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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター5「ツイン・アリストクラート」
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148話「突貫」





 善は急げということとなりプレンサは支度をするために一度冒険者ギルドに戻る。俺たちも同行しつつ自分たちの装備を取りに一度宿屋へと戻った。


 「まさか、今夜から行くなんて。」


確かに今も奴隷の子達は苦しんでいるということは理解している。だが即決過ぎないかどうかという懸念点だけはどうにも抜けなかった。


 「なに、なんとかなるじゃろ。」


エルザードは言う。そのなんとかなるは、なんとかなっちまうの、なんとかなる!じゃないといいんだけどなぁっと小声を漏らして支度を済ませて冒険者ギルドに。


 入り口前にはすでにミィーナとプレンサがいた。プレンサは模擬戦をやった時の装備をさらに実戦用にカスタムしたような見た目をしている。ミィーナもいつもの鉄弓を背につけてはいるがどことなく近接寄りな印象を覚える見た目だ。


準備は万端ってとこか。


 「二人とも、早かったな。」


 「それはよかった。で、本当にもう行くんだよな?」


 「あぁ。徒歩で向こうまで行った後、次の夜になった瞬間に目的地を奇襲する。」


 「具体的な場所は?」


 「すでに目星をつけてある。貴族にとって自分の屋敷ほど何かを隠すのに適した場所はない。」


どうやらプレンサは例のベルギンド・フォン・カグラナッチのことをすでに調べ上げていたらしい。場所がすでにわかっているのならあとは突撃するのみと言ったところだ、一見無策のように思えるが、、、。多分無策だ。


 「時間が惜しい、私がああして飛び出したわけだ。すぐにクロージャーが阻止にかかってきてもおかしくはない。」


 (なるほど、ギリドリス辺境伯が妨害ならぬ余計なお世話をしてくる前になんとかするというのもあるのか。)


あのように屋敷を飛び出せば、もしやすぐに仕掛けに行ったのか?っと思って先手を打たれる可能性がある。そうなれば不慮の事故として俺たちは最悪な結末、すなわち奇襲失敗からの罪人みたいなルートもあり得ると言うこととなる。冗談じゃない。


 「とにかく急ごう。」


 「待った!」


プレンサが一声かけると彼女は走り出す。しかしそれをエルザードが制止する。


 「……ここじゃまずいな。とりあえず街の外まで行くかの、ちょっとついてきておくれ。」


エルザードについて行く俺たち、どうやらエルザーには何か移動の手立てがあるようだ。街の外に出て少し歩いたところまで来た。あたりには何もない、それこそ人も魔物も一匹も。


 「エルザード、何をするつもりだ?」


 「足が必要なのじゃろう?それもとびっきり早いのが。」


エルザードはそう言い俺たち3人から離れて人型から竜形態へと移行した。真っ暗闇の中で光るその姿は非常に目立ったが、そんなことよりも俺は再びエルザードの竜形態を見れたことにどこか感動を覚えた。


 「エルザード……、」


 「ふぅ、この姿も久しいな。さて、我が飛んでいけば数時間で着く、少なくともこの夜中には向こう側じゃ。早く行きたいのじゃろう?」


 「……いいのか?」


 「我がしたいんじゃよ。それに見られなければ問題ない。そうじゃろゼル?」


俺に話を振るエルザード、まったくもってその通りなのだが。いや今回は文句を言っている暇はないか。


 「あぁ。でもお前、人を乗せるの初めてだろ、安全運転でな。」


 「もちろん!さ、早く背中に乗るんじゃ。」


俺たちはエルザードの背中に登り乗る。ちなみにシートベルトなんてものはないし、そもそもシートなんてものはない。じゃあどうやって体を固定するかというとロープだ。


 「ちょっとくすぐったいの!」


 「我慢しろ。お前が飛んでいる最中振り落とされでもしたらこっちはたまったもんじゃないんだよ!」


死因が落下死とか洒落にならなさすぎるため。エルザードの胴体にロープを何重にも括り付けたあとそれらに崖を登るときに使った命綱をくくりつける。これで吹き飛ばされても問題はない。いや数時間ずっと身動きできない空の旅を味わうことになるが、死ぬよりマシだろう。


