141話「誰のため?」
レオーナの街に戻った俺達はそのまま依頼の報告に向かう必要があった、しかし。
「ゼル、お主は先に宿屋に戻っておれ。依頼の報告は我と辺境伯が行う。」
「エルザード?、って辺境伯と?」
「あぁ、今回の一件で気になることがある。私もプレンサと話し合いたいことがある。それに君は腕に重傷を負っている今日は宿屋に戻って早く休んだほうがいい。」
というわけで俺はミィーナに肩を貸してもらいながら宿屋へ。対してエルザードと辺境伯はギルドの方へそのまま赴いて行った。いまだに状況が完全にわからないものの、とりあえず俺も自分自身が怪我人であるということを自覚して宿屋での休息に勤しむことにした。
「ありがとうミィーナ、随分手をかけた。」
「大丈夫。それより貴方は休んで、」
「ピィ。」
「……二人ともそう心配しないでくれ、この程度ならすぐに治る。魔法だってあるから時間はかかるかもしれないけど数日休めば───」
「……どうして?」
「ぇ、」
「どうしてあの時私を助けたの?」
「。」
ミィーナが俯きながら俺に質問する。手で服を強く握りしめながら、悔しそうに、不思議そうに聞いてきていた。
なんで?とか聞かれても。と俺は口ずさんで
「顔見知りが危うく死にかけたんだ、なら腕をかけてもなんとか助けに行くべきだって思って、あの時俺は前に出た。それだけだよ、」
記憶喪失だからとかそんなのがあってもあの雪山からここまでよく知っている人物はエルザード、エルフルに、そしてミィーナだ。そんな人物が一人でも欠ける、なんてことがあったら多分俺は自分を許せない。なんであの時助けられなかったんだって後悔する。だから、助けた。こうしてまとめてみれば案外俺は自己満で動くタイプなのかもしれない。
「それだけ……?」
「大した理由じゃない、本当にそれだけだよ。だってなんでも目の前で誰かが死ぬなんて冗談じゃないだろ…?」
「死ぬかもしれないって、考えたことはないの?」
「考えて──いないわけではないと思う、でも自分が死ぬより目の前の誰かが死ぬことの方が耐えられない。」
多分これだ。
「そう、なんだ。」
「あぁ、だから今にも泣き出すような顔なんてしないでくれよ。」
「……な、泣き出しそうになんてなってない。」
ミィーナはそっぽを向く。でも声には張りと明るさが戻っている。この感じなら大丈夫そうだな。なんか怪我人が助けた人を導くなんて、体だけじゃなくて心も使うとか、案外楽じゃない。
「さ、、て。俺は寝るよ、今日は疲れた……」
血も出たし、何より一番精神を使った戦闘でもあったからか安心したら眠くなってきた、ミィーナがすぐ近くにいる中、彼女を帰らせてから眠るべきなんだろうが、そこまで意識を保てる自信はない。
彼女が俺に向かって何か言っていた気がするが、その前に俺の瞼と意識がいち早く落ちた。
「ぁ、」
次目が覚めたのは朝だった。窓から差し込む陽の光に俺はゆっくり体を起こそうとするが、腕に激痛が走る。そうだ、そうだった。自分は腕を負傷していたんだと思い出す。てことはこの記憶にあるものは夢じゃない。
昨日は疲れて話してそのまま寝たんだったとそこまで思い出す。
机の上にはいつも通り眠った状態でピクリとも動かないエルフルと。
「───。」
椅子に座ったまま寝ていたミィーナの姿があった。え?どうして。
(ちょっと待て、なんでミィーナがここにいるんだ?)
記憶を探ってみる。同時にその理由になることも探すが、何一つ見つからない。いや本当になんでミィーナがここにいるんだ?ミィーナは昨日帰してはないけど、流石に寝ている人をずっと見ていたみたいな感じなことはしないだろうし、いや本当になんで?
「……ゼル?目が覚めたの?」
「ぁ、あぁ。ミィーナ、どうしてここに?」
「…?どうしててって、ゼルの看病。」
「看病?」
「そう、看病。エルザードが前にゼルが10日間も眠っていた時は、こうしてすぐ近くで見ていたから……もしかして間違ってた?」
「い、や。(ミィーナって、もしかして誰かの看病とかしたことないのか?)」
いやミィーナなら考えられなくもない。だって前に聞いた話だとずっとソロで活動して誰ともパーティを組まなかったって、だからこれという看病の方法も知らないってことか?んん?いやでもそれは俺も同じだ。俺も誰かの看病はやったことない、ただこの状況がなにか変なのはわかる。
「い、、や……間違ってないと思う。でも普通に通いがけみたいな感じで良かったんじゃないか?ずっとここにいたってそんな意味は───」
「もしかして迷惑だった?」
「………そんなことはない。」
素朴な疑問だったが、彼女の凹んでいるような顔を見て、そうじゃないとしか言えなかった。ただなんだろうミィーナはエルザードやエルフルと勝手が違うせいかなんかあんまり落ち着かない自分がいる。いや多分こんな感じの距離感で接してないせいだと思うんだけど。
「じゃあよろしく。」
「あぁ。」
なんか妙な感じで、看病生活が始まったような気がした。でもまぁ本人がやりたいようにやっているなら今はそれでいいか、幸い責任感でやっているわけでもないっぽいし。




