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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター5「ツイン・アリストクラート」
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146話「戦闘努力」





 「……今日は、どうするか。」


ベットから起きた俺は身支度を済ませて、今日のやることを考える。いつも通り依頼に行ってもいいがそれにしては朝早く起きすぎた。この時間帯じゃエルザードですら


 「zzz」


この通りに眠っている。寝起きがひどいエルザードを、今ここで起こすことは一番良くない。だがこのまま着替えて何もせずにいると言うのも変な話、少し体を動かすがてら冒険者ギルドに行ってみよう。


 「………」


 街は静かそのものだ。まだ眠っている人が多い時間帯、そりゃあ早く起きて仕事に行く人はこの時間帯だろうが、だいたい余裕のある生活をしている人はもう少し遅い。これに則るなら俺は前者の部類だな。


依頼を二つも達成したおかげか経済的に余裕ができた。エルザードの食費は日に日に増えていてもそれを上回る分だけ稼いでいればまぁしばらくはなんとかなるのだ。


 「流石にギルドもか。」


ギルドに辿り着いていてもあまり光景に変わりはない。朝から勤勉に働く冒険者たちは掲示板を見ていたり、昨日深夜まで働き詰めだった冒険者はやけ酒の末に机に突っ伏していたり、宿屋まで体力がもたなかった者は椅子をベットにして寝ている。


これでは荒くれ者の墓場のような雰囲気だ。いつものギルドがそうじゃないと言うわけでも特段ないんだけど。


 [ギィン───シィキィィ!]


 「ん?」


外で何やら戦闘の音が聞こえる。だが戦いにしては妙にリズムがある、本当の戦いというのは音が不作為に乱立し殺意の空気がするものだ。


 俺は音がするギルドの訓練場の方に向かう。そもそも考えてみれば訓練場でやることなど、訓練に他ならない。


 「はぁぁぁ!!!!」


 「──ッ」


訓練場には数人の早起き冒険者たちが二人の獣人の戦いを閲覧している。そしてその二人というのは俺が知っている人でもあった。


 (ミィーナと、プレンサ?)


二人が互いに剣を交えていく中で観客たちは関心の声を漏らしている。二人の動きはとても早い、獣人であってもあのスピードを常に維持し続けるには相当な手だれ出なくては難しい。俺は人間だけどあの動きをギリギリ目で追えている。


 「はっあ!!」


ミィーナは珍しく弓を使っていない。二刀の短剣だ、普段の主武器は弓なのに、何か理由があるのだろうか?

対してプレンサの二つの剣、レイピアと呼ばれるものなのだろうか?素早い剣戟がミィーナの動きの合間に差し込まれ、守りの型として確立している。


短剣で戦い慣れていないミィーナはフィジカルをフル活用しているようだが、プレンサの余裕から差はどんどん開いていく。そして。


 「───!」


 「ッぁ!」


手加減していたプレンサが動き出し、ミィーナの首元に剣を置く。ギルドマスターである彼女の勝利だ。いや、そもそもこれ試合なのか?


 「──っ。」


 「流石に腕は鈍っていなかったようだ。」


 「……ギルドマスターが、腕を鈍らせたことなんてあるの?」


 「あるさ。」


プレンサが剣を収めると二人の戦いは終わった。どうやら小休憩の時間らしく二人とも水を飲みに行った。空いた訓練場に誰かが割って入るなんて空気はない。みんなさっきの戦いに憧れと関心を抱いて感想を漏らしている。


 「すっげぇ。やっぱりギルドマスターは流石だよなぁ。」


 「なんというか動きが洗練され尽くしていた。相手をしていたあの獣人も中々だったな。」


 「確か、あの人元々弓使いじゃなかったっけ?」


 「それで剣もある程度使えるのか?うわぁ、ダブルウェポンか〜羨ましい。」


ダブルウェポンというのは確か二つの武器を扱える特別な人を指す言葉だったはずだ。これは二種類の武器を操れる。もしくは一種類だが二刀流のような両手で操れる。のダブルミーニングがあったはずだ。そう言った意味では今の戦いはダブルウェポン同士の戦いということになる。


 「おい、戻ってきたぞ。」


二人が互いに戻ってくる。ギルドマスターは自分たち以外は使わないのか?っと愚痴を漏らしている。対してミィーナは好都合と言わんばかりだ。


それにしてもなんで二人は模擬戦をしているのだろう。気になりはする。


 そこから二人の戦いは数分にわたって繰り広げられた。そのうちどんどんの観客も増えていき、次はどっちが勝つか?どっちに賭けるか?みたいな物騒な話まで聞こえてくる。


がそれもここまでだ。


 「ミィーナ、今日はここまでにしよう。」


 「……はぁ。はぁ。」


ミィーナは完全に息を切らしている、がプレンサはというと全然だ。これはさすがギルドマスターとでも言えばいいのか、普通にとんでもない体力。


 「……興が乗った!私とやり合う者はいるか?」


プレンサが剣を上げ、観客だった冒険者たちに視線を向ける。しかし誰一人前には出ない、そりゃそうだいくらギルドマスターと戦える機会だとしても完膚なきまでに叩きのめされればそれは笑いものになってしまう。ミィーナほど善戦しなければ、ほとんど意味がない。まさにハードルは上がりっぱなしだ。


 (。)


