれを見た瞬間噴き出すことが確約される。それほどの内容だった。これをいち早く見せなければという意思が俺を突き動かす。
「変なところに入っただけ。それよりもこれ!!」
「ぇ、」
「ぇ!」
『─────はぁぁぁ!?』
新聞の隅っこにはプレンサ・フォン・コーナックとクロージャー・フォン・ギリドリス、二人の貴族が結婚するという報道が書かれていた。
「ぇ、ええ!?そんなバカな!ついこのあいだまで殴り合いをしていた仲じゃぞ!?」
エルザードのツッコミはもっともだった、この間殴り合いをしていた二人がまさか結婚。いや待ってくれ全然頭に入って来ない。そんなことがあり得るのか?っという疑問と驚きで脳がいっぱいだ。
「………。」
ミィーナは驚いたまま完全にフリーズ。俺もフリーズしたいがそれにしては頭の理解が早かった。
「プレンサと辺境伯が結婚───かぁ。」
口に出してから頭の中で想像してみる。ウェディングドレスを着たプレンサ、そしてその隣にはギリドリス辺境伯。どうしようかなりお似合いだ、というか結婚するなら?というイフを作ってもあの二人しかカップリングはないだろうと直ちに脳が決断を下す。いや早いよ、でも確かにその通りだよ。
「………意外にお似合い?」
「そうだなぁ俺も思った。」
エルザードの口走りに俺も同調する。驚いてはいるがなんというか今は納得の方が上回っている。あの二人ならいつか結婚しかねない、とか考えていたらもうそれが今目の前に出たような感覚。もうなんというかおめでとう。
「……政略結婚とかじゃないよね?」
「いや無理じゃろ。かたや辺境伯、かたやギルドマスター。ギリドリスはともかくプレンサを欲しがる奴なんぞ相当な度胸もちじゃぞ。」
(どうしよう確かにその通りだ。ただそれを本人の前で言うなよエルザード。)
「うん、確かに……ごめん今の忘れて。」
プレンサが結婚するとなると辺境伯は黙ってないだろうなと容易に想像できる。また反対の辺境伯が結婚するならプレンサが黙ってないだろうなというのも想像できる。もしやこれは約束された未来だったのではないだろうか?
どちらにしせよ、俺たちは身内の結婚を素直に喜ぶしかないのだ。幸いこの中では、いやというかおそらくこの街で二人の結婚に意義を唱える者はいないだろう。意義を唱えるもしくは妨害しよう者ならとんでもない天罰が降るのだろうから。
そしてそこから数日、俺たちの元に一通の手紙が届いた。ギルド当てではなく宿屋当てというかなり珍しい手紙だった。その内容は。
「───か、け!?」
結婚式の招待状だった。驚くべくことにエルザードとエルフルの分もある。いやエルフルまで!?そこに驚きつつこの情報を誰かに共有したいと思いながらミィーナと再び会うと。
「私ももらった!!」
と返された。どうやら俺たちには特別に招待状がきたらしい。たしかにこの5人で集まることは多くてあの時も一緒に行動したけれども、まさか結婚式に招待されるなんて夢にも思わなかった。
「それでどうする?これ行くのか?」
「いや行かないとダメだろ。というか行かないなんて選択肢ないだろ。」
「た〜しかにのぉ。」
「ピィ、ピー。」
行かなかったらどんな目に遭うのか想像もつかないため。俺たちは二人の結婚式に出席することとなった、ちなみに手紙の端に服装はそれっぽいのがあればいいと書かれていた気遣いと受け取りつつ俺は前に王都で買った服を、エルザードは竜力製のバチバチに洒落たドレスを、エルフルは申し訳なさ程度に蝶ネクタイをつけた。
式当日はミィーナとあらかじめ合流して5人で出席することとなった。二人の結婚式は街のとある一角で執り行われた、普通なら教会とかでやるんだろうかと考えながらも二人の結婚式を見ていた。
参加者は俺たち以外にも貴族や街の偉い人や、顔馴染みなどかなり幅は広かったみんな正装があるわけでもなさそうだったので必然的に俺たちの服装が浮いてなくて安心した。
それどころかイメージしていた結婚式よりもかなりラフな形だった、そして二人の入場が始まる。
「おぉ。」
「おー。」
「ピー。」
「綺麗。」
想像していたよりもずっと綺麗なプレンサ、そしてその隣を歩くのは想像していたよりもずっと凛々しい辺境伯、貴族の風格とでもいうのだろうか今の二人はいつも見ている二人よりも一層真剣でそして幸せを見に纏っていたように見える。
その後二人による簡単な挨拶へと移行する。社交辞令的な意味が強くもあった挨拶だが、二人で考えたことがわかるようなしっかりしているわけではない、どこか自由さが伝わる文面が言葉から読み取れた。
そんな挨拶が終わると、次はそのまま結婚パーティーへと移行した。大勢の人が一斉に二人を取り囲んでいく中、出遅れた俺たちは大人しく後ろでその姿を見ていようと待っていた時、
見たこともない料理から馴染みある料理まで幅広く提供され始める。そうだパーティというのに料理はつきもの、そしてそれに例外はない。