 「あのな、我は別に最大速度で飛ぶわけじゃないのじゃ!」


 「でも不安なんだよ。一度も背に誰かを乗せたことがないならやっぱり!」


 「心配性じゃのう。全員終わったかの?」


エルザードのフライト前の安全確認に俺たちは答える。それを一瞥するとエルザードは大きな翼を広げて飛び立つ準備をする。


 「よぉーし!それではしっかり捕まっているのじゃぞ!!」


エルザードは2回翼をはばたかせ、そしてその足で助走をつけると一気に大空への空気に乗った。体に上からの強烈な風圧がくると同時にしばらくしてそれは安定する。しかし次には真っ直ぐ前からの風が一気に押し寄せエルザードが前に飛んでいることがわかる。


早い。自分の体が予期せぬ風圧を浴びて毎秒びっくりしている。


 「目を瞑って口を閉じてないと舌噛むぞ!」


 「もっと早くに言え!」


今一瞬舌を噛みかけた俺が叫ぶ。エルザードの愉快なフライトは全然楽しくない、というか楽しむ隙すらない。俺たちのことを配慮したスピードがこれだとは随分と言ってくれる。ロープにしがみついてないと危うく振り落とされるような速度で飛んでいるくせに。


夜風の冷たい暴風が常に肌に刺さる感じ、ロープから手を離さないことだけに必死だ。


 「うーん!久しぶりに飛んだがやはりいいものじゃのう空は!!」


 (なんでもいいから早く着いてくれ!)


そう願って数時間、エルザードの速度に体が慣れてくるとロープにしがみつかずに景色を眺めるほどの余裕が生まれてきたところで。


 「着くぞ!」


っと言われて再びロープに手をかける。もっと夜景を楽しみたかったという感想はさておき、俺は再び衝撃の準備をする。登るときにあれだったのだ降りる時はもっと早い。


 「そぉい!」


 「っ!!」


体が何かによって叩きつけられるように降下していく。そしてエルザードが翼をはばたかせ地面と接するギリギリに制止すると、そのままドンっとエルザードは着陸する。このとき体はまるで腹部に重い一撃を喰らったような衝撃が不意に走る。


夕食を食べていれば今のがトドメになっていたことに違いない。


 「うぉーい、大丈夫かぁ?」


 「………っ今度はもっと安全運転で。」


 「ぇ、安全運転じゃなかったのかの?」


どうやら本人無自覚。決めた、今度エルザードの背中に乗る時は免許を取っておこう、エルザードから振り落とされずエルザードの行動をまとめて耐えることができるそんな免許を。そしてエルザード自身も人を乗せるための免許を取らせよう。やっぱり無免許運転はダメだ。


 「ここは、王都の少しハズレか。」


 「流石にこの姿のまま近くに着陸するとバレるからのぉ。よっと!」


エルザードは俺たち3人が降りたことを確認すると軽く人型形態へと戻る。場所は王都の城壁を見ることができる近くの森だ。時間も時間だからかまだ王都には光が灯っている。流石にあの中を行くにも考えが必要だ。


 「よし。まずさっきも伝えた通りこれは奇襲だだから私たちは王都に潜入する、時間はあの王都の明かりがほとんどなくなって城壁に明かりがついた時、登って侵入したのちに、標的の貴族の屋敷に忍び込み、奴隷達を見つけ解放、確実に逃がせることがわかったら屋敷に火をつける。」


 「質問じゃ!屋敷に火をつける理由あるかの?」


 「わざと騒ぎを起こすためだ。そうすればあそこら一体の衛兵達は全員集まっていく、奴隷達が衛兵に保護されれば私たちの目的は完了だ。それと屋敷には奴の財もあるだろう、根こそぎ燃やせばそれこそ後に隠蔽に使う汚い金もなくなる。」


 「真実を明らかにして、同時に戦力も削ぐってことね。」


 「そういうことだ。」


なんというかさすがはギルドマスターを名乗れるだけある、俺たちをまとめるのが上手いというか作戦立案の速度も早ければ隙もない。俺もこの姿勢は見習うところがある。


 「手早く行こう。エルザード、君は壁を破壊できるか?」


 「強度が民家くらいの壁くらいなら破壊できるの。」


 「よしなら屋敷に着いたら私たちは警備達を無力化。そしてエルザード、君は壁や床を容赦なく破壊して地下室など奴隷達を隠している場所を探し当ててくれ。ゼル、君は最後に炎で屋敷を燃やす係だ、行けそうか?」


