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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター5「ツイン・アリストクラート」
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144話「聖域の悪性」





 「てぇりやぁああ!!」


エルザードがグリンドルムへ近接戦を仕掛ける。しかしら案の定攻撃は通らない。あの流体的な体は文字通り衝撃を緩和し、効いていないのではなくどちらかというと受け流している。


鋼鉄の肉体で弾かれているのではない、弾力性のある肉体によって受け流されている、なら戦いようはある、のだが!


 「ゼル!槍は……!?」


 「簡単に言うな!」


あの槍は出てこない。いや出せる気がしない、まるでまだその時じゃないと俺に囁くように。


あのグリンドルムと戦った時のように槍はこの怪物に対しての有効打になるかもしれない。だがそれも出せたらの話だ!


 「エルザード、気をつけろ!」


 「うんぬ!」


エルザードを巻き付けようとする触手。

以前のような手の形ではなく、今度は見た目からして触手だ。先端が丸くそのしなやかさはまるでスライムのよう。


 (……スライム、確かに似ている!)


弾性があり、水のように身体をある程度自在に変えられる。もしこのグリンドルムがスライムと同じような特性であるなら、有効な攻撃手段が存在する。


スライムの一番対処方法は物理攻撃だ。

言っていることが矛盾していると思われがちだがこれは本当だ。ある程度物理に強くても、それは無効化しているわけじゃない。相手の耐性を超えるような攻撃をすれば有効打になるというわけだ。


キャパをオーバーさせることによって、ダイレクトに火力を当てる。

このグリンドルムにはスライムと違い魔法攻撃に耐性があるため、ならば物理の方がマシと言ったところだ。


 「………よしっ!」


ミィーナが弓を引く姿を見て、ピンと来た。弓を引いて撃つように、エルザードも引いて撃てばばいいのだ。命中性は本人の技量次第として、いまの状況ならできる。


 「エルフル、伸びれるか?!」


 「ピィ!!」


 「よし、木に巻き付いて取れないように──エルザード!!!」


 「!」


前線を張っていたエルザードが退き、その隙を埋めるように俺が前線へ、そしてすれ違いざまに伸びたエルフルの先頭を押し付ける。


 「──勢いをつけてっ、一発入れてやれ!」


 「ピィ!」


 「なぁるほど…ッ!!」


エルザードは猛スピードでエルフルをその手で掴み、グリンドルムがいる方向と対照方向に向かっていく。必死に木に縛りついているエルフルを他所に竜としての馬鹿力を利用して限界まで引っ張る。


それこそ、エルフルが今にもちぎれてしまうのではないかと心配になるレベル。エルザードが渾身の一撃を準備するため、俺はグリンドルムの注意を引き続き、回避行動だけに専念する。


 「!」


一本の触手が膨らみ、面積を増す。そして俺に向かって振り下ろされる。だがそう、なんどもやられるほどの人間じゃない。土魔法を使い、地形を操作、小クレーターを作り、振り下ろされる弾力ある攻撃をなんとか回避する。背中は地面、目前は触手。


もう一度振り下ろされる、もしくは目の前の触手がクレーターの形となったら俺の体は叩き潰されたように粉々になっていたところだろう。

だがこっちの方が一歩早い。


 「いっけぇ!エルザード!!」


 「ぬぅォォォォォ!!」


エルザードの叫び声、エルフルが伸びただけ縮み、エルザードはまるで竜人バリスタの矢のように弾き出され一直線にグリンドルムへと飛び出す。グリンドルムは意識外からのエルザードの攻撃に反応できなかった。


 [ドォン!!]


直撃を受けたグリンドルムの体が弾け飛び、ギリギリだった俺はグリンドルムから解放される。


エルザードのバリスタドロップキックによって中心から少しズレたところに大穴をあけたグリンドルムはまるで心臓付近を抉り取られた人間の体のよう、核に当たる部分を露出していた。


 (今ならっ!!)


 手に強烈な違和感を感じる。何も握っていないのに何かを持っているような感覚、これはあの槍が出せる。そう確信し走り出す、同時に槍を自分の中から取り出す。


俺を新たな標的へと据えたグリンドルムの防衛攻撃、エルザードを迎撃していた時よりか遥かに激しいそれらはまるで俺、いや槍を恐怖の対象と受け取っているようだった。


俺の身体能力ではこの攻撃を交わしきれないかもしれない。だが槍を持っているのなら話は逆だ、これであればグリンドルムの攻撃であっても、意味はなさない。


 [ス────パジィン!!]


振り下ろされる触手を先ほどと打って変わって斬り伏せる。かなりシビアであるがタイミングさえ掴めばこの触手を両断することができる。だが何度もしている暇はない、チャンスをものにするため俺はさらにグリンドルムの懐に潜り込む。


核まで目と鼻の先。その時、グリンドルムは最後の悪あがきが、体の半分を使い露出していた核の周りを瞬時に再生し始める。治りかけほど脆い部分はないがこの武器で貫くにはやはり弾力がまだ邪魔だった。貫き通したとしても長さと、力が足りないのだ。


あと一歩だというのに。


 [ピィ……ッン]


 「!」


その時、全く交わらない二つの何かが俺の中で繋がったような気がした。閉ざされていた道が繋がり、俺と槍との間にある繋がりがより一層強まる。今までできなかったこと、この槍の使い方をもっと知ったような気がした。


同時に、今覚えた悔しさを丸ごと覆せるほどの力を持ったと自覚する。これなら足りなかったあと一歩を進むことができると。


 「ッ」


槍に力を込める。槍は俺の意思に応じたのかガキンっと音を立てて変形する。一見アンバランスのような隙間が開いたと思ったらそこから青白い光が漏れ出す、いわゆる形状を保たれたビームのようなものだった。不安定なのは一瞬、ビームは光る鋼鉄のようにその全体を構築し一つの刃として確立した。


この白い光には、この悪性を打ち滅ぼせる強い力がある。


 「そこだぁぁぁっ!!!」


全部なんとなくだ、確信はない。けれど同時に今、槍以上に信頼を置けるものはない。

両手に力を入れ、核があった場所に向かって穿つ。光の鋼鉄は弾力のあるその肉体をまるでバターのように貫き、そしてその最奥にある核を見事に真っ二つに切り伏せた。


 [パキ]


確実にとった音が聞こえる。いまだに黒い液状の中に浸かる槍の刃からグリンドルムを倒したという確信を感じ、槍を勢いよく引き抜く。


 「…………ッ────!!」


グリンドルムの眼球達はいっせいに激しく動き回る。なにかまずいと感じた俺は大きく後退する、そして奴の体は内側から何かが溢れ出すように歪な形へと膨らみ、ついには爆散した。


爆散する際、まるで風船が割れるようにその中は空だった。まるで悪性が一滴残らず空中に分解消滅していったみたいに、嵐の後の静けさを現す終わりであった。


 「!」


グリンドルムの核である部分が光と共に消え失せる時、同時に光粒が空っぽになっていた泉に戻る。光は神秘的な水の形として再びそのあり方を取り戻したのであった。




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