「ほぉぉ!!行くぞゼル!」
俺たちは二人の結婚式だというのに食べ物の方に向かっていった。ごめんなさい二人とも、でも俺たちにはこっちの方が性に合っている。
ほとんど人が二人に挨拶を終えパーティへと広がっていく最中。
「のう、ゼル!あれはなんじゃ?」
「俺にも知らない肉はあるぞ!」
「いや違うあれじゃあれ!」
エルザードが俺の服の裾を引っ張りながら視線を映らせる。見ればプレンサと辺境伯の二人が大勢の人に囲まれながら何かをしようとしていた、プレンサの手に握られていたのはブーケ、つまりこれは。
「ブーケトスだ。」
「ぶーけとす?新しい肉かの?」
「違う。あの花束を空に投げるんだがそれを取った者は結婚が約束されるとかいうやつだったと……思う。」
「思う?」
「いや詳しくは知らなくて。」
そんなこと言っているうちにブーケが空へと投げ出される。多くの女性達がそれをキャッチしようと躍起になっている中、男である俺と縁がないエルザードはただ黙って見ていた。
さすがは獣人というべきか、大空へと投げられたブーケはかなり高くまで上がりしばらく戻って来なかったのち、落下していく。本来なら飛距離が伸びないはずなのに自由落下と空気抵抗でそれは見事に回りながら落ち、
「──え…っ」
なんとミィーナの手元に落ちたのだった。
「おぉ。ミィーナのところに落ちたぞ、つまりミィーナが新しい花嫁とやらになるのかの?」
「まぁいつかはなるとは思うけど、そんなすぐじゃないからな。」
「わかっておるよ!だとしてめでたいのぉ。もしミィーナが結婚するなら我、花嫁衣装でも作りたい!!」
「言うなぁ。お前。」
エルザードからそんな新鮮味溢れた言葉が飛んでくるとは意外だ。特段裁縫が得意というわけでもないだろうに、いやだがこいつの服のセンスは確かだ。
「………っ。」
(ミィーナ?)
しかしミィーナの顔はどこか残念そうだった。なんで受け取ってしまったのだろうみたいな顔で曇っている。もしかして結婚にいい思い出がないのだろうか。気にかけてやりたいと思って足を向けたその時、
「ゼル、こっちにくるぞ!」
「ぇ、」
エルザードの声で振り返るとそこにはプレンサと辺境伯がこっちに向かってきている。急いで皿を適当にテーブルに置いて身だしなみを確認する。こういう時なんて反応したらいいのかわからん。
「二人とも、今日は私たちの結婚式に来てくれてありがとう。」
「いや……いえ、こっちも招待してくださって。その結婚おめでとうございます、正直驚いてます。」
緊張しているのか辺境伯の言葉に俺はたどたどしていしまう。
「見た時はびっくりして送られてきた時もびっくりしたぞ!」
「ピィ!」
そして相変わらず二人はいつも通りだ。その度胸を少しは見習いたい。
「私自身も驚いている。まさか、クロージャーから結婚の話を持ちかけるられるなんてな。」
「なんじゃ二人とも一緒にじゃないのか?」
「私からだよ。正直通るとは思ってかった……今も信じられない気分だ。」
「どういう意味だクロージャー。」
二人は結婚式だというのにいつもと変わらない様子だった。なんなら参列者より参列者しているような気までしてくる。しかし互いに前よりも距離が縮まって幸せそうにしていることだけはよくわかる。
「お二人ともお似合いですね。」
「……ありがとう、なんだか照れるな。」
「私もだプレンサ、」
プレンサと辺境伯が共に照れ合っている。かなり珍しい場面だが流石にいじる気には慣れない。なぜなら言った俺ですら少しこそばゆいとか思っているからだ。
「そうだ、ミィーナにも挨拶していってください。」
「愚問だ。彼女には私のブーケを受け取ってもらったんだからな。」
そう言いながら二人は共にミィーナのところへ向かっていった。なんだか暖かい風が横を過ぎていったような気分だった、まだ春の季節には程遠いというのに。
「ふう、まだ食べるかの。」
「開口一番それか。」
「なんじゃ食べないのか?我はまだまだ余裕じゃぞ?」
「いいや食べる!」
「ピーー!」
その後ありったけの料理を食べた後式は無事に終了した。まるで無事に終了したことのない式を見たかのような言い方だが、そうじゃない。二人とも平和で幸せそうに式が終わったことに心の底から良かったと俺が思っているだけだ。
「にしても」
なんだかここ数日すごくあっという間だった気がする。王都から帰って重い話を書かされてグリンドルムと戦って、槍が使えるようになって二人の関係がギクシャクして貴族の家を燃やしにいって、奴隷達を救って、結婚式だ。
慌ただしいにも程がある。どうかしばらくは平和じゃなくてもいいから平穏に過ごせますように、慌ただしいのはいいけど流石にこうも続くといい加減に疲れる。
だからこう願う明日はどうかいつも通りでありますように!