 「任せてくれ。ただ、全員出たかどうかの合図は欲しいな。」


 「わかった。エルザード、もしくは確認できた者がいたらなんでもいいからゼルに合図を送ることにしよう。」


 「ベルギンド・フォン・カグラナッチはどうする?」


ミィーナの最後の質問にプレンサは少し沈黙した。がその後迷いなく口を開いてこう言い放った。


 「……生かそう。だが扱いは適当でいい、窓の外から放り投げても構わない。奴には生きて罪を償ってもらう。」


 「了解。」


こうしてベルギンド・フォン・カグラナッチの屋敷を襲撃する手立てがついた。あとは目的の時間を待つだけだった。プレンサの言っていた通り街の明かりが消えて、代わりに大壁に明かりが灯される。


この瞬間から俺たちは行動を開始する、余計な私語は厳禁となり俺たちは目的を達成するためだけに集められたエリート集団のように闇夜をかけながら城壁に近づく。


エルザードが小さな翼で飛び立ち城壁の上へ。そしてしばらくしたのち、気絶した兵士が上から放り投げられる。筋書き通りだとこの兵士を一撃で気絶させることとなっている、声がまるで聞こえなかったところからエルザードは成功したのだろう。


上から顔を見せたエルザードはロープを垂らし俺たちにそれを上らせる。そして静かな街の中をかけていき、一気に上流域へと侵入する。

ここまでくると警備は厳重だが、流石に屋根の上まで警備がいることはなかったため屋根を飛び飛びで目的地に向かう。場所に関してはプレンサのガイドが頼りだった。


 (はぁ、こんな形で王都に戻るとはなぁ。)


今更ながら後悔、しかしもう遅い。俺達は目的地であるベルギンド・フォン・カグラナッチの屋敷にたどり着いた。

今はその屋根だ、外の警備は厳重だが、うちの警備はそこまでだ。これもプレンサの言っていた通りだった。


 『内に隠し事をしている貴族はたとえ衛兵であっても見られたくない。奴は家の中には警備を置かないだろう。』


プレンサの予想通りだった。私兵だとしても、できるなら記録は残したくない。いかにもずる賢い奴が考えそうな手だ。家の中への侵入はかなり楽だった。俺とエルザードは侵入、ミィーナとプレンサは外の警備を一人ずつ無力化する役割だ。屋敷は驚くほど静かだった。それこそ死人がここを使っているんじゃないかという静寂すら流れる。


 「ゼルの魔法があって良かったの。」


足音を消す魔法、気づかれにくくなる魔法などをかけているためたとえ誰かに見つかっても確実に闇の中なら先手を打てるのであった。


 「壁を壊すと言ったが、まずは全体を。」


 「あぁ、探索したあとだ。急ごう。」


手分けして屋敷を探し回る、扉を慎重に開け中の様子を確認する。俺は魔法を使って部屋に違和感がないかを探し、エルザードは優れた感覚によってそれを探し出す。だがほとんどは空っぽで何もない。


ここまで大きな屋敷に住んでいて使用人の一人も止めてないとは一周回って違和感しかないものだ。エルザードと合流した俺は、ある部屋の前に立つ。


そこはベルギンド・フォン・カグラナッチのいる部屋だった。なぜわかるか?もちろん透視の魔法を使っているからに決まっているキングベットにふんぞり返ってみるからにブルジョワの奴の姿、正直目の毒だ。プレンサが窓からぶん投げてもいいと言った理由がよくわかる。あれは投げ甲斐がある。


 「この部屋じゃな。」


 「俺は奴を魔法で拘束する。エルザードはそのうちに破壊しろ。」


 「了解なのじゃ……!」


エルザードは待っていたと言わんばかりの顔をする。そして俺たちは部屋に侵入して同時に即座に行動する。


 「もごっ!?」


まずターゲットであるベルギンド・フォン・カグラナッチの口元を封じて喋れなくする。だが残念なことに俺は気絶の心を学んでいないので魔法で強制的に眠ってもらうことにした。


 「ふ、、ご。」


 (魔法の効きが良かったな。)


起きる危険性も兼ねて耳栓というなの不愉快なロープの切れ端をこいつの耳の中に入れる。

そしてエルザードはそんな俺を見た後


 「ふんっ!!」


壁や床の破壊行動に努めた。破壊するのはこの部屋だ。理由は単純この部屋以外に怪しい部屋がないということは、この部屋が奴隷達が閉じ込められておる隠し部屋や地下室などに繋がっている可能性が高いからだ。


 [ゴォん!]