誰一人行かない中、俺は槍を片手に人ごみをかき分けながら前に出てくる。


 「ほぉ、君か。武器を新調したのか?」


プレンサは俺の姿を見ると驚きつつも待っていたみたいな顔をする。俺はギルドマスターと面識があるという感じを残しつついた冒険者として彼女と会話のキャッチボールをする。


 「そんなところだ。でも慣れてないからこういう時に慣らしたい。」


 「それで私か。随分と低く見られたな。」


 (いや別にそんなことないんだけどな。)


プレンサが不敵に笑う。熱が入っている彼女はいつも以上に好戦的に思える、本来がこんな感じなのだろうか、めちゃくちゃ物騒である。


 「構えろ。」


 「……。」


俺は武器を振るって、すでに構えていると伝える。俺のこの武器は両手で扱うものではないどちらかと言えば片手で振り回す部類の武器だ。決して小型じゃないものの、片手槍にでも分類するものだろう。だから下手に構えれば次攻撃した時にズレが生じる。もしくは扱いづらいと感じる。


 (とか思ったりしているけど、実際は型なんかないから適当にしているだけっていう。)


 「───!」


睨めっこしている中、プレンサが仕掛けてくる。両剣を利用した素早い剣戟、くるとは思っていたが戦い慣れていない俺は一つ一つ目で追うのがやっと、で防御に徹する。


 「ハ!」


突きが飛んでくるがそれを槍で無理やり弾き飛ばす。数回しか振るったことがないというのに俺はこの武器の扱いをまるで最初から知っているように動ける。

どうすればいいのかが常に頭の中にインプットされていくようだ。


 「どうした!打ち込んでこい!!」


 「ッ!」


その言葉を言われて初めて攻勢に出る。もちろん使い方なんてわからないはずなのに、俺はまるで熟練の槍使いが如く武器を振るってプレンサに攻撃を仕掛けていく。


いずれも弾かれたり避けられたりしているが、押してはいる。


 「ッ」


耳元を掠める剣先。槍で押し返しながら、振り下ろす。気づけば俺たちは息も切らさず数分間撃ち合いをしていた。


 戦いは激化し、もはや模擬戦という範疇に収まっていない、相手もこっちを殺す気でかかっている。戦い慣れしていない俺はいくら槍を上手く扱えたとしても限度がある。だから魔法を使って合間合間の誤魔化しを行う。


魔法を使ったせいでプレンサという油にさらに火がついてしまったらしい。文字通り使ったのは炎系だけどそうじゃない。


 「!」


俺は隙を見て槍を投擲、もちろんプレンサには弾かれる。俺は武器がない状態、しかしあの槍ならこんな使い方だってできる。

投擲した槍を消し、手元に戻す。そして勢いづいたプレンサに向けて薙ぎ払いを行い、バランスを崩したところで穿つ。


 [ギィ──ッパギイン!]


プレンサの剣は耐久力の限界に達し、ガードをした際に折れた。対して俺の武器は傷ひとつついていない。この模擬戦、俺の勝利だ。


 「…………私の負けか。」


とプレンサは呟く。だが俺からすればこの槍は決して壊れることがない。ゆえに耐久力の差で勝てたのだ、もしプレンサが同じほどの耐久の武器で相対していたのならいまだに戦いは続いて、スタミナの関係で俺が負けていただろう。そもそも武器を消して手元に戻して攻撃など初見殺しにも程がある。このレベルの相手だと二度目は確実に対策されるものだ。」


 「すっ、げぇギルドマスターに勝った。あのエルフ何もんだよ。」


 「見たことない魔法も使ってたよな?あの武器を消したやつとか、」


ザワザワと辺りが騒がしくなる。目立つためにここにきたのではない、それに模擬戦ももう終わりだ。


 「ギルドマスター、ありがとう。」


 「こちらこそ、いいものを見させてもらった。誇るがいい君は私に勝った、全く使い慣れてないなんてまるっきり嘘じゃないか。」


 (本当なんだけどなぁ。)


そりゃブンブン振る分には使える自信はあったけど、この槍の真骨頂はそんなもんじゃないってわかっている。だからそれまで引き出せた時、俺は完全に使い慣らしたということになる。かなり先の話になりそうだが。


とりあえず俺は色んな人の注目を浴びながらその場を去った。程なくしてプレンサがまた対戦相手を希望する。この人他の仕事は大丈夫なのか?


 「ゼル。」


 「ミィーナ、」


 「すごいね、プレンサに勝つなんて。」


 「あぁ。まぁ…勝つつもりなかったんだけどな。」


 「そうなの?」


 「槍をどんなもんか試したかっただけだから。プレンサくらい強い人とやらないときっとグリンドルムの時に弱くなるんじゃないかと思って。」


 「………そう、なんだ。」


 「そう言えばミィーナはどうしてプレンサと?」


 「え、っと。。」


 「あ、言いたくなかったらそれでもいいから。」


 「……うん。、まだ秘密。」


 (秘密か。)


それはいつか明かしてくれるってことなんだろうか?っと心の中で思う。こうして早朝からのハードなトレーニングこと模擬戦は終わった。程なくして朝がやってくる。槍もある程度使えるようになったことなので、その日はねぼすけなエルザードと合流して少し難しい魔物狩りの依頼へと乗り出すのであった。




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