 「ぉ!」


ビンゴだ。エルザードの一撃によって大きく曲がった鉄の地下通路が姿を現す。竜腕によってエルザードがそれをメキメキと引き剥がし蹴りで蓋を飛ばした後、中へと入っていく。あとはエルザードが来るのを待つだけだ。


 しばらくして、エルザードが奴隷達を引き連れてきた。どうやら事情の説明こと対話には成功したらしい。自分的にはエルザードが奴隷達を怖がらせないようにできるかが不安要素であったためそこが問題なく言ったことは喜ばしいことだった。


 [ドォン!]


 「こっちじゃ、静かにの!」


エルザード近くの窓側の壁を破壊して無理やり外への通路を開く。奴隷達は一瞬驚きはしたがエルザードの声の通りに外へと走っていった。エルザードが俺に対してオーケーサインを出すと、仕事の始まりだ。


 「おっら!!」


ベルギンド・フォン・カグラナッチを窓から勢いよく放り投げる。バリーンとガラスが割れる音と共に何かの悲鳴が聞こえる。そしてエルザードは息を大きく吸い、そして俺は火球の準備をする。


エルザードのブレスと俺の火球による大火災が始まる。奴隷達は全員外に逃げているためもはや容赦をする必要はない。ここにある全ての悪しき痕跡を燃やし尽くしてやるのだ。


 「む!エルザード、こんな紙切れが見つかったぞ!」


 「これは、、よし。」


その紙切れは契約書だった。それも奴隷取引の、これは使えると思った俺はそれに防火の魔法をかける。種は植えれるだけ植え付けておけば後に芽が開いた時、大変なことになると誰かが言っていた気がする。今回はそれに則る。


 「エルザード、撤退だ!」


火の音と違った音が外に集まってくる。それを聞いた俺はエルザードに声をかける。


 「わかったのじゃ!ゼル、少し失礼するぞ!」


 「失礼って───うおっ!?」


エルザードが俺を抱き抱えると、翼を広げて大きく跳躍した。外に集まっている衛兵は屋敷が大炎上していることに夢中で俺達の姿に気づいていなかった。


 そしてエルザードに抱えられたまま、後ろで燃える屋敷を後にあの時エルザードが降り立った森へと再び戻ったのであった。そこにはすでにプレンサとミィーナの姿があった。

こっちに手を振っている。


 「ご苦労だった!」


 「いやぁ!楽しかったぞ!!」


 「それは良かったが、いい加減下ろしてくれ。」


ずっと抱き抱えられたまま降りれない俺に気がついたエルザードは丁寧に下ろしてくれた。


 「奴隷達は無事保護されてたよ。」


 「そうか、良かったのじゃ!」


外を担当していた二人は奴隷達がしっかり保護されるかどうかの確認まで行っていてくれた。


 「おまけに奴もな。頭にガラスの破片が刺さった痛々しい姿だったがな。」


プレンサの言葉から読み取るには相当いきが良かったらしい。にしても頭にガラスの破片とは、投げた自分が言うのもなんだが可哀想なことをした気がする。まぁ犯した罪に比べれば些事なんだが。


 「これにて任務完了じゃない!戻ろう!!」


任務完了だが、決して平和な雰囲気じゃないな。やけに明るい王都を見つつ心の中で思い、俺達はレオーナの街へと戻っていった。帰りのエルザードフライトは行きよりも少し快適だった。



 レオーナの街に着く頃にはほぼ夜明けであった。俺たちは夜通しずっと起きていたのにも関わらず眠気は全く起きなかった。まるで楽しいことで夜更かしを全力だしたような清々しさに似た何かが残っていた。


まだ人が起きるには早い時間であったため、プレンサをギルドに送り届けてから宿屋に戻ろうとしたところ。


 『………。』


街の入り口には辺境伯が立っていた。それも仁王立ちで、その顔には俺たちがしたことを知っていると書かれているような表情が浮かんでいた。うん、ずっと言わなかったけど一番の懸念点は辺境伯が俺たちを叱りつけることだったんだなと再認識。だが彼の叱りなら受ける覚悟はすでにできている。


だって俺たちはプレンサを止めてくれと言われたのにも関わらず、その手伝いをしたのだから。そりゃあ殴られるだろうが叱られるだろうが何かしらの罰を覚悟しないわけにはいかない。どちらにせよ頼みを断ったんだがからな。


そう思って俺は、まっすぐ辺境伯のところへ向かおうとする。


 「……プレンサ?」


しかしそれを手で止めるプレンサ、彼女は俺たちの顔を見てここは任せてくれと小さく呟く。そしてゆっくりとただ一人待っている辺境伯の元へとゆっくり歩いていった。プレンサが辺境伯と向かい合うような形となり、互いに手を伸ばせる距離になると。


 [ドゴっ]


 「な!?」


エルザードが驚きの声を上げる。俺もミィーナも驚いて、逆に声が出なかった。なんとこともあろうか辺境伯はプレンサのことを殴ったのである。しかも平手打ちだとか生やさしいものではなく、グーのパンチで。


いくら勝手な行動をしたからと言って、それはあまりにも。っと思っていると。


 「………っ!!」


 [ドゴォ]


 「殴り返した!!?」


エルザードが驚きの声を再び上げる。何も言われず黙って殴られると思うなとプレンサが言い放ったように聞こえるその拳は、辺境伯に殴られた位置と同じ部分に跡をつくった。


 「てぇ!!」


 「うおぉ!!」


二人は激しい殴り合いを開始した。それは激闘とょでも相応しかったが、俺からみると夕陽を背に殴り合いをしている友人同士のように見えたような気もする。いやそんなことはない明らかに両者、ボコボコにする気で戦っている。


 「と、止めるべきかの?!」


 「……いや。」


止められるものなのだろうか?合間に入れば邪魔だと一蹴され、とんでもないカウンターを二人からくらわせられる未来が見える。

流石にこの戦いに介入することはできない、したらしたらで大変だし、しなくても多分そのうち決着がつくタイプだと俺は思ってただその行く末を見ていた。


 いつしか拳がぶつかり合う音と共に二人の本音が漏れ続けていた。


 「私がどれだけ心配したのかわかっているのか!?」


 「わかるものか!」


 「お前はいつもそうだ!すぐに勝手なことをして!!旅の時も、お前が晩飯を作った日は最悪の1日だった!」


 「貴様こそ晩飯を作ると言っておいて、それは朝食になった!!いつになったら考えすぎる癖を!!」


 「考えなしのお前が──!」


 「頭でっかちの貴様が──!!」


二人の殴り合いは続く。


 「毎日他の貴族がどうとか!ふざけるな、なぜあいつらに言ってやらない!あいつらはお前の陰口をひたすらに言っているのにな!」


 「お前こそ、貴族達からどう思われているか知っているか!バーサーカーだの、暴れ馬だの!秩序を破壊する悪魔だの!全て事実だな!!」


 「仮面を作ってばかりの貴様がいうことかっ!!」


 「お前の後始末を何回したと思っている!」


 「うるさい!」


その会話は、いや会話とも言えない何かは最初から支離滅裂だった。だがその支離滅裂さが二人の関係及び歴史を物語っているように見て取れる。


 「お前は最悪のパートナーだ!」


 「こっちこそ!貴様は最低のパートナーだ!」


 「はぁ、お前のような。わからずやは──!」


 「お前のような石頭が──!」


 『私(俺)は!大っ嫌いだ!!』


最後の一撃と言わんばかりに、両者拳を握りしめて顔に一撃を喰らわせる。息を切らしボロボロの二人。

だが優勢だったのは意外にも辺境伯だったのか、プレンサにゆっくりと近づいていく、迎撃を取ろうと拳を伸ばすプレンサの手を引き、辺境伯はプレンサを抱きしめたのだった。


 「今度は抱きしめた!?」


 「エルザードうるさい!」


幸いにも俺たちの声は届いていないらしく二人はそのまま会話を続ける。なんというか俺は今一つのドラマを観ている気分だ。


 「二度とこのような勝手な真似をするな…!」


 「……お前のほうこそ、私の知らないところで勝手に殺されるなよ。お前は、いっつも私の恨みを引き受けすぎだ。」


 「当たり前だ。俺たちは仲間なんだからな。仲間が困っているなら助けるのは当たり前だ。大馬鹿者。」


 「……、言ってくれる。いつもお前を助けていたのは私なのになっ。」


朝日が昇る。二人の殴り合いというか何かのドラマはこうして幕を閉じた気がする。それを黙って見ていた俺たちは、戦いが終わった二人の元へと向かっていく。なんて声をかければいいんだろうか全く、と心の中で思いながら。